第112話 家族への想い
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幼少期にリゼが住んでいたカールハインツ公爵邸の跡地へ向かうため、僕たちは新風力車に乗って帝都から移動を開始した。
リゼが6歳のときに発生したカールハインツ公爵家毒殺事件。
生き残りはリゼだけで、皇帝である父上がリゼを養女として引き取った。
現在、旧カールハインツ公爵領は、皇帝の直轄地になっているとエルが教えてくれる。
もとは帝都に隣接する領地だったので、優秀な軍馬よりも速い新風力車は20分くらいで到着してしまった。
僕たちは新風力車から降りると、クラウを先頭に周囲を警戒しつつ、入口の門を通り跡地に入る。
僕は左手でリゼの右手をしっかりと握り、皇后様の追手による奇襲にあっても大丈夫なように、気を引き締めた。
敷地内は草木が生い茂り、まるで植物園のようである。
所々に鮮やかな色合いの花が植えられていて、庭師が定期的に手入れをしてくれているようだ。
時計回りに半円を描くよう道を進んで行くと、中央付近に沢山の石碑が見えてくる。
僕たちが石碑の前に到着すると、そこには事件で亡くなったカールハインツ公爵家の方たちの名が、各々記されていた。
僕が握っていた手を離すと、リゼは一人で両親の石碑の前まで移動してペコリと頭を下げた。
「お父様、お母様、ただいま戻りました。五年前の夜に『おやすみなさい』を言ったきりでしたね……。翌日の朝私が起きたときには、おはようを言える相手が屋敷内に一人も居ませんでしたから……」
亡くなった家族のことを思い出したからか、リゼの肩が小刻みに震えている。
「挨拶が遅くなってゴメンなさい。帝城で皇后様に『呪われた子』扱いされて大変だったの……。でも、クリスお兄様と皇帝陛下だけは私の味方になってくれて……」
リゼが目もとを手で拭っているようだ。
後ろに立っている僕には、リゼの背中と右手の動きしか見えないので推測だけど。
「それに……エル、クラウ、カルラとも仲良しになって、今の私はSランク冒険者パーティー『インフィニティ』の一員なのです。そして皆に協力してもらい、ついに私は大聖女になることができました。これからは私の光魔法で、苦しんだり困っている人たちを救済したいと思います。お父様、お母様、どうか天国から見守っていてください」
リゼが少し頭を下げて祈りをささげている。
後ろから見ているので確証はないが、手の動きから察するに、おそらく両手を組んでいるのかもしれない。
僕も心の中でリゼの両親に『リゼットは僕が必ず守ってみせます』と誓いを立てて両手を組んだ。
エルとカルラも両手を組むと目を閉じて、祈りをささげてくれている。
クラウだけはリゼの傍に立ち、周囲への警戒を続けてくれていた。
リゼは両親への報告が終わると、それ以外の石碑にも祈りをささげている。
そして全ての石碑に挨拶を終えると、僕の所へクラウと一緒に戻って来た。
「お兄様、連れてきてくれて、ありがとうございます。皆に大聖女になった報告ができました」
リゼは無理やり笑おうとしたようだが、頬に涙がうすく光っている。
僕は収納ボックスから新品のハンカチを取り出してリゼに渡すと、優しく頭を撫でた。
するとリゼは、ハンカチで目もとを拭うと僕の胸に飛び込んでくる。
僕はリゼの背中にそっと手を添えて、リゼが落ち着くのを待った。
しばらくするとリゼが顔を上げ、微笑んで僕を見つめている。
「お兄様、私はもう大丈夫です。これからは大聖女として、務めを果たしたいと思います」
「うん、僕も出来る限りの協力をするね」
「分からないことがあれば、遠慮せずにいつでも聞いて欲しいのだわ」
「護衛はアタシに任せてくれ」
「リゼたんが頑張れるように、毎日美味しい料理を作るっすよ」
リゼの宣言に対して僕、エル、クラウ、カルラの順に思いを述べた。
「皆、ありがとう。これからもよろしくね」
リゼが零れるような笑顔を見せると、その可愛さに我慢できなくなったエル、クラウ、カルラの三人がリゼに抱きついて揉みくちゃにしている。
「よし、そろそろ行こうか」
僕が女性陣に声を掛けると、皆が引き締まった顔で頷いた。
「エル、帝国を脱出してブレイブ王国を目指しても大丈夫かな?」
「うーん、あまりオススメできないのだわ。帝国と王国は、ずっと戦争をしてきたので今でも関係は不安定だし、王国内で問題に巻き込まれると国際問題になって、最悪捕縛される可能性もあるのよね」
エルが両手を広げて首を左右に振り苦笑している。
「となると来た道を戻ってファルコン村に移動して、そこからカーム教国かグロリア公国を目指そうか」
「そうね、私としては闇魔法の研究に熱心なカーム教国をオススメするのだわ」
「おお、闇魔法を習得したい僕には丁度良いかも。その後にグロリア公国を回る感じでどうかな?」
僕が女性陣に確認すると、皆が笑顔で頷いてくれた。
僕たちはカールハインツ公爵邸の跡地に別れを告げると、新風力車に乗って帝国を脱出する。
そして広大な帝国領を通過するのに二日半かかり、隣国であるアイビス独立国の首都イーグルへ到着したのは、三日目の夕方だった。
ここまで来れば後は前回と同じ行程なので、少し気が楽になる。
四日目の夕方にアルバトロス独立国の首都アウルへ到着し、五日目の夕方にパフィン独立国の首都スターリング、六日目の夕方にクレイン独立国の首都ラーク、七日目の夕方にはリゼが大聖女に至ったファルコン村へ到着した。
僕たちは、とりあえず村の郊外にある草原で宿泊することにして、現在僕が複合魔法で作った平家のリビングで、夕食後にまったりと雑談中である。
「お兄様、この一週間ずっと休憩中に闇魔法の魔術書を読んでいたようですが、何か習得できたのですか?」
「よくぞ聞いてくれたねリゼ。現在僕の闇魔法はEまで上昇していて、その中で使えそうなのが闇魔法Fのブラックアウトと闇魔法Eのブラックイリュージョンだ。この魔術書は初級編みたいだから、カーム教国で中級編以上の魔術書を探したいかな」
「クリスっち、ブラックアウトってどんな闇魔法なんすか?」
カルラが興味津津に瞳を輝かせている。
「簡単な闇魔法だから、実際にやって見せるね。ほいっ!」
僕が無詠唱で闇魔法Fのブラックアウトを発動させると、リビングが一瞬で真っ暗になる。
「ふおっ! 何も見えないっす」
「ふええ、お兄様どこですか?」
リゼが不安そうな声を出しているので、僕は闇魔法を解除した。
「リゼ、驚かせてゴメンね」
「うう、お兄様……。絶対に黙って居なくなったり、しないでください……」
リゼが瞳を潤ませて僕を見つめている。
一週間前に両親たちのお墓参りをして、独りぼっちになってしまったことを再確認したのかもしれない。
今リゼの新しい家族は、僕と皇帝である父上だけだ。
僕が突然消えたら不安になるよね。
「大丈夫だよ。僕は、ずっとリゼの傍に居る。そして何があっても、必ずリゼを守るから」
「お兄様……」
リゼが僕に抱きついてきたので、優しく頭を撫でてあげた。
「クリス君、部屋が突然暗くなるとビックリするのだわ」
「旦那様、敵襲と勘違いしてしまうから、事前にどんな闇魔法を使うか教えてくれると助かる」
エルとクラウの苦情は、もっともである。
「二人ともゴメンね。次からは気をつけるよ」
エルとクラウが微笑みながら頷いてくれた。
「では反省を活かして、次は闇魔法Eのブラックイリュージョンを披露するね。これは幻影を見せる魔法だよ。きちんと説明したからね。それっ!」
再び僕が無詠唱で闇魔法Eのブラックイリュージョンを発動させると、リビングのど真ん中に巨大サソリが現れる。
「あうう、お兄様!」
「ヒィィィー!」
「どこから入って来た!? 成敗してやる!」
「ふおおおお!」
リゼ、エル、クラウ、カルラの全員を驚かせてしまったようだ。
「ああ、ゴメンゴメン。これは幻影だから大丈夫だよ」
僕は慌てて闇魔法を解除して、巨大サソリの幻影を消した。
「クリス君……あれほど事前に教えてと言ったのに……」
珍しくエルが激おこである。
「ええ!? 事前に幻影を見せる魔法だと、説明したのだけど?」
「今回の場合は、巨大サソリを出すまで伝えないと、皆がパニックになるのだわ」
エルの抗議に女性陣が全員、うんうんと頷いている。
そして集まり輪になると、何やら話し合っているようだ。
しばらくして意見がまとまったようで、皆が僕を指さした。
「「「「平家では、闇魔法禁止!」」」」
全会一致で可決されたようだ。
僕は両手をあげて降参し、平家内では闇魔法を使わないと皆に約束した。
しかし闇魔法は意外性があって面白い。
僕はカーム教国で、闇魔法をSにすると心に決めたのだった。




