第1話 小悪魔でマッドサイエンティストな女神様(1)
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「あちゃー、ダメだったかぁ……」
女性のがっかりした声が聞こえてきて、俺は目が覚めた。
たしか会社で深夜に残業をしていたはずだ。
最近忙しすぎて、かなり寝不足が続いていたので、栄養ドリンクとエナジードリンクを飲みまくって凌いでいた。
そして休憩しようとトイレに行く途中、会社の廊下で気を失ったような気がする……。
声のした方へ振り返ると、そこには白衣を着た、金髪ツインテールで碧眼のかわいい女性が立っていた。
「えーと、どちら様でしょうか?」
「はじめましてぇ、真田優輝さん。女神様のパラスちゃんでーす」
自称女神様が、目もとにVサインを作ってポーズを取っている。
「えっと、なんで俺の名前を知ってるんですか?」
「なんでって、あなた担当の女神様だからかなぁ」
「俺の担当?」
「うんうん。でもねー、あなた死んじゃったのぉ。ごめんねー」
女神様が小首をかしげて、両手を合わせながらゴメンなさいしてる。ちょっとかわいい。
いやいや、そうじゃなくて。今、俺が死んだとか言ってたような……。
会社の廊下で倒れてそのまま死んだってことなのか?
俺まだ29歳なんだけど……。
ブラック企業で残業中に過労死とか、冗談だよね?
「俺が死んだって、本当に?」
「うん、あっさりと」
「マジかー……」
「マジマジ」
辺りを見回すと景色が会社の廊下ではない。
「ここは、いったい……?」
「あー、ここはねぇ天国にあるパラスちゃんの研究室でーす。でね、ちょっと言い訳をさせて欲しくてさぁ」
「言い訳?」
「うんうん。えーと、あなたが小学6年生のとき、市内の将棋大会に参加したでしょ? 小学生の部で準優勝だったやつ」
「あー、そうでしたね。7歳のときに将棋を覚えて、小学6年生の頃は無双状態だったんですよ。近所の将棋好きの大人にも負け知らずでしたから」
「でも、決勝戦で負けちゃったんだよねー。小学生相手に!」
「そうなんですよ! あんな圧倒的な負け方をしたのは初めてで、同じ市内の小学生相手に負けるようじゃ、俺の将棋の実力ってたいしたことないんだなって。将棋のプロになる夢を諦めた瞬間でしたね」
そこまで話したところで女神様の笑顔が消えて、なんか気まずそうに下を向いてしまった。
どうしたのかな? ちょっと心配だ。
「で、その後あなた野球の道に進んだでしょ?」
「はい、親に運動部へ入れって言われて。小学生の頃やってた少年野球で投手として結構イケてたので、中学では野球部に入ったんです。最後の中3の夏は、地区大会で優勝して県大会で準優勝でしたね。あと一歩で全国行けたんだけど……」
「ねー、残念」
「でも、そのとき見にきてた甲子園常連高校の監督から声をかけられたんですよ。うちで一緒に甲子園で全国制覇を目指そうって。俺、嬉しくって両親に頼み込んで、その私立高校へ進学したんですよ」
「ねー、地元の県立進学校へ行くはずだったのにね」
「でも、後悔はしてないですよ。高3の夏の大会で、甲子園に行って全国制覇を成し遂げましたからね!」
「あなたのチームメイトがね……」
女神様がボソッとつぶやいた。
「いやぁ、たしかに俺は甲子園で試合に出てないけど、てかベンチにすら入れなかったけど……」
「でも、スタンドで応援頑張ってたものね」
「うん……」
なんか当時を思い出すとやっぱり悔しくて泣けてくる。
高校3年間毎日練習に励んだけど、結局公式戦には1試合も出られなかった。
高1のときは、全国大会に出た同期がたくさんいて、プロのスカウトからも注目されてる先輩達が結構いて、俺が試合に出られるはずもなく。
高2になったらなったで今度は、すごく有望な1年生がわんさか入ってくる。
高3になって以下略……って感じで、高校3年間必死に努力したんだけどな。
「でもぉ、地元の進学校で野球をやってたらぁ、エースで4番だったのにねぇ。それでもぉ、甲子園常連高校で全国制覇がしたかったんでしょー?」
「うん、俺の努力ってムダだったのかな……」
「そだねー」
白い歯をのぞかせて、笑顔の女神様。
「ちょ、ちょっと。そこは、そんなことないよーとか言って慰めてくれるとこじゃないの?」
「だってー、ムダなものはムダとしか言えないよー。あなたは、将棋を続けるべきだったんだよ。そしたら将来プロ棋士になって名人になれたはずなのにさぁ」
「俺が名人に!?」
「そうそう。なのに将棋やめて、プロになる素質のない野球を始めちゃうんだもんねぇ」
ヤレヤレって感じで女神様が両手を広げてる。
「だって小学6年生のとき、同じ市内の小学生に負けたんだよ? そんな実力でプロの棋士になれるわけが……」
「あー、あれねー、パラスちゃんのうっかりで、間違えて転校させちゃった子なんだよねー」
「うっかり?」
「うんうん。本当は、その子じゃなくて野球のすごい才能を持ってる子が転校するはずだったんだぁ」
「野球の?」
「そうそう。将来はメジャーリーガーになる予定で、中学時代はあなたと同じ地区でライバル校のエースになるはずだったのぉ」
「メジャーリーガー!?」
「うんうん。でね、あなたのチームは、その子に完全試合をやられるのぉ」
「完全試合!」
「格の違いを見せられたあなたは、あっさり野球をやめて将棋に集中するはずだったのよぉ。もちろん小学6年生のときの市内将棋大会も、あなたが優勝してるって感じでねー」
左手の親指を上にグッと立てて力説する女神様。
「じゃあ、俺が小学6年生のときに決勝で負けた子って一体誰だったんです?」
「あー、その子は後の将棋界でタイトルをほぼ独占する天才棋士なの!」
「すごいな……。どうりでコテンパンに負けるわけだ」
「ねー、パラスちゃんのうっかりで、あなたと彼が出会うのは大人になってからのはずだったのに、大変な思いをさせちゃったわぁ。メンゴメンゴ」
なんだろう、謝ってくれてはいるけど軽すぎないか?
そのせいで俺の人生は台無しになったのにさ。
「ねえ、パラス」
「なぁに? 急に呼び捨てにするなんて、パラスちゃんドキドキしちゃうわぁ」
この女神まるで反省してないな。
ちょっとイライラしてきたぞ。
「なあ、どう責任とってくれるんだ? 俺の人生、滅茶苦茶にしてくれといて」
「あー、うん。その償いのためにあなたに会いに来たんだけどさぁ。ねえ、あなた異世界に転生して、第二の人生を送ってみない?」
異世界転生!
ラノベとかに出てくるアレか。
まさか自分が体験することになるとは……。
まあ、やり直せる機会を与えてくれるのは助かるな。
「やる!」
「そうこなくっちゃねぇ。全力でサポートするから頑張ってよぉ」
「ああ!」
「でね、あなたに是非使って欲しい『可能性は無限大』ってチート能力があるのぉ」
チート能力!
異世界で無双できるやつだよな。
どんな能力なんだろうか?
「これさぁ、パラスちゃんが作ったんだけどぉ、全能力の素質が全部Sなの!」
「Sが一番上?」
「うんにゃ、SSが一番上。でも、SSは世界で一人しかいないのに、素質に気付かずに死んじゃう場合が多いのよぉ。だから実質Sが一番上みたいな感じ。ちなみに一番下はGだよぉ」
「へー、全素質Sってスゴイな!」
「でしょでしょ! パラスちゃんの自信作なのよぉ」
パラスがドヤ顔で俺を見てる。
「で、このチート能力を使うのは俺が初めて?」
「あなたが6人目ね」
「俺以外の5人は、どうなったの? さぞ無双して、超有名になったとか?」
パラスの顔色が変わって、俺と目を合わせようとしない。
なんか気まずそうだ。
「全員大人になる前に死んだ……」
「ダメじゃん!」
「でもねでもね、能力さえ上げれば絶対に最強なのよ! その前に皆死んじゃっただけで」
「てか、最初から能力上げた状態で、最強スタートにすればいいのでは?」
「それはムリ。さすがにできることには限界があるのよぉ。何かに特化するには、他は最低値じゃないとねぇ。『可能性は無限大』は素質に特化してるから、全ステータス値は基本ゼロからのスタートなのよぉ」
「なるほどね。となると、子供時代はムリせず、安全に能力上げに励むのがベストかな」
「そうなんだけど、それが意外に難しいのよねぇ」
「そうなの?」
「うんうん。一人目は、冒険者の子供に転生して、訓練中に魔物に襲われて死亡。二人目は、村人の子供に転生したけど、突然の飢饉により餓死」
「うわー……」
「三人目は、商人の子供に転生して順調に成長してたけど、盗賊に襲われて死亡」
「やっぱり平民では厳しいかもね。じゃあ、貴族ならいけるんじゃない?」
「そう思うわよねぇ。でもね、四人目は男爵家の次男に転生して、大人になる直前に長男に代わって跡継ぎになろうと画策して失敗。処刑されたわぁ」
「ムチャしやがる……。なら、筆頭公爵家の長男でどうよ? これなら文句ないだろ」
パラスが悟ったような顔で苦笑してる。
「あなたとは意見が合いそうねぇ。五人目は、とある王国の筆頭公爵家の長男に転生して、大切に育てられたわぁ。完璧な英才教育を施され、知性は文句なし。でも、過保護すぎて体力にやや不安が残ったのよねぇ。そして、大人になる直前に病死したのよぉ」
「ド、ドンマイ……」
「もうね、万策尽きて諦めかけたときに、あなたみたいな最高の実験体が手に入ったのよ!」
パラスが恍惚とした表情で、うぇへへって不気味に笑ってる。
こいつヤバイやつなんじゃ……。
「つか、お詫びに俺のこと転生させてあげるとか言いながら、全部自分の実験のためじゃん」
「そ、そんなことないよー。パラスちゃんの実験は、オマケだからさぁ」
「本当に? オマケなのは、俺の転生なんじゃないの?」
「や、やだなぁもう。さあ、細かいことは気にせずに今後のことを考えよぉ!」
コイツ誤魔化しやがった。
でも、ここで白黒つけたとこで、たいした意味はないんだよな。
それより、どうやったらチート能力が上手に使えるかだが……。
「これ、もう王族の第三王子とかじゃないとダメなのでは? 後継者争いに巻き込まれず、もしものときに備えてそこそこ大切にされて、過保護すぎずにある程度自由がきくだろうし」
俺の提案にパラスが驚愕の色を浮かべて固まっている。
「パラスちゃんが長年実験と検証を繰り返して、やっとたどり着いた結論に一瞬で追いつくなんてぇ。やっぱりあなたは、秀才だったのねぇ。さすが将棋界で名人になった男」
「いや、俺途中で道を間違えて、プロの棋士を目指すことすらできなかったけどな! 主にパラスのせいで」
「だからゴメンてば、しつこい男は嫌われるわよぉ」
「はあ!?」
コイツと口げんかしても勝てる気がしないな。
冷静に話を進めて、少しでも良い条件で異世界転生が果たせるよう集中しよう。