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晴れ時々幽霊

作者: はやまなつお


侍だった。女性で美女。

なぜか目の前に立ちふさがっていた。


午後6時、夕刻の公園。

三ノ丸透矢さんのまるとうや30歳は会社からの帰りに、

近道になる、公園を横切ろうとしていた。


誰もいないのを確認して進んだはずだが。

公園の真ん中で侍美女と対峙していた。


コスプレかな?と横に寄ると。


「待て。そなたは「さんのまる」、と言うのか?」


「確かに三ノ丸ですが。ええと、どなたでしたっけ?」


「死んでもらう!」

近づいてきて腰の刀を抜く。抜刀の一閃!


「ひっ!」後ろに転んで避ける。

目の前をヒュッと刃物が通り過ぎる。


「な、なぜっ!」


「そなたの名が気に入らぬ。きゃつの子孫であろう。

根絶やしにせねばならぬ!」


さらに追撃。こちらのカバンを切り裂く。


雑木林の木に追い詰められる。

「でえい!」大振り。


俺は地面にスライディング。

頭の上、木の幹が真っ二つ。


樹々の葉っぱから落ちたのか、蜘蛛、ムカデ、ゴキブリなど

雑多な小虫が降ってくる。


女剣士の上にも降り注いで。

体を通過して。


「キャアアア!」悲鳴を上げる。

「キ、キ、キ、気持ち悪い~!」


飛び下がり、刀を放り出して尻餅をつく。


「えーと、大丈夫ですか?」


「・・・・・」ガタガタ震えている。


人の心配をしてる場合ではなかった。

このキチガイからは逃げないと。


俺は混乱しながらもカバンを拾って走り出し、アパートの自室に帰宅した。


「何だったんだ、あれは。虫が体を素通りしてたようだが・・・。

しかし美女だった。まるで宮沢りえと牧瀬里穂を合わせたような」


「それは」ドアから顔を出していた。ドアの真ん中から。

「私が幽霊だからだ」


ドアを通り抜けて入ってきた。


俺が下がると。


「いや、そなたには悪意が無い。どうやら悪い人間ではないようだ。

もう斬るつもりはない」


「あなたは・・・君は幽霊なのに、なぜ斬れるんだ?」


「秘剣かまいたち、だ」


「・・・それで、三ノ丸、に恨みが?」


「ある。三ノ丸弾正という男が藩の金を使い込んだ。

それを我が一族になすりつけた。

屋敷は弾正の手の者に口封じに皆殺しにされた。


私は怨霊となって復活して奴らを殺したが、

弾正は他国に逃げてしまった。


それ以来、弾正を追って200年ほど彷徨っている。

三ノ丸の姓を持つ者を見つけては殺し、ついでに

悪人を見つけたら斬り殺している」


「それはまた大変だね・・・・」

相手は20才ぐらいに見える外見なので、こういう話し方にした。


「200年て。仇の弾正は、もう死んでるだろう」


「だからきゃつの子孫を根絶やしにしようとしている」


「そうなんだ、・・・用がないならもう帰ってくれないかな・・・」


「おぬしが本当に善人かどうか確認する。

しばらくは近所にいさせてもらおう・・・

あ、できればテレビは付けっぱなしにしてくれ」


「いや、テレビは無いよ、俺はNHK潰したい派だから。

ネットパソコンならあるけど」


「それでいい」


ノートパソコンをつけてネット接続すると

幽霊は熱心にネットサーフィンし始めた。


「ところで君、名前は?」


「シャーロット」


「いやいや、それは」


「ハンドルネームだ。個人情報は明かしたくない」


「重い事情は話したのに!」


こうして俺の部屋に女幽霊が住み着いた。




そして1週間。

このアパートから駅近辺で辻斬り事件が多発。

殺されるのは悪人ばかりだから構わないが。


シャーロットは時々ネットサーフィンしている。

私とは特に会話しない。


10日目。休みの日。


「やっと手がかりをつかんだ。

政府の悪霊退治センターとチャットして弾正の居所がわかった。

詳しいことを説明しに来るそうだ」


「ネットで探してたんですか。へえ・・・」


ドアが開いて拳銃を構えたサングラスとスーツの男たち4人が入ってくる。

鍵が掛かっていたはずだが。


「三ノ丸透矢さんですね」


「・・・そうだけど」


「そちらが幽霊の・・・シャーロットさん」


「そう。悪霊退治センターの人?」


「ええ。・・・どうだ?」


一人がスマフォのような機械で計測。

「悪霊ではありません。オーラに暗さが無い」


4人とも拳銃をホルスターに戻す。


リーダー「では話ができます。

 まず悪霊についてはご存知ですか?三ノ丸さん?」


「知らないです」


「このゴーグルを付けて外を見てください」


5階なので、まあまあ遠くまで見える。


空中を漂う浮遊霊が見える。通行人に幽霊が付いている。

青白い鬼火や犬、狐、蛇、鬼など。


「人格チェックと悪人削除法が実行されて判明したのですが

異常な人間には、悪霊が憑いています。


本人の心の状態に吸い寄せられる、という事もありますが。

犬の振る舞いをするのは犬憑き、鬼のような振る舞いは鬼憑き。


5年前から急に凶悪事件が多くなり、弾正と名乗る、悪霊の王が

復活したせいだと判明しました」


「復活したというと?」


「武士だった弾正が悪魔と契約して、悪霊憑きとなって暴れまわったのです。

そして何百年も前の陰陽師や武士が協力して封じたそうです。

その封印が破られて復活、と」


「帝都物語の平将門の塚のような事ですか?」


「そうです。弾正は富士山を中心に悪霊を集めています。

日本中の悪霊憑きが、何十万人も麓に集結していて危険な状態です」


シャーロット

「富士山か。では私がそこに行って弾正を斬る!」


リーダー「恨み、因縁があるならぜひ決着を。

こちらの預言者が、しかるべき担当者が現れると

言ってまして待っていたのです。できるかぎりバックアップします」


「私は今は、この男に憑いている。だから」


「彼にも行ってもらいましょう」


「いや、仕事が」


「仕事として会社に依頼しますから」


「・・・・・」


「車を用意しました」


「え、今からすぐに?」


「もちろん。善は急げ、ですよ」


アパートの前に浮遊する自動車っぽい乗り物があった。

「タイヤが無い。これは」


「初めまして。プラズマエンジンで動く空中移動マシン第一号、プーマです」

自動車が喋った。


「人工知能!」


「そうです。どうぞ」


ドアが開く。乗り込む。スウ、と浮かび上がって上昇、

アパートの遥か上まで行って前方に飛び出す。


「こんな科学力が実現していたのか・・・」


「ええ。プラズマエネルギーは扱いが難しくて3日に1回は調整が必要です。

それに、もし悪人の手に渡ったら大変です。道具はすべてそうですが」


横の座席シートには侍美女が現れて興味深げに外を見ている。




富士山が見えてきた。


真っ黒い雲が取り巻いている。

「自衛隊、警官隊、能力者達がすでに動いて悪霊憑き軍団と戦争中です。

我々は富士頂上へ。敵の本丸を直接、攻めましょう」


頂上付近の建物。

100対100ぐらいで戦っている。


悪霊憑きは、憑いている怪物を現出させて攻撃、超能力者は火、水、雷などで攻撃。


敵軍勢の後ろに6本腕の身長5メートルほどの黒い悪魔。

「あれが弾正です」


「応!」空中から飛び出していく侍美女。

「竜巻旋風刃!」敵の腕を切り飛ばす。


「弾正!」


「ほう、女幽霊か、ずいぶんと祟ってくれたな、邪魔者めが!」


地面から黒い手が10本以上、伸びてきて侍美女を捕らえる。

「地獄に封印してやる。永遠の責め苦を味わって狂うがいい」


さらに地面から数百の悪霊、鬼、魔獣が出現、攻撃側を取り囲む。

悪魔弾正の腕も再生。敵が圧倒的に有利。


三ノ宮「この車から攻撃か、援護は、できないのか?」


プーマ「武器は無くて。でも味方が来たようです」


ザア!と大波が覆う。全員が波に飲まれる。

弾正「何だ?」


悪霊の群れがビリビリと痺れて動けなくなる。

黒い手も。


波の上のサーフィンボードに乗った日焼けした男。派手なウエットスーツ。

「俺は沖縄のサーファー陰陽師、金牙ピカーリ!敵は動けない!攻撃を!」


味方が一斉に反攻、静止した敵を片付けていく。

侍美女も黒い手を、刀で斬って脱出、やはり動けない悪魔弾正を上から真っ二つに。


「滅びよ、弾正!」さらに刀で弾正の心臓位置を貫く。


「ギャアアア!」砕け、崩壊する悪魔弾正。


三ノ丸「・・・終わったのか?」


シャーロット「いや、まだ嫌な気配は消えていない」




ゴゴゴゴゴ・・・・


富士山が地震で揺れる。

黒い人魂が無数に現れて地面に沈んでいく。


「フハハハハ、わしは土地神になった。

長年かけて準備してついに富士山という体を手に入れた!


今からわしの名は黒富士弾正じゃ。まずは日本を地震で壊滅させて

人間どもの魂を食らってやる!」


ゴゴゴゴゴッ!更に揺れが大きくなっていく。

富士山の側面に巨大な弾正の顔が現れる。


集めた悪霊憑き何十万人、全員の魂を食らって、強力になっているらしい。



プーマ「やはりこうなりましたか。最悪の予測が的中しました」


三ノ丸「ということは対策を?」


「はい。あなたは脱出を」


「うわっ!」

乗り物の上部が開き、俺の座席がジェット噴射で射出された。


プーマは富士山の火口へ。

下に突っ込んでいって見えなくなる。


爆発!光がザン、ザン、ザンと大波のように煌く。

その後には。富士山がプリンのごとく半分以下の高さになっていた。


プラズマエネルギーで悪霊を焼き払ったらしい。


沖縄サーファーが味方大勢を波術で救助して離れ、

侍美女が俺のパラシュート座席を、風の術で誘導して適当な地面へ。


俺は平面に変わった広大な富士台地に降り立った。


三ノ丸「今度は?」


シャーロット「弾正の気配が消えた。滅ぼせたようだ」


「では」


「うむ、目的は果たした。しばらく飽きるまでこの世を見て、

 そのうち成仏することにしよう。さらば!」


侍美女は飛んで去っていった。

結局、最後まで名前は不明だった・・・



手本は火浦功「お前が悪い!」「てなもんや忍法帖」、

星新一「殺し屋ですのよ」。


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