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リアルに銃を撃て。-社会人編-  作者: 金澤裕志
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SCT's Live Story -ほたる&波奈 side-

京急川崎のビル。私達は17時までショッピング。

「こっちの方が似合うんじゃない?ほたるっぽいよ」

「そうかな…こっちじゃない?」

「いや、こっち」

「いや、そっち」

「もー!私の意見が参考になってない!」

「相変わらず私達って考えが全然合わないね」

亜麻色に揺れるその髪は、久々に会った今日、あの頃のようなロングになっていた。ショートヘアであれだけ可愛くて、前の巻き髪も可愛くて、そして今日のストレートでもやっぱり可愛い。私とは色々正反対な波奈だけど、そんな彼女になら、かえって何でも話せてしまう。

「ほたるって、こういう系は着ないの?」

彼女が私にあてたその服は、どちらかと言ったら麗が着そうな服。

「それは麗かアンタじゃない?あと恋鳥とか」

「それだー!恋鳥に着せるのがいいんだ!」

散々ふたりであーだーこーだ言って、結局はそれぞれの好みの服を買ってお茶をする。

アイスコーヒーをストローでくるくるとかき混ぜる波奈は、そう言えばと口を開き、

「何で私達、京急側の駅ビル?川崎駅の大きい方のショッピングモールで良くない?」

と言われると、答えは簡単。

「あっちはね、今の時間、あのバカップルがデート中なんですよ、どーせ」

「あ〜、なーるほーど」

私達からしてみれば今デートをしているカップルはあの2人だとすぐ分かり合える。

「多分だけど、絶対地下の大きな本屋に行ってるよ。で、充くんがジェラートの本に飛び付いてるのが目に浮かぶ!」

「あははっ、そうね。麗、めっちゃ可愛い服着てる気がする!楽しみだね。まああの2人は相変わらず何年経っても初々しい」

そう私が昔を懐かしむようにかき混ぜたアイスココアは優しい色味を残したまま、氷と共に沈んでいく。

「で、ほたるはあの後どーなったの?」

「あの後?」

「大学生活中はずーっと充くんのこと好きだったんでしょ?今は?」

「さあねぇ。どうでしょう」

「なーに、そのハッキリしない答えは」

「まあ卒業してからは中々会えてないしね。実際今日会うのもホントに久しぶりだし。それとね、こないだ…」

「ん?こないだ?」

こてと首を傾げた彼女の純粋無垢な瞳を見てしまっては、こんなことすら話せてしまう。

「翼に…コクられた」

「翼…?あー!あの、幼なじみの大倉くんね!」

子役の時にダブル主演を務めた時の相手、大倉翼くん。就職先が東京になったことでもう一度私と連絡をとるようになった。その翼は記憶がなくなってしまってからの私のことも、変わらず好きでいてくれたみたいで、先月、告白されたばっかりだった。

「え、それで、ほたるどうしたの??」

「んー。恋愛対象としては見れてないから友達としてでもいいかな?って言った」

「おー、正直。で?向こうはなんて返してきたの?」

「んっとね、『やっぱり俺はあの仲沢充までには及ばないということか!修行積んでまいります!』……って言われました」

「え、すごい、何その子…いや変わり者だなーって北海道で会った時にちょっと思ったけど、フラれてもめげないのね…すごい?のかな?強い?……というか重い?あるいはキモい?」

「段々表現が悪くなってる!」

「ま、ずっとほたるのこと好きだったんだから今さら諦めもつかないわけか」

「ちゃんと私があの頃の記憶を持っていれば、あの子のこと多少は意識してるのかもしれないんだけどね。残ってるのは写真だけ。あとはうっすら浮かぶ子供の頃のあの子の顔くらい。記憶喪失の後遺症って、今もまだ残ってるから」

事情は彼女はほとんど知ってくれている。だって波奈は、私と翼が主演を務めた作品の監督、桜木司の娘だから。

「そっか。じゃあ、充くんから心のリニューアルはしてない感じなのかな?」

「まあでも、充はいつまで経っても充なわけだし、それは麗もそうだしね。だから、私が叶えたかったものが叶ってるんだし、次の恋をしたい気持ちは出てきてる」

そう聞いて、ふーんと楽しげに波奈は聞いていた。

なんかそれがムカついたから、とりあえず言葉にした。

「なによ」

「いやー?べつにー?ほたるさん可愛いなーって」

「ムカつく!ほんとあれだからね、充っていう選択肢はもうちゃんと気持ちの整理つけたから大丈夫。本命チョコ渡してから、もう5年も経つわけだしね。この5年間で、何も変わらなかったわけじゃないから」

「大丈夫。分かってるよ」

ほんと、子供の頃一度会ったのも奇跡だし、記憶を失うきっかけになった事故で彼が関わったことも奇跡だと思う。それからすぐ、また奇跡的に同じクラスメイトとして出会った彼のことを、運命の人と言わないわけにはいかなかった。記憶を失い、今を生きる私の中には、アイツと過ごしたという、新しい記憶で溢れている。

「気付いたら感情に任せて想いを伝えちゃって、親友って言葉で納得して、アイツは彼女持ちになったのにそれでも私は本命チョコ渡して、そのあと相棒って呼んでもらえて、悩んで考えて傷付いて好きで好きでどーしょーもなくて…」

思い出を振り返れば、私はアイツの隣りにいることがいつだって楽しかった。でもきっとこの気持ちは、大学生だったあの頃はまだきっと、恋という言葉でしか表せなかった。

でも本当は。

恋愛とか、好きだとか、そんな一言では表せない、言葉にはきっとならない、本当に大切な気持ちだ。

「だから、もういいの。アイツからいっぱいもらったから。好きって一言なんかでまとめないで、私はいつだってあの2人の応援をしてたいなって。私がやってきたことを、ちゃんと信じてあげようって、やっと思えたの」

バレンタインのチョコを渡してから、ちょうど5年。ようやく充を、普通に充として、私は見れるようになった。

「波奈、私、大人になれたのかな?」

そう言うと、波奈は同じ人を想い焦がれた者同士、安心したような表情で優しく笑った。

「うん。とても大人。ホントにその気持ちにたどり着くまで、ほたるなりに頑張ったのがわかるよ」

と言いながら、顔を曇らせ、深刻そうな顔に変わる。

「だからなおさら翼くん、ドンマイ過ぎる…」

「ううっ…それとこれとでは話が別よ!翼の良さなんてまだなーんも分かんないのに付き合えるわけないじゃん」

「そっかぁ…。まあでも付き合ってから良さが分かったりするかもよ?」

「ふっふっふっ。そもそも付き合う前から良さが滲み出てない男なんてアウト!私がもし社長だったらそんなやつ速攻クビにしてるし!」

「ブラック企業すぎる…」

波奈はドン引きしつつも、その話題で引っかかって私に質問する。

「あ、そういえば、ほたるは今なんの仕事してるんだっけ」

「そっか、波奈には言ってなかったよね。うーん、えっとね、カウンセラーになりたかったんだけど、大学院まで進まないと中々なれないみたいでさ…。結局大学も4年で普通に卒業しちゃったし。まあ似たような仕事できたらいいなって思って、今はキャラクターとかのイベント商品を扱うような会社のお客様相談窓口で朝から晩まで電話対応

。いわゆるコールセンターってやつ」

「ひぇー、すごい!結構酷な電話とか来たりしない?」

「もう毎日来るよ。年始なんかさ、『福袋の靴下片方しか入ってねぇじゃねーか!』っておっさんが怒鳴ってきたけどさ、知らないよそんなのとしか思えないわけ」

「あはは、そりゃあそうだね」

「ま、でも真剣なお悩みも来たりとかするのよね。3年目になってからはさ、新商品の開発に関わりたいっていう営業の人の受付とかもしてね」

「え、じゃあ商談的なこともしてるってこと?すごくないそれ」

「いや、私は単なる窓口でその人たちの相談役に乗るだけ。後はそれを上の人に報告して、運営方針会議で勝手にその人たちがその営業マンと会話するから私はノータッチ」

「そうなんだ。じゃあホントにお悩み相談とクレーム対応とかなんだね」

「そうそう、そんな感じ。まあ、もっと何ていうのかな、私と同じような病気の経験をした人の精神的な支えになるような仕事が本当はしたいんだけどね」

「まあ、ほたるの場合そうだよね」

「だから3年働いたし転職かな。ちゃんとカウンセリングに通じたことをしたい」

「ほたるは、その方が似合いそう!」

私の話に興味津々で聞いてくれた波奈。そんな彼女のブライダル修行はどうなっているのかな。

「波奈はどうなの?務めて3年目でしょ?」

そう言われて、彼女は苦笑いを作った。

「まだまだコーディネーターのコの字もないくらい、先輩に色々教わってる。でも結婚式とか披露宴とか、やっぱり現場で実際に目で見てみると、自分の家庭じゃないのに、なんかすごく嬉しい気持ちになる」

「ふーん。やっぱり大変なお仕事なのね…でも幸せが目の前にある感じ、なんかいいかも」

「でしょでしょ!先輩がね、旦那さんと色々あったらしくてさ。そういうのを見ると…なんかちゃんと幸せになってほしいなって思う」

色々っていう言い方で、優しい彼女は誤魔化したけれど。

きっと、その先輩さんと旦那さんの、ほんとに色々を知っているんだなって、何となく分かった。

ほわっと微笑みを浮かべた彼女もまた、幸せを感じたいと思ってる女の子。

この流れでついでに聞いてみる。

「そんなあなたは、幸せになれたのかしら」

「あら、ほたるさん。それはどういうことかしら」

「分かるでしょ。アンタは充のこと、今は好きじゃないの?」

そう聞かれることももちろん彼女は分かっていて、それでもそうと聞いてほしいんだなって。だから彼女は優しく笑う。

「……まあね。やっと諦められた。ちゃんと」

「ふ、ふーん」

そんなためらいもほとんどない返しに、ちょっと戸惑っちゃった。なんか意志が固そうに見えた。え、なんかあったのこの子…。

「素敵な出会いがあったとか?」

「あったというか、元からあった?のかな?」

「元から…?」

そして彼女は、少し照れくさそうに話し始めた。




ーーーーーーー




そんな興味ありありな顔で私を見てくるなんて、やっぱりほたる、良い子だな。

それか、きっと、一緒に同じ男の子を好きになったことに対しての決着を知りたかったのかな。

私はほとんど飲み終わったアイスコーヒーの、大きな氷をツンツンと突きながら話す。

「あ、先に言っておくけどね、私は充くんのこと、いつだって大好きだよ」

「ふーん。アンタのキャラで大好きって言い方、なんかズルい」

「でしょー。私の特権なの。でも、だからなのかな」

そして氷を突付くのをやめたくなって、手を止めた。

「好きって言葉じゃ表せないような相手に出会えたら、それが好きってことなのかなって」

「ほう、と言いますと」

ほたるは興味ありありで聞き入ってくれる。そんな彼女の一瞬一瞬は、やっぱり可愛い。

「そんな風に思える相手に出会えた。見つかった」

ぴんと来ていない彼女に、コショコショと耳打ちした。

「え!?マジ!?」

「うん」

「え!?ウソ!?え!?」

「驚きすぎだって。それが結果だし全てだよ。1年前くらいにもう想いは伝えたし」

そしてそれがマジだって分かったほたるは、びっくりした気持ちが抑えられないみたい。

「アンタ…マジか…マジか…」

だから、心の声が漏れた。


「だって、好いちゅーたもんは、しょーがなかよ…」


「そ、そう…」

そして少し落ち着いて、またほたるは取り乱す。

「え、やっぱ信じられない!!」

「だよね…私も未だに信じられない。なんでよりによって"あの子"なんだか…」

「まあ何かとアンタ達接点多かったんだよね。アイツの運転で送り届けてくれたりとか。ご飯行ったりとか。てゆーか何でアイツ運転できるんだし…」

思えば、私の充くんへのアプローチはいっつも中途半端だった。「充くん大好きだよー!」って軽々しく言えるくせに、肝心なときには充くんへ積極的なアプローチはできなかった。だから今回はちゃんと向き合った。

「そうなの。不思議だよね。まあその後、ライバルらしき人が現れた」

「ライバル?」

まったく想像がつかないのか、彼女は首を傾げた。

「あの、イケメンガールちゃんよ」

その言葉を聞いて、またまたほたるは飛び上がる。

「えー!?ひかりまで!?いやいやみんなもう頭おかしいよ!」

「あはは、まあそれはそれで色々あってさ」

私には私の理由がちゃんとある。

「あの子は、いつだって笑顔で、無条件で味方だから。そんなあの子が私は大好き」

心が晴れ渡る私の言葉に、ほたるは嬉しそうだった。

でも、その直後の私の言葉にまた険しい顔を見せた。

「まあ、ひかりちゃんを煽って焚き付けて、先に動いたの私なんだけどね」

「うわー、やってんなー、こいつ」

「そりゃそうよ」

「ずる…やっぱりアンタのそういうとこ、ずっとずるい…」

「ずるい子代表のほたるに比べたら、私はきっとマシな方だよ」

そう思えるのは、前より私に自信があるから。

でも、1つだけ、誤解をしていた。

「ま、でもそのライバルさんはね、あの後私に言ってきたの。『やっぱりボクは違う。上崎さんとアイツで幸せになってほしい』ってね」

「え、好きだったんじゃなくて?」

「うん、てっきり好きになるのかなって思ってたの。だから堂々とライバル宣言をしたしね。でもひかりちゃんはその挑発に乗っかって来なかったんだよね」

「別に気になってる人がいたとか?」

「まあ、私から詳しいことは言っちゃまずそうだから伏せるけどさ、本人に聞いてほしいんだけど、あの娘はいろんな経験をして、ちゃんと好きな人を見つけたみたい」

高校時代、私は善意でほたるの情報を他人に流出しちゃったことがある。だからこういう人のデリケートなことはあんまり言っちゃいけない気がする。でもライバルとかどーのとか多少言っちゃってるんだけど…まあこれは私の思い過ごしな部分もあるから。

そんなことを、ぎこちない笑いで誤魔化していたら、ほたるがジト目を向けてきた。

「あー波奈、今、『私喋っちゃいけないこと喋ってるかも…』って思ってるでしょ」

「え!?いやべつに」

「ウソだ。私、大体アンタのこと分かる」

見透かされてる…。

ある意味、私達は強い絆で結ばれてるのかもしれない。

「……バレてるのね」

「ま、長い付き合いだしね。いつまでも昔のこと気にしなくていいの。ひかりが嫌がらない程度であれば言ってくれて大丈夫よ。私、誰にも言わないし」

「うん…あなたを苦しめちゃったトラウマがあるから」

「あの時みんなに病気のことを言ったのは、私を助けたかったからでしょ。大丈夫。分かってるよ。アンタのことは誰よりも私が分かってる」

ほたるの優しい微笑みは、とても落ち着いていて心までひと息つく。

「ありがと」

「ひかりのことは、ひかりに聞いてみるね。えーでも気になる。あのお猿じゃないんだったら、あの子の好きな人って誰なんだろう…?」

「多分、今日分かるような気がする。この後の集まりが楽しみだね」

時々嫌いになる私自身の嫌なところも、ひかりちゃんの真っ直ぐさを見たらぶっ飛んじゃう。

この想いは、あの光があって花開く。

だから、ライバルのいない今、少しドキドキしてるけれど。


全部ひっくるめて、私は自分を好きになれた。





続く

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