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蔵品大樹のショートショートもあるオムニバス

売れない画家

作者: 蔵品大樹

奇妙な世界へ…

 俺は東郷彰人。ただの高校一年生だ。

 とはいえ、俺には親が母親しかいない。いわゆる『母子家庭』だ。父は借金を背負って別居中。さらに友達は居らず、教室で一人、大人しくしていた。あと、俺は学校の帰りに津野公園と言う所で、ただベンチに座って今日の振り返りをしている。なぜそれをしているのかというと、母は、一日中働いているからだ。なので、家に帰っても、一人である。そんな哀しい生活を過ごしていた。

 ある日、俺はこの日も、公園に行き、ベンチに座ろうとした。しかし、そのベンチには先客がいた。

 そいつは、絵を描いていた。

 (オイオイ、こんな時間に絵描きか?)

 そう思いつつ、俺は気になり、その絵描きの元へと向かった。

 ベンチは二人掛けなので、俺は絵描きの隣に座った。絵描きの顔は、まさに職人の様な顔つきだった。

 「あの…」

 「………」

 絵描きは、絵に集中しているのか、反応しなかった。数分後、俺は頃合いを見て、絵描きに話しかけた。

 「あの…ちょっといいですか?」

 「ん、あぁ…どうぞ…」

 絵描きは、静かに答えると、俺に絵を見せた。その絵は夜の津野公園そのものだった。

 「あなた、結構絵が上手いんですね」

 「上手い…か…いつ振りだろうな…その言葉を言われるのは…」

 絵描きは、悲しく答えた。

 「にしても、君は誰だ。どうせ、冷やかしに来たんだろう」

 「あぁ、俺、東郷彰人と言います。あと、冷やかしになんか来てません。少し、気になったもんで」

 「そうか、どうやら、君は良い人らしいな。私は、森、森茂だ」

 「森って言うんですね。にしても、何でこんな時間に絵なんか…」

 「少し、長話になるがいいかい?」

 「えぇ、良いですよ」

 「わかった。それは、数十年前の事だった」

 すると、森は話し始めた。

 「私が小さい頃、私は結構絵のセンスが良くてな、よく天才少年と、周りから言われてね。時にはマスコミも、私を取り上げた。しかし、時が経つに連れ、私は絵が上手くなくなった。すると、周りの人は、手のひらを返したかのように私を非難した。マスコミも、あんなに良くしてくれたのに私を悪く言い始めた。親も、友達も、赤の他人からも、私は嫌われた。大人になった私は、画家になった。親や友人からは、辞めておいたほうがいいと言われたが、私はその言葉を気にせずそのまま画家になった。しかしどうだろう。私の絵のセンスが復活したではないか。しかし、私の絵は一度も褒められる事は無かった。私は皆を見返そうと、何日も何日も色んな所で絵を書き続けた。すでに私の部屋は美術館だよ。一度も表彰されない。ましてや褒められない。一生こんな感じだと思ったんだ。でも、君が、私の絵を褒めてくれた。君だけが私の唯一の救いだ」

 俺は最後の言葉を聞き、何か、嬉しくなった。

 (救い…か…)

 そう思いがら時計を見ると、もう既に7時だった。

 「あぁ、森さん。俺もう帰ります」

 「そうか、また明日来い。新しい絵を見せてやる」

 その言葉を聞き、俺は公園を出た。

 俺の楽しみが一つ増えた。それは森の絵を見ることだ。毎日、森は違う絵を描いた。人の絵、動物の絵、食べ物の絵等、色んな絵を見せてくれた。俺はこんな事が毎日続けばいいと思っていた。

 しかし、現実は甘くなかった。

 ある日、俺ははその日も、森の絵を見て家に帰った。

 家に入ると、そこには珍しく母がいた。どうやら電話中の様だ。

 「…はい…はい…ありがとうございます…はい…はい…それでは…」

 母が電話を切ると、急にこちらに来た。

 「あら、彰人、もう帰ってきたの?」

 「まぁ…そうだけど。母さんこそ、なんか嬉しそうだね。何かあった?」

 「彰人、驚かないでね、実は…お父さんとまた住めるのよ」

 「えっ!」

 俺は驚いた。父とまた過ごせるのだ。しかし、次の瞬間、母は衝撃的な事を言った。

 「でも…ここから離れないといけないの」

 その言葉を聞いて、真っ先に森を思い出した。

 「そ、そうなんだ」

 「引っ越すのは明後日よ」

 「明後日ね。オーケー」

 その日は眠れなかった。

 次の日、俺は森にお別れの挨拶をしようと思い、公園に寄った。

 「おお、よく来たなぁ。丁度、絵ができた所だ」

 森は明るく、ウキウキとした状態で絵を見せた。そこにはりんごの絵が描いてあった。

 「このタイトルは『林檎』。りんごの艶とかを細かく描いたんだ。実はこれ、展覧会に出そうと思うんだ。どうだい、凄いだろう」

 俺の気を知らずにウキウキと話す森に怒りが湧き、俺は森にいった。

 「うるさいなぁ!そんなもん、勝手に出せよ!」

 「ど、どうした?」

 俺は公園を後にした。

 次の日、俺は引っ越し、父と久々に会った。父は嬉しく出迎えたが、俺は森の事が頭から離れなかった。







 数年後、俺は大人になり、結婚した。妻の名前は楓。俺は楓と、順風満帆な生活をしていた。森のことは一切忘れていた。

 ある日、俺は朝食を食べながらニュースを見ていた。

 「次のニュースです。あの森氏が、遂に大作を完成させました」

 俺は森という言葉を聞き、驚いた。場面が変わり、そこには元気そうな森がいた。どうやら、ニュースキャスターが森に質問していた。

 「やっぱり、この絵を完成させるにあたって、なにか、モデルとかはいましたか?」

 「えぇ、いますよ。名前は忘れましたが、高校生の心優しい子です。今、その子が何をしているかわからないですが、元気にしているといいです」

 森の描いた絵にはベンチに座って絵を描いている男と、その隣に座っている高校生が描かれていた。

読んでいただきありがとうございました…

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