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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第一部 勇者学院に潜入してやろう!
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仲良くしてやろう!

 勇者学院ブレイヴ、入学初日。

 我が輩は下ろし立ての制服に袖を通し、勇者学院の廊下を闊歩する。


 人間共の服装は三種類に分けられていた。

 制服の上に防具を着た者。

 とんがり帽子を被り、制服の上に黒いローブを羽織った者。

 法衣を着た者。

 どの科を受けたか、一目でわかる。

 防具を着た者は戦士科。

 とんがり帽子とローブを身につけた者は魔法科。

 法衣を着た者は僧侶科。

 そうに違いない。

 我が輩は制服の上にそれらを羽織るつもりはない。


 ふと、配下のバレットのことを思い出す。

 バレットは我が輩のサポートするため、この学院に潜入しているらしい。

 一体、どの科を受けた設定なのだろうか。

 おそらく今も、我が輩の近くにいるのだろうが、全く見当たらない。

 まあ、良い。

 その内、バレットの方からコンタクトを取ってくるだろう。


 考えている内に、我が輩は目的地の前に到着した。

 我が輩の所属するクラスの教室だ。

 我が輩は教室の扉に手をかけ、勢いよく開ける。

 最初は挨拶から。


「おはよう! これからこの我が輩が貴様らのクラスメイトだ。存分に仲良くしてやろう。光栄に思え。ふははははは!」


 明るく爽やかな笑顔で、教室に響き渡るように言ってやった。

 お近づきの印に《全回復》と《状態異常回復》の魔法も放っておいた。

 何か文献でも、『人間の輪の中に入る際は、回復魔法を放てば好印象』と書いてあったため、掴みはこれでばっちりだろう。

 そう思っていたのだが、我が輩は教室中の人間に睨まれていた。

 一体、何故。


「な、仲良く? 仲良くなんて、出来る訳ないだろ。ま、魔族、なんかと」


 席に着いていた眼鏡の男が、立ち上がりながら言った。


「おお。コレールではないか!」


 その男は戦士科の入学試験のときに出会ったコレールだった。

 我が輩は知り合いと会えたことに舞い上がって、コレールに近づく。


「同じクラスか! よろしくしてやろう!」

「ま、魔族と、話す気はない……!」


 コレールに顔ごと目を逸らされた。

 そんなに嫌がらなくても良いじゃないか。

 戦士科の入学試験を一緒に受けた仲だろう?


「えー。そんな言い方酷くない?」


 ボースハイトが教室の端でくすくす笑っている。

 端は端でも天井の端。

《飛行》の魔法で宙に浮き、天井に張り付いていた。


「教室内の悪い空気を変えようとしてくれてるんだよ? ね、ウィナちゃん」


 悪い空気……?

 教室内を見渡すと、人間共が三つのグループに分かれているのに気付いた。

 防具を着たグループ、とんがり帽子を被ったグループ、法衣を着たグループ……。

 それぞれ、戦士科、魔法科、僧侶科に入る予定だった者達のグループだ。

 三つのグループはまるでそこに溝があるかのように距離が開いている。

 僧侶科のグループにグロルの姿が見えた。


「グロルも同じクラスか。これからよろしくな」

「穢れた身で気安く話しかけないで下さいませ」


 グロルはそう冷たく言い放つ。

 初めて出会ったときは親しげに話しかけてきたのに……。

 グロルは「周り見ろ。話しかけるな」という目で我が輩を睨みつけた。

 ああ、そうだった。

 グロルは信心深い僧侶のフリをしているんだった。

 周りの目がある今、入学試験でフラットリー教の教えを否定した我が輩とは、親しげに話せないのだ。


「全く、自分が魔法を使えないからって僻むのは止めてよね」

「だ、誰が僻むか……! ま、魔族の力なんて、必要ない……!」

「お前達の傷を癒すのは何だと思ってるの? 魔法でしょ?」

「た、頼んでない」


 我が輩そっちのけで、コレールとボースハイトは言い合いを始めていた。


「くすくす。僕、お前のこと知ってるよ。勇者タイレの子孫」


 ボースハイトはゆっくりと床に降り立ち、歩いてコレールに近づく。


「ご先祖様が勇者だったなんて可哀想。勇者なのはご先祖様なのに、周囲の期待に応えて、自分も恐ろしい魔王に立ち向かわなきゃいけない」


 コレールの顔が強ばった。

 ボースハイトはニヤニヤと笑い、コレールの顔を舐めるように見つめた。


「本当は勇者になんかなりたくないのにね?」


 ボースハイトは思考を読む魔法が使える。

 勇者になりたくない──これはコレールの本心だ。

 コレールは震える拳を強く握った。


「お、俺もお前のことを、知ってる。悪名高い魔法使い・ボースハイト」

「今そんなこと関係なくない? 僕は君の話をしてるんだよ」

「聞いてるぞ。何度も人間に、討伐されてるって。つまり、お前は、悪名だけが高い、弱い魔族なんだ」

「はあ? じゃあ、弱いか確かめてみなよ! 《水の精霊達よ、天を見上げ、我と──」


 ボースハイトは詠唱とかいう長ったらしいセリフを言い始めた。

 それとほぼ同時に、コレールは床を蹴った。

 先手必勝、と言わんばかりのタックルがボースハイトの腹に綺麗に決まる。

 ボースハイトは堪らずえずく。


「──はっ……我と結びを交わせ》……」


 しかし、ボースハイトは詠唱を止めない。

 想定外だったのか、コレールの動きが一瞬止まってしまった。

 戦場ではその一瞬が命取りになる。


「《氷結》!」


 ボースハイトの魔法が発動し、コレールの足下が一瞬で凍り付いた。

 ボースハイトはすかさず後ずさり、コレールから距離を取った。


「げほっげほっ……くすくす。いい気味」


 コレールは足を動かそうと身体を捩るが、凍り付いた足はびくともしない。

 我が輩のように氷のブーツを作りたいなら、強化魔法を自身にかけなければならない。

 が、コレールは魔法を使わないだろう。


「こ、この、魔族め……!」


 コレールは唇を噛み締め、拳を震わせるしか出来ないようだった。


「コレール様!」


 他の僧侶達をかき分け、グロルが前に出る、

 グロルはコレールに駆け寄ってこう言った。


「今、癒します」


 グロルが魔法を使うために患部へ手を翳す。

 しかし、コレールがその手を払い除けた。


「ま、魔族の施しは、受けない……!」


 グロルは払われた手を見つめて、目を潤ませた。


「なら、一生そのままだねえ。土下座するなら解いてあげなくもないよ。あっ、足凍ってるから土下座出来ないか! あはは! ……げほっ!」


 ボースハイトは声を上げて笑うが、タックルのダメージが残っていたのか、直ぐに咳き込んだ。


「強がらないで下さいませ、コレール様」


 グロルが再びコレールに手をかざす。


「《フラットリー様のご加護があらんことを》……」


 グロルは詠唱なるものを呟き、コレールに《凍結回復》を使う。

 みるみる内に足を固定していた氷が溶けていく。


「おお……。穢れた者にもグロル様は慈悲深い……」


 僧侶グループからそういった言葉が口々に聞こえてくる。

 グロルの本当の顔を知ってる我が輩には、『慈悲深いフラットリー教の信者』を演じるためのパフォーマンスにしか見えなかったが……。

 僧侶共はこいつの被ってるケットシーに見事に騙されているようだ。


「よ、余計なことを……」


 コレールは動かせるようになった足を摩った。

 足が動くようになって安堵しているのが、表情からも読み取れる。

 意地を張らずに感謝の言葉でもかけたら良いものを。


「ボースハイト様も癒します」

「僕を舐めるな」


 ボースハイトがブツブツと詠唱らしきものを咳混じりに呟くと、ボースハイトの咳がピタリと止まった。


「《回復》くらい僕にも出来る。お前達の専売特許だと思うなよ」

「……そうですか。ええ。魔族にはいらぬ気遣いでしたね」


 グロルはボースハイトに背を向けた。

 ボースハイトも鼻を鳴らして顔を背ける。

 戦士と魔法使いと僧侶は本当に仲が悪いらしい。

 この調子では、人間が我が輩に勝つことなど出来やしない。

 そう思ったとき、鐘の音が鳴った。


「なんだこの音は? 敵襲か?」

「いえ、予鈴ですな」


 ガラリ、と教室の扉を開けた者から、そう言われる。


「ほら、皆さん、席に着いて下さいな」


 その者はパンパンと手を叩き、着席を促す。

 その話し方には聞き馴染みがあった。

 バレットだ。

 我が輩はそいつの姿を目で見た。

 姿形こそ違うが、魔力は変わっていない。

 そいつは高いヒールの靴をコツコツと鳴らしながら歩き、教壇に立った。


「初めまして。私はこのクラスの担任のバレットですな。今後ともよろしくですな」


 そう言って、人間の女に扮したバレットは前髪を手で払った。

 ……学院に潜入するって、教師側だったのか。

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