約束してやろう
クヴァールが光に変わっていく。
数多くの魔物を生み出し、人間を恐怖させた存在はもういない。
悲劇の魔物が生まれることは、二度とないだろう。
「終わった……のか」
コレールが光を見つめながらそう呟く。
「いや、まだ終わってない」
コレールはゆっくりと顔を動かし、我が輩の顔を見た。
「世界は未だ混乱に包まれている」
コレールはハッと、そのことを思い出したようだった。
「そうだよ、コレール。僕のせいで、人間達は今も無意味に争ってる」
ボースハイトは目を伏せてそう言った。
我が輩は首を横に振る。
「ボースのせいではない。フラットリーのせい──元を辿れば、ラウネンの策略のせいだ」
「もし今、魔族が攻め入ってきたら……」
「それはない。魔族は王を失った。人間に攻め入る余裕はないだろう」
【掌握王】ラウネン。
【生殺王】メプリ。
【始まりの王】クヴァール。
四天王の大半を失った。
残った四天王【最弱王】ルザは魔王になる器ではない。
人間からも、魔族からも逃げ回るだろう。
我が輩はもう、魔王ではない。
クヴァールの提言により、我が輩に従う魔族は、もういないだろう。
人間と魔族の大混乱。
我が輩は〝全てを解決する方法〟を既に思いついていた。
我が輩はコレール、ボースハイト、グロルに笑いかけた。
「我が輩の配下がすまなかったな。そして、今まで付き合わせて悪かった」
「何を、今更……。出会ってからずっと、振り回されっぱなしだったよ」
コレールはそう言って笑う。
「これからは自由に生きろ」
そう言うと、三人は目を丸くした。
我が輩達は、我が輩と戦うために出会った。
もう我が輩に三人と戦う意志はない。
三人を勇者の役目から解放しよう。
「さあ、行け。魔王軍が来る前に」
「ウィナはどうすんだよ?」
グロルが尋ねる。
「我が輩はここで成すべきことがある」
我が輩は行け、と手で示す。
コレールとグロルは困ったように顔を見合わせた。
ボースハイトは真剣な面持ちで言った。
「死ぬなよ」
我が輩は鼻で笑う。
「我が輩を誰だと思っている」
「そうじゃなくて──いや、いい」
ボースハイトは我が輩の目を真っ直ぐ見て言う。
「じゃあ、約束して。また会おうって」
「ああ、約束してやろう」
「……本当に?」
ボースハイトは我が輩を疑っているようだった。
我が輩はため息をつきながら言った。
「そんなに心配なら、また会えるように魔法をかけてやろう」
我が輩は皆に魔法をかけた。
ふわり、と生温かい風が皆の頬を撫でる。
「また会えるように、と願いを込めた」
まじない程度の効果しかないものだが、ないよりはマシだろう。
「これで良かろう、ボース」
ボースハイトは納得していないようだった。
コレールがボースハイトの肩を叩いた。
「ボース、行こう」
「でも、こいつ、約束守る気ないよ、絶対」
「ウィナを信じようぜ。魔法を使ってまで、約束してくれたんだからよ」
グロルはそう言って、からっと笑った。
三人は渋々、玉座の間を出て行った。
静かになった玉座の間で、我が輩は一つため息をついた。
「……全く、ボースハイトめ、思考を読みおって」
我が輩は魔力が枯渇していて、《思考防御》が出来なかった。
だから、思考が読み取られるのは仕方ないことだ。
「おかげで、決意が揺らいでしまったではないか」
タイレが使っていた、心血を注ぎ、常人では出来ないことを成す魔法。
それを使い、魔族を剿滅する。
我が輩の心血を注げば、それぐらい可能なのだ。
我が輩は〝最強の魔王〟なのだから。
魔族がいなくなれば、人間達の争う理由も、なくなる。
コレール達が不安に思う音もなくなる……。
──代わりに、我が輩はこの世界から消えてなくなる。
三人にはもう二度と会えないだろう。
彼らともう一度会う約束は果たせない。
ボースハイトだけでなく、コレールやグロルも怒るだろう。
我が輩を信じてくれたのに、本当に申し訳ない。
「でも、これは世界を滅茶苦茶にした、せめてもの償いなのだ……」
コレール、ボースハイト、グロル。
三人の勇者が、これから、生き辛くないように。
悲しまないように。
苦しまないように。
我が輩は願っている。
我が輩は掌を上に向けて、一世一代の魔法を使う。
指先から徐々に光に変わっていく。
胴体、足、そして、頭が消えかかったところで、我が輩の視界は眩い光で支配される。
あまりに眩しくて、我が輩は目を閉じた。
瞼の裏に浮かぶのは三人の顔だった。
「──ウィナ!」
三人の声が聞こえて、我が輩は目を少しだけ開けた。
三人の戸惑っている顔が見えた。
貴様ら、何故、戻ってきたんだ。
と思うが、直ぐにボースハイトが密告したのだと納得する。
……ああ、そんな顔しないでくれ。
我が輩は貴様らのためにこの身を捧げるのだ。
臆病だが、仲間のためなら勇者にもなれる、コレール。
素直ではないが、仲間を誰よりも大切に思っている、ボースハイト。
狡猾だが、かなり情に熱い男、グロル。
三人と出会えたこと、旅を出来たこと、感謝している。
名残惜しいが、お別れだ。
「出来ることなら、また何処かで──」
終わり




