反逆されてやろう!
魔族や魔物は総じて、死後に眩い光に変わる。
我が輩が編み出した【経験値システム】によって、魔物は人間の経験値となる。
四天王の一角【掌握王】ラウネンもその例外ではなく、ラウネンの身体は光となって、空気中に消えていく。
膨大な経験値の光は王城に収まらず、窓から溢れて飛び出していった。
我が輩はそれを黙って見届けた。
諸悪の根源は葬り去った。
ボースハイトも元通りになり、グロルとも仲直り出来た。
残る問題は、ラウネンの策略によって、始まってしまった人間同士の戦争。
ラウネンという王がいなくなったブレイヴ王国の今後もどうなるか……。
問題は山積みだった。
「ラウネンを討ったのですね」
バレットが音もなく、我が輩の後ろに現れた。
我が輩は振り向く。
バレットは経験値の光を手で掬う。
光は手をすり抜けて、窓の外へと飛び立っていく。
「ラウネンは死体すら残すことを許されない……」
「バレット……」
我が輩はバレットを睨みつけた。
「今まで何処で何をしていた? フラットリーの進行を食い止めろと言ったはずだが。この体たらくはなんだ」
フラットリーはラウネンの城まで来ていた。
バレットがフラットリーを食い止めていたのなら、ここまで来れない。
これはバレットの怠慢が招いたことだろう。
バレットは謝るでも、弁明するでもなく、こう言った。
「御言葉ですが、『何をしていた』は私の台詞かと」
「それはどういう意味──」
「何故、ラウネンを殺したのですかな?」
バレットが食い気味に言う。
ラウネンを殺したのは気に食わなかったから。
そういう気分だったから。
それらの言葉だけで片付けられるのを拒むような、強い口調だった。
「先生! 違うんです! ラウネン陛下は魔族だったんです! ウィナは魔族を倒しただけなんですよ!」
グロルが慌ててそう弁明する。
グロルは勘違いをしている。
人間の我が輩が、人間の王のラウネンを殺したことに、人間のバレットが怒っていると思っている。
しかし、実際は違う。
魔王の我が輩が、魔族のラウネンを殺したことに、魔族のバレットが怒っているのだ。
「知っていますな。だから、聞いているのですよ。──【剿滅の魔王】に」
バレットの発言に場の空気が凍りつく。
「えっ……?【剿滅の魔王】……?」
「それって、千年前に聞いた、本当の魔王の名前……。なんで、千年前に行っていないバレット先生が知ってるんだ……?」
コレールとグロルが懐疑的な目で我が輩を見る。
我が輩はバレットを睨みつけ、バレットだけに聞こえるように言う。
「おい、バレット。種明かしを許した覚えはないぞ」
「魔王様、茶番は終わりにしましょう」
バレットはやれやれ、と首を振った。
「【始まりの王】クヴァール様からの伝言です──」
『勇者育成ごっこは楽しかった? ラウネンを殺したのも遊戯の一環? お戯れが過ぎますよ、【剿滅の魔王】。貴方はもう必要ない。王の座から退きなさい』
「──以上です」
我が輩は歯を食いしばる。
「貴様は誰の従者だ」
「元より、魔族を統べる王に」
バレットは頭を下げる。
魔王を統べる王は暗に、我が輩ではないと言っている。
【始まりの王】クヴァール──魔族軍を立ち上げた初代魔王。
我が輩の前の魔王である。
クヴァールは自らの意志で我が輩に魔王の座を明け渡し、四天王に収まっていた。
反逆されるとは思っていなかった。
よりにもよって、今。
「ウィナが【剿滅の魔王】だなんて嘘だよな……? 何処をどう見ても人間じゃん!」
グロルがそう言って、コレールとボースハイトに同意を求める。
だが、二人は煮え切らない反応を示した。
「信じませんか。では、ご覧下さい」
バレットが手で我が輩を示す。
次の瞬間、我が輩のまとっていた人間の顔の皮膚がボロボロと剥がれ始めた。
「貴、様……! 何をっ……!」
「剥がすのですよ。貴方様の被っている化けの皮を」
「ぐっ、ぐあああああ……!」
《擬態》が解けていく。
大部分の魔力を失っている今の我が輩では、上手く抵抗出来なかった。
我が輩の顔半分の皮膚が剥がれ落ち、黒いモヤが吹き出した。
他にも、額からは一本の角、背中からは片翼、右手は鉤爪が飛び出す。
「やめろっ!」
我が輩はバレットに炎の球を飛ばす。
バレットは炎の球をさっとと避ける。
《擬態》魔法が解除されるのが止まった。
しかし、もう遅かった。
人間の皮が中途半端に剥がされ、我が輩の姿は魔物とも人間とも言えない異形のものに成り果てていた。
「……これがウィナくんの真の姿です」
バレットが淡々と言う。
我が輩は恐る恐る三人を見る。
「コレール……」
コレールは顔を真っ青にして、怯えていた。
「ボース……」
ボースハイトは額に汗をかき、我が輩を睨みつけていた。
「グロル……」
グロルは目を疑っている。
三人の顔に浮かんでいたのは恐怖と怯え。
決して、仲間に向けられるものではないものだ。
「……あ……」
そう感じたとき、我が輩は居た堪れなくなった。
次の瞬間、我が輩は三人に背を向けて駆け出した。
そして、迷うことなく、窓から外へと身を投げた。




