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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第三部 決着をつけてやろう!
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計画を聞いてやろう!

 現代──。

 防具を着た人間──俗に言う戦士と呼ばれる人間達がいる。

 彼らは剣を振り上げ、法衣を着た人間──俗に言う僧侶達に斬りかかった。

 僧侶達は一斉に呪文を唱えて炎魔法を放った。

 近づいてくる前に戦士を殺そうと躍起になっている。

 炎魔法は牽制するのに適している。

 人間達は火に対して潜在的な恐怖を感じるのだ。

 皮膚に触れれば火傷をしてしまうし、服に触れれば燃え上がってしまう。

 だから、人は炎を避ける。

 今もそうだ。

 戦士が避けた炎が近くの草木や建造物に当たり、燃え広がっていっている。


「お母さん、どこ?」


 甲高い声が聞こえてきた。

 声のした方を見やると、子供が泣きながらとぼとぼと歩いてある。

 戦火の中で親とはぐれたのだろう。

 命のやり取りをしている者達にはそんなこと、瑣末なことのようだった。


 各地で、同じような出来事が起こっている。

 人間達は無意味に殺し合い、弱者の泣き叫ぶ声を聞かないことにしている。

 その様を、ラウネンは自分の城から満足そうに見下ろしていた。


「いつの時代でも愚かだね、人間は」


 ラウネンはくすくすと笑う。

 人間達は道徳やら倫理やらを説く。

 その癖に、動物や草花、魔物を平気な顔をして殺し、あわよくば死体を食らう。

 今でこそ魔物を食らうことはなくなったが……矛盾していて、歪んでいる。

 ラウネンの背後で扉が開く。

 誰が入ってきたか、振り向かなくてもラウネンにはわかっていた。 


「遅かったねっ。待ちくたびれたよ──」


 そう言って、ラウネンはくるりと後ろへ振り返る。

 そこに立っていたのは煌びやかな装飾品に身を包んだ赤い髪の男。


「──フラットリー」


 この人間同士の戦争を引き起こした張本人であった。

 フラットリーは人間達に『聖人』と呼ばれ、祭り上げられていた。

 彼の号令で、人間達は醜い戦争を始めた。

「魔族狩り」とは名ばかりの、狂信者による虐殺だ。

 襲われた魔法使いは必死に抵抗した。

 争いは争いを呼び、戦士は勿論、何の力も持たない一般人をも攻撃し始めたのだ。

 ラウネンは非常に愉快であった。

 フラットリーは片膝をつき、ラウネンに向かって首を垂れる。


「遅れて申し訳ありません、ラウネン様」

「次はないからねっ。時をも掌握するボクにとって、時を大切にしない奴ほど憎いものはないからさっ」


 人間が祭り上げていたフラットリーという男は、ラウネンの手の内のものだった。

 むしろ、ラウネンがこの男を信仰するよう、人間達を誘導していた。

 フラットリーは顔を下にしたまま話す。


「ラウネン様のご命令通り、我が教徒達に人間を襲わせました。これから各地で紛争が起こることでしょう」

「うんうん! 人間同士で殺し合っているのが、ここからも見えるよっ。ボクの思い通りだねっ! 邪魔者も千年前に置いてきたし……」


 ラウネンは再び城の外に目を向ける。

 水色の空の下、赤い血を流す人間達が映える。

 ラウネンは人間達を見下ろして、邪悪な笑みを浮かべた。


「人間共を根絶やしにして……ボクがこの世界の支配者となる」

「──それが貴様の目的か」


 声が聞こえた次の瞬間、窓のすぐ横の壁に我が輩達がぶち当たり、崩壊した。

 我が輩とコレールとグロルが、ラウネン達の前に立つ。


「……も~。何回壁を壊したら気が済むのさっ?」


 ラウネンはうんざりしたように言った。


「どうやって戻ってきたの? もう一度、千年の時を超える魔力なんてなかったはずだよねっ?」

「貴様には関係ない」


 我が輩は毅然とした態度で言った。

 ラウネンは肩をすくめる。


「あっそ。そんなに興味ないから良いけどっ」


「陛下!」とコレールが叫ぶ。


「ここに来る道中、各地で人々が戦ってるのを見ました! 一体どうなっているんですか!?」

「さあ? そこにいる人間に聞いたらわかるんじゃない?」


 そう言って、フラットリーを指差す。

 呼ばれたフラットリーがスッと立ち上がって、我が輩達に顔を見せた。


「……ボース」


 グロルが複雑そうな顔でフラットリーを見た。

 フラットリーは優しく微笑むだけで何も言わない。

 確かに、魔族狩りという名分で教徒達に人間を襲わせたのはフラットリーだが……。


「フラットリーに命令したのは貴様だろう」

「ボクは王様だけど、世界の救世主様を従わせる権力はないよ」

「貴様が創り上げた偽りの救世主だろう」


 ラウネンはきょとんとした顔をする。

 我が輩が気づいてないとでも思っていたのだろうか。

 我が輩を千年前に置き去りにしたときもそうだが、こいつは我が輩を馬鹿にし過ぎだ。


「……なーんだ。わかっちゃったんだ? フラットリーなんて本当は存在していないってこと」


 ラウネンは悪びれもなく言う。


「いやあ、フラットリーを歴史に割り込ませるのには時間がかかったなあ」


 その言葉を皮切りに、計画の全貌をベラベラと話し始めた。

 過去を書き換える魔法を駆使して、歴史や宗教を創り上げた。

 魔法を使う者は魔族だと迫害されるように。

 それ以外は魔法を使わない戦士になるように。

 迫害されたくない魔法使いはフラットリー教を信じるように。


「全ては人間の弱体化のため」


 ラウネンが仕組んだ嘘だったと。


「人間達も、魔族の創った架空の人間を崇めてるとは思ってなかっただろうねっ。にゃぱぱぱっ!」

「魔族……!?」


 コレールとグロルが反応する。

 そういえば、まだ二人は知らなかったか。

 ラウネンは魔族──しかも、四天王の一角だということを。

 ラウネンの考えていた計画は、概ね我が輩の予想通りだ。

 だが一つ、ラウネンが話した計画の中で腑に落ちないことがある。


「ボースハイトをフラットリーにするつもりなら、何故、数年放置していた?」


 フラットリーにするつもりなら、ボースハイトという人格が形成される前に、さっさとフラットリーにしてしまえば良かったのだ。

 それを何故しなかったのか、気になった。


「フラットリーの身体を用意したのは良いけど、人格を創るのに行き詰まっちゃってさあ。構想が固まるまで、放置してたんだよねっ」


 そんな身勝手な理由で、ボースハイトは自分を捜し回っていたのか……。

 顔が熱くなるのを感じる。


「悪さするようになったのには困ったなあ。仮にも人類を導く存在なんだからさ」

「破滅にか?」

「あるべき姿にさ。魔族にひれ伏すその姿に」


 ラウネンは口元に弧を描いた。

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