計画に気づいてやろう!
「あのじーさんが言うにはここらにブジャルドなんてねえらしいが、これからどうすんだよ!?」
「フラットリーのことも、知らないみたいだったな……」
まあ、この時代を生きていた我が輩も知らないくらいだ。
かなり狭い範囲で活動していたに違いない。
「お、おかしいよな。フラットリーが魔法を与えたのなら、魔法を使えるお爺さんが、知らないはずがない」
「そうそう! しかも、聞いてた話と全然違うし! メプリが魔王じゃねえってどういうことだよ!?【剿滅の魔王】って何だよ!? フラットリーって信じちゃダメなん奴なんじゃねえのか!?」
やっと気づいたか……。
フラットリーが人間達に魔法を教えたのは嘘。
魔王がルザ又はメプリなのも嘘。
ブジャルドが聖地なのも嘘。
ここまで来ると、もうフラットリーの存在自体が嘘なのではないかと思うくらいだ……。
「……嘘?」
ふと、我が輩の頭にとある考えが過ぎった。
転生し、ボースハイトの体を奪ったフラットリー。
奴を見るに、千年前でも十分通用する魔法の使い手だった。
あんな逸材を千年前の我が輩が見逃すだろうか。
……否、あり得ない。
フラットリーが突然、この世界に現れたりしない限り……。
「……おい。ラウネンは何処だ」
我が輩はコレールとグロルにそう問う。
二人はハッとして、周囲を見渡した。
「あ、あれ? そういえば、いない……!?」
「じーさんに話しかけたときは確かにいたぜ!? 何処にいったんだ!?」
しまった。
「嵌められた!」
我が輩は憤慨し、地面を叩いた。
その音が荒地に虚しく響く。
我が輩の只事ではない様子に、コレールが心配そうな顔で我が輩に聞いた。
「ど、どういうことだ? ウィナ。嵌められたって……?」
「《《フラットリーなんて初めから存在してなかったのだ》》!」
「え!?」
「全てはラウネンの嘘だったのだ!」
過去と未来を掌握する【掌握王】ラウネン。
奴は時間操作や時空間操作だけでなく、人間に偽りの過去を植え付ける魔法も得意としている。
ラウネンは人間達に偽の記憶を植え付けたのだ。
『フラットリーという偉人がいた』と。
人間に魔法を与えた聖人、人間を救う救世主などと謳って。
フラットリー教やフラットリー文書などを作って真実味を帯びさせ、人間達に信じ込ませた。
フラットリーなど、存在すらしていないのに……。
「フラットリーがボースハイトの身体を乗っ取ったのは、転生なんてものではない……」
ただ、ボースハイトの人格と記憶が、ラウネンに都合よく創られた人格と記憶に、上書きされたに過ぎなかったのだ。
フラットリーが我が輩を知ってたのも、ラウネンがフラットリーの創造に関わっていたからだろう。
ラウネンにとって、フラットリーを消そうとする我が輩は邪魔な存在だ。
だから、ラウネンは我が輩を千年前に置き去りにした……。
「全て……。全てが……ラウネンの手の上……」
我が輩は悔しさに、ぎりぎりと奥歯を鳴らした。
「つか、ラウネン様がいなくなっちまったら、どうやって元の時代に帰るんだよ!? 時を超えられる魔法を知ってる唯一の人だぞ!?」
グロルが突然慌て出す。
「それに関しては問題ない。百年単位の《時空間移動》はそらで出来る」
「で、出来るのか……」
コレールは困惑した。
「しかし、先程の《千年時空間移動》でかなりの魔力を使ってしまった。千年分超える魔力は今ない。だからといって、魔力が回復するまで待っていられない」
ラウネンは時間魔法のエキスパート。
我が輩を千年前に閉じ込めるぐらい造作もない。
出来るだけ、我が輩が不在の時間は作ってはならない。
「じゃあ、どうするんだ……?」
我が輩程の魔力を有している者から魔力を借りるしかない。
例えば、四天王……。
ラウネンは論外だ。
あいつはこの時代の自分にも根回しを終えているだろう。
ルザは我が輩程の魔力を有しているかわからない。
最弱王という名は伊達ではないのだ。
メプリとは話す前にコレールとグロルが殺される。
千年後、ラウネンとの戦闘を考えると、蘇生する魔力を節約したい。
そうすると、四天王最後の一角、クヴァールだけとなるが……。
……期待出来ない。
あいつは、話すだけ無駄だろう。
他に、我が輩程の魔力があり、この時代を生きる者はいるか……?
「……はは」
我が輩は自分の思いつきに思わず笑ってしまった。
……条件に当てはまる者が一人いるではないか。
「【剿滅の魔王》に魔力を借りる」
「は!?」
千年前の我が輩ならば、《千年時空間移動》を楽々発動出来るだろう。
千年前と言えば、勇者が来なくなり始めた頃だし、魔力は有り余っているはずだ。
「安心しろ。一度発動した魔方陣は忘れぬ」
「重要なのそこか!? 魔力が足りないんだよな!?」
「魔王の目の前で魔方陣を描いて、発動して貰う」
「いやいやいや! 発動して貰うって、どうやって頼むつもりだ!? 殺されて終わりだ!」
「問題ない。我が輩に策がある」
我が輩を言いくるめる方法は、何より我が輩自身がよく知っている。
「では、いざ、魔王城へ」
コレールとグロルの腕を掴み、グッと足に魔力を込める。
そして、目的地の方角へ、高く跳び上がった。