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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第三部 決着をつけてやろう!
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老人と話してやろう!

「座標ではここがブジャルドなのだが……」


 周囲を見渡しても村がない。

 それどころか、家の残骸や枯れた植物すらない。

 荒地が広がっているだけだ。


「……どうなっている?」


 我が輩はブジャルド行きを言い出したグロルを見る。

 グロルはぶるぶると首を横に振った。


「いや、俺が知る訳ないじゃんか」

「それもそうか」


 では、何故?

 まさか、千年前にフラットリーがいたというのは嘘なのか?

 それとも、ブジャルドがフラットリー教の聖地ということが嘘?

 ここにバレットがいれば直ぐ調べさせるのだが、バレットは現代に置いて来てしまったからな……。


「つーか、そもそも、ここ本当に千年前なのか?」

「間違いなく、千年前だよっ!」


 グロルの言葉にあの魔法を作った張本人、ラウネンが胸を張って言う。


「あの魔法陣はボクが生涯を賭けて作り上げた完璧な魔法陣! 失敗なんてあり得ない!」

「でも、あの魔法を発動したことないんですよね?」


 グロルが疑いの目をラウネンに向ける。

 ラウネンはそれから逃げるように目を逸らした。


「り、理論上は可能だもんっ!」


 グロルが疑うのも無理はない。

 初めて発動した魔法ならば尚更。

 しかし、魔法の失敗はない。

 我が輩がさっと見たところ、魔法陣には時を超えるための術式がちゃんと組み込まれていた。

 確実に時は超えている。

 ブジャルドがあった場所にブジャルドがないのが、その証だ。


「あ!」


 ラウネンは目を逸らした先に何かを見つけたらしい。

 ラウネンの視線の先に目をやると、そこには一人の老人がいた。

 老人は岩に腰をかけて、項垂れている。


「ラッキー! 人がいるよっ! あの人に聞いてみようっ!」

「そうですね……。すみませーん!」


 グロルが大きく手を振りながら老人に駆け寄る。

 老人はそれに気づいて、ゆっくりと顔を上げた。


「ブジャルドって村を探してるんですんけど、何処にあるか知りませんか?」

「ブジャルド? はて……。道を間違えたのでは?」


 老人の言葉を聞いて、コレールとグロルが顔を顰める。


「な、訛りが、強いな。聞き取れない……」

「訛りって言うか、言語が微妙に違うねっ。これは……古語かなっ?」

「あ、そうか。ここは、千年前だから、古語が使われてる時代なのか……」


 あたかも予想のように言っているが、ラウネンも古語を使っていた側だ。


「そういや、学院で古語の勉強したっけな……。うぐぐ、記憶を頼りに翻訳するっきゃねえ」


 と、言っていたグロルだったが、直ぐに頭を抱えてしまった。


「古語なんて何の役に立たねえと思って、まともに聞いてなかった……。こんなことなら、ちゃんと勉強しときゃ良かったぜ!」


 やはり、言語の壁は大きい。

 人間と魔族は勿論、魔族同士でも言語が違うことがある。

 僻地の部下と会話するときそれはもう面倒だった。

《翻訳》魔法を作ってからは大変楽になった。

 ……そう考えると、我が輩とコレール達の間には言語の違いがあるだろう。

 我が輩が普段から《翻訳》魔法を使っているから知らないだけで。


「聞き取れないようだのう。では……」


 老人はコレール達に《翻訳》魔法をかけた。


「これで聞き取れるかのう?」

「……あっ。聞き取れる! なんで!?」

「《翻訳》魔法じゃ。そんなに驚くような魔法ではないのじゃが……」


「ふむ」と老人は自分の顎の髭に手を当てる。

 コレールとグロルを髪の毛の先から足のつま先までまじまじと見た後、こう言った。


「君達はこの時代の人間ではないようだのう」

「えっ。ど、どうしてわかったんですか?」

「ふぉっふぉっ。この時代を生きてきたにしては、少々軟弱過ぎるからのう」

「な、軟弱……」


 コレールはショックを受けている様子だ。

 事実、コレールとグロルは弱い。

 サラマンダー以上の強さを持つ魔物はこの時代にごろごろいる。

 コレールとグロルはまず生き残れないだろう。


「して、何をしにこんな時代に来たんじゃ」

「人を捜しに来たんだ。フラットリーって奴。じーさん、知ってるだろ?」


 老人は首を傾げる。


「フラットリー……? 知らぬのう」

「あれ……?」


 コレールとグロルはサッと顔を寄せ合う。


「どういうことだよ? フラットリーは人間に魔法を与えたんだろ? だったら、有名のはずじゃねえのか?」

「そ、そうだよね……。魔法が使えるなら、知ってておかしくないのに……」


 それはフラットリーの嘘だ。

 人間に魔法を与えたのは我が輩である。

 しかし、困ってしまった。

 この時代はフラットリーの嘘がまだ浸透していないらしい。

 つまり、フラットリーは有名人ではないということ。

 名前を出しても、首を傾げられるだけだろう。

 どうやってフラットリーを捜すべきか……。

 やはり、飛び回って捜す他ないか。


「人捜しもほどほどにして、早く元の時代に帰った方が良いぞい。いつ【剿滅(そうめつ)の魔王】が気紛れを起こして、世界を滅ぼすかわからぬからのう」

「そうめつのまおう……? ま、魔王メプリって、そんなに、強いんですか」

「メプリ? いやいや、メプリは魔王ではないぞい」

「え? じゃ、じゃあ、ルザが魔王ですか?」

「メプリもルザも、魔王の従えてる四天王の名前じゃ。メプリは【生殺王】とも呼ばれておる。ルザは【最弱王】……じゃったかな」

「してんのう……? せいさつおう……? さいじゃくおう……?」


 千年後では聞かない単語がどんどん出て来て、コレールが混乱しているようだ。


「メプリも強いが、【剿滅(そうめつ)の魔王】は規格外に強い。あれを止められる者など、今の時代にはおらぬじゃろう。悪いことは言わん。早く元の時代に帰るのじゃ」

「そういう訳にもいかねえんだよ。フラットリーを止めねえとボースが……」


 グロルが唇を噛み、ぎゅっと拳を握り締める。

 その様子を見て、老人が聞く。


「ボース?」

「そう。ボースハイトつって滅茶苦茶悪い奴」


 悪い奴なのか……。

 まあ、良い奴とは言えないが。

 ボースハイトは意地が悪くて、自分勝手の奴だった。


「でも、俺の大事な仲間なんだ。フラットリーのせいでいなくなっちまった……。だから、それを止めに来たんだ」

「そうか……」


 老人は遠くを見つめる。

 しかし、直ぐ視線をグロル達に戻し、穏やかに笑う。


「なら、何も言わぬよ」

「悪い。手間取らせたな、じーさん」

「いいや、有意義な時間じゃった」


 コレールとグロルが老人に背を向けて歩き出す。

 我が輩も同じように歩き出そうとした。

 そのとき、老人が近づいてきて、我が輩に耳打ちをした。


「君、《《【剿滅の魔王】じゃろう》》?」


 ドクン、と我が輩の胸が高鳴った。


「擬態していてもわかる。魔王の恐ろしさはこの身体に染みついておるからのう」


 老人は震える手を見せつけてきた。

 我が輩はハッとして、コレールとグロルを見る。

 二人は二人でこそこそと話していて、老人の声は聞こえていないようだった。


「フッ。恐怖が身体に染みつくとは、流石《《臆病者だ》》」


 そう言うと、老人は目を丸くした。


「まさか覚えておったとは。わしのことなど、とうに忘れているものだと思っておった」

「思い出すきっかけがなかったら、忘れたままだったかもしれんな……」


 再び二人を見る。

 彼を思い出したのはコレールと出会ったのがきっかけだった。

 同じ日に、ボースハイトやグロルと出会った。

 遠い昔のように思えるが、はっきりと覚えている。


「未来はわからぬものじゃのう……」


 老人は我が輩と同じように二人を見て、しみじみと言う。


 何を言っておる。

 《《そんな未来に貴様は託したのだろう》》?


「ではな。タイレよ」


 そう言って、我が輩達は老人──タイレ・ムートと別れた。

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