王を脅してやろう!
浮遊魔法でブレイヴ王国の上空を通過する。
その最中、見覚えのある建物が見えた。
勇者学院ブレイヴだ。
そういえば、ボースハイト達と出会ったのはあそこだったな……。
我が輩は首を横に振る。
……今は過去を懐かしんでいる場合ではない。
目指すはブレイヴ王国の中心。
ブレイヴ城だ。
顔を進行方向に向けると、ブレイヴ城が見えて来ていた。
やっと到着だ。
飛んでる勢いそのまま、我が輩はブレイヴ城の壁にぶち当たる。
石の壁が砕け、我が輩は城の内部へと侵入した。
床に着地をし、足でスピードを落とした。
「ぎゃー!?」
寝間着姿でベッドに横になっていたラウネンが、悲鳴を上げて飛び起きた。
「へっ!? 何っ!? 何なのっ!?」
ラウネンは青い顔をする。
前のように護衛騎士が我が輩の邪魔をすることはない、
予め、この部屋に防音魔法を使っておいた。
「うぃ、ウィナー!」
我が輩と共に壁をぶち抜いたコレールが声を荒げる。
コレール達の実力では、我が輩の飛行スピードについて来れない。
故に、我が輩は二人を引っ張って飛んだ。
だが、少しスピードを上げ過ぎたか。
へたり込んでいるコレールの横で、グロルが目を回している。
コレールはフラフラしながら立ち上がると、我が輩にズカズカと近づいてきた。
「な、何やってるんだよ! 城に乗り込むなんて! 正気か!?
「正面から入れと? 討伐依頼が出されている者を城に入れるか?」
「ううー! 入れないだろうけど! これ、マズいって!」
「何をそんなに怯える必要があるのだ。自分の城に乗り込まれた訳でもあるまいに」
コレールがぎゃあぎゃあ文句を言ってる間、視界の端で、ラウネンが動いているのを我が輩は見逃さなかった。
ラウネンはベッドから這い出し、扉の方に向かいながら叫ぶ。
「だ、誰か来てー! 侵入者だよ──ぐむっ!?」
すかさず、《転移》魔法でラウネンの背後を取る。
そして、口の中に手を入れて言葉を奪った。
「静かにしろ。殺されたくなくば、我が輩に従え」
「それ、悪者の台詞だよ! も、もっと穏便にして!」
「穏便にしている余裕はない。ラウネン、《時空間移動》の魔方陣は何処にある」
ラウネンの元に来た目的はそれだ。
時空を超える魔法。
ラウネンは四天王の一角、未来と過去を掌握する【掌握王】でもある。
時空を超える魔法はお手の物だ。
「さあ、言え」
「あががががが!」
「……ああ。このままでは話せないな」
ラウネンの口から手を引き抜くと、ラウネンは呼吸を整えずに話し出した。
「じ、《時空間移動》? 魔方陣が必要ってことは百年移動するってことっ?」
「たった百年ならば貴様の手なぞ借りぬ」
「だよねだよねっ? 一体、何年移動するつもりっ? 二百年? 五百年?」
「千年だ」
「千年!?」
驚くのも無理はない。
百年の《時空間移動》の魔法は何千年も前にラウネンが完成させているが、千年というのは前例がない。
そもそも、百年の《時空間移動》を十回繰り返せば千年の《時空間移動》は出来るのだ。
問題は、小分けにすればする程、タイムラグが生まれてしまうこと。
未来に行こうとすれば目的の時間より未来にずれ、過去に行こうとすれば目的の時間より未来にずれる。
それを考慮しても、千年《時空間移動》の魔法は必要ないという意見が圧倒的に多く、現在開発はされていない。
だが、我が輩は知っている。
「千年もの時を超える《時空間移動》の魔方陣。貴様ならば完成させているはずだ」
□
「もーっ! 暴力で訴えれば何でも通ると思わないでよねっ!」
そうぶつくさ言いながらラウネンは先頭を歩き、魔法陣がある場所へと向かう。
「陛下ってこんなキャラだったっけ……?」
コレールがラウネンを見ながら首を捻った。
「人前ではキャラ作ってんだろ。俺みたいに」
グロルは堂々として言う。
「グロルは、キャラ作らなくて、良いのか?」
「城に侵入した時点でキャラとか関係なくねえか?」
「そ、そうか……」
「ってか、ウィナさんよお。千年も時を超えるなんて一体何するつもりだよ? いい加減教えてくれたって良いよな」
「そうだな。それにはまず、ボースがフラットリーに乗っ取られた理由から話さねばならない。ボースがフラットリーに乗っ取られたのは転生魔法を使ったからだ。千年前にな」
千年前からフラットリーの魂がボースハイトの身体に送られてくる。
それは千年前から決まっていることであり、今ここの時代にいる我が輩達には防ぎようもないこと。
「ならば、我が輩達が千年前に行き、フラットリーがボースに転生する魔法を使うのを止めるしかない」
それが、ボースハイトを取り戻す唯一の方法だ。
「──はい、着いたっ。この扉の先にお目当ての魔法陣があるよっ」
階段を下りに下って辿り着いた先には、木で出来た扉がぽつんとあった。
扉を開けると、床に魔法陣が描かれた空間が広がっていた。
よくよく見渡せば、壁や柱、天井にまで魔方陣が描かれている。
このフロアそのものが巨大な魔方陣になっているようだ。
「さあ、どうぞ使って下さいなっ。発動出来たらだけどっ。にゃぱぱっ!」
「どういう意味だ」
「この魔方陣、作ったのは良いけど、魔力が足りなくて発動出来ないんだよっ」
発動には大量の魔力が必要になるのか。
魔法は魔力の流れが重要である。
魔方陣は複雑な魔力の流れを視覚化し、且つ魔力の流れを補助する意味がある。
手本の文字をなぞる感じだ。
この広大な魔方陣をなぞるために、大量の魔力が必要なのは見ただけでわかる。
「まだ発動したことがないから、何が起こっても責任は取れないよっ? それでも発動するっ?」
「もう発動してしまった」
「は?」
発動した魔法陣が光を放つ。
その眩い光がラウネンの呆けた顔を照らしていた。




