表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/56

抱き締めてやろう

「これより、フラットリー様復活の儀を執り行います」


 復活の儀……?

 そう疑問に思う間もなく、信者達が祭壇に立つボースハイトを取り囲んだ。

 信者達は胸の前で指を組み、ぶつぶつと何かを唱え始める。

 フラットリー教の教えでは、魔法を使う際に詠唱を行う。

 しかし、一体何の魔法を……?


「空が……」


 コレールが空を見上げてそう呟く。

 我が輩も空を見上げた。

 先程まで青色が見えていた空に灰色の雲がかかっている。

 風が吹き、辺りの空気が震え始めた。

 これは……天候を操る魔法?

 天候を操って、こいつらは何がしたいんだ?

 信者達の目的がわからない。

 フラットリー復活の儀とか言っていたが……。

 生命を復活させるのはタブーではないのか?


 灰色の雲から稲妻が落ちていく。

 稲妻が向かっていく先には、ボースハイトがいた。


「ボース!」


 コレールとグロルはボースハイトの名を叫ぶ。

 我が輩は声より先に、ボースハイトへ防御魔法をかけていた。

 ボースハイトに雷が直撃する。

 眩い光と、轟音。

 人間達は、あまりの光と音に目を瞑る者、叫び声を上げる者、その場に蹲る者、と様々いた。


 光が消え、ボースハイトの姿が見える。

 ボースハイトは強風で髪と服をはためかせ、その場に立ち尽くしていた。

 雷が落ちた名残りで、足下にはバチバチと電撃が走っている。


「ボース……生きてる……?」


 コレールが不安そうに呟く。


「雷が落ちる直前、防御魔法をかけてやった。間違いなく生きている」


 しかし、なんだ?

 この言い知れぬ不安感は……。


「ボース! 無事か!?」


 コレールとグロルが人をかき分けて、ようやく祭壇へと辿り着く。

 ボースハイトは振り乱した髪の隙間から、左右の色の違う双眸を覗かせる。

 そして、ゆっくりと口を開いた。


「君達は誰だい?」

「……は?」


 グロルはぽかんと口を開ける。

 ボースハイトはじっとグロルの顔を見る。


「ふむ。思念を読ませて貰ったよ。ボース……ボースハイト、というのは前の僕の呼び名だったのか。君達は前の僕の友人だね? 前の僕と親しくしてくれてありがとう」

「お、お前、さっきから、何言って……」

「ああ、すまない。自己紹介が遅れてしまったね」


 ボースハイトは振り乱した髪を魔法で整える。

 意地の悪さなど垣間見せないほど、優しい微笑みをグロルに向ける。


「僕はフラットリー。千年の時を経て、人間達を救うために復活した」


 ボースハイト──いや、フラットリーがそう言い終えると、信者達が歓喜の声を上げた。

 コレールとグロルはただ呆然と、フラットリーを見つめるしかなかった。


「千年……復活……。そうか。そういうことか……」


 全てに合点がいった。

 フラットリーは千年前に死んでいる。

 死んだ人間が復活するのは今の人間の常識的にはタブーだ。

 しかし、〝転生〟だったなら?

 復活しても、嫌悪感がないだろう。

 フラットリーは千年の時を経て、転生したのだ。

 フラットリーの遺骨からフラットリーを復活させても動かなかったのは、転生する未来が決まっていたから。

 フラットリーの魂は既に、ボースハイトの中にあったのだ。

 過去に行使された魔法……。

 我が輩が止める隙もなかった。


 全て理解して、尚、我が輩は納得出来なかった。

 ボースハイトの身体にフラットリーの魂が移動してきていたとしたら、それは……つまり……。


「は、ははっ。冗談キツいって、ボース」


 グロルは顔を引き攣らせて笑う。


「ここでそんなこと言ったら引き返しづらくなるぜ」

「冗談ではないよ。……ふむ。信じられないのなら証明してあげよう。……コレール」


 急に話を振られたコレールは肩を飛び上がらせる。


「えっ!? あ、お、俺!?」

「ああ、君だよ、コレール。君は《浮遊》魔法を上達させたいんだね。思念を読ませて貰ったよ」

「そ、それは……」

「さあ、力を与えようね」


 フラットリーはコレールに手を翳した。

 コレールは身体を強ばらせて、何をされるのかと身構える。


「コレールに力を与えたよ。《浮遊》してみなさい」


 コレールに皆の視線が集まる。

 コレールは緊張しながらも、ゆっくりと宙へと浮かび上がる。

 いつもなら頭が下になってしまうのだが、今回はちゃんと、頭が上になり、安定して浮いている。


「あ、安定してる……。どうして……」

「ふふ。猫に肉を与えたら一日で食べてしまうが、狩りの仕方を教えれば、一生食べていける。だから、僕は人間達に力を与えるんだよ」


 フラットリーは民衆の歓声を受けながら、グロルに身体を向ける。

 服の宝飾がシャラシャラと鳴っている。


「どうかな? 僕がフラットリーだと認めてくれるかい?」


 グロルが苦い顔をした。

 グロルはまだフラットリーのことを認められないようだ。

 かくいう、我が輩も。

 目の前にいる男をフラットリーだと認めてしまったら、それはつまり……。


「お前がフラットリーなら、ボースは何処に行ったんだ?」


 グロルはそう尋ねる。

 すると、フラットリーは困ったように眉を下げた。


「残念ながら、僕がこの身体に転生した際、前の僕の人格は消えてしまったよ。もう元に戻ることはない」

「え……」


 フラットリーは人間達に様々な嘘を教えた、大嘘つきだ。

 だが、今言ったことは事実だ。

 ボースハイトの気配も、魔力も、思考も、何もかも、別人のようになってしまっている。

 まるで、《《上書き》》されたように……。


「でも、良かったのではないかな。前の僕と君は不仲だったようだから。君の嫌いなボースハイトは、もう二度と君の前には現れない」


 グロルは下を向き、足早に祭壇を後にした。


「フラットリー様、万歳! フラットリー様、万歳!」


 フラットリーの復活を喜ぶ声が絶えない。

 空は未だに暗雲が立ちこめている。


 □


 出店のある通りには誰もいなかった。

 ほぼ全ての人間が、祭壇に集まっているのだろう。

 フラットリーが復活する奇跡的瞬間に立ち会うために。

 グロルは民衆の声が聞こえなくなったところで足を止めた。


「グロル……」


 何と声をかけよう。

 そう思っていると、グロルが口を開いた。


「俺……本当はもう怒ってなかったんだ……」


 我が輩は開いた口を閉じる。

 グロルの声はか細く、震えていた。


「俺が悪いってのもわかってた。でも、言い方ってもんがあるだろ? どうせ直ぐ、いつも通りに軽口を言い合えるんだから、絶対、俺から謝ってやるもんかって……」


 雨がザッと降ってきた。

 雨の音に負けないよう、グロルは声を張る。

 すると、声の震えがはっきりと我が輩の耳に届いた。


「いなくなっちまうなら、意地なんて張んなきゃ良かったあ……」


 グロルは天を仰いで、子供のように、声を上げて泣く。

 頬を伝うのは雨なのか涙なのか、見分けがつかなかった。

 遠目に、コレールとバレットがそれを見ている。

 我が輩も見ているだけだ。

 今までのように。


 ……本当に?

 それで良いのか?

 目にかけていた人間を、フラットリーなんぞに奪われて、我が輩はただ、指をくわえて見てるだけ?


「……ふざけるな」


 我が輩はグロルを抱き締める。

 抱き締めて初めてわかった。

 グロルは細くて小さくて、力を入れたら直ぐに死んでしまいそうな身体をしていた。


「任せておけ」


 腕の中で泣きじゃくるグロルに言う。


「我が輩がボースと仲直りさせてやろう」


 我が輩は魔王。

 何もかもを壊してきた【剿滅(そうめつ)の魔王】である。

 気に入らない筋書き全て、壊してみせようではないか。

第二部 完

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ