表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!
39/56

ボースハイトを追ってやろう!

 コレールが先頭に立ち、ボースハイトの後を追う。

 グロルは最後尾で唇を尖らせている。

 コレールは首をぶんぶんと振って、ボースハイトを捜すが、ボースハイトの姿はない。


「ボース、飛ぶの早いよ……」


 コレールはふと立ち止まって、周囲にボースハイトの姿がないか、捜し始める。

 本当にこっちであってるのか、不安になっている様子だ。

 こういうときに役に立つ魔法がある。

《魔力探知》だ。

 頭のないゾンビフラットリーがボースハイトを探すために使っていた魔法だ。

 我が輩は目を閉じ、ボースハイトの魔力を探す。

 十時の方向に、ボースハイトの魔力を見つけた。


「こっちだ」


 我が輩は目を開け、ボースハイトの魔力が感じられる方向へと歩き出す。


「え? ボース、いた!?」

「ああ」


 コレールが我が輩に急ぎ足でついてくる。

 その後ろにふてくされたグロル、そして、無表情のバレットが続く。

 グロルがわざとゆっくりと歩いたため、ボースハイトにはなかなか追いつけなかった。


 □


 ようやく、砂漠を抜けた。

 砂漠特有の暑さが鳴りを潜めた頃、一つの村が見えてきた。


「ボースも、ここに立ち寄ってるかもしれないな」

「確かに。この村の中にいる」


 ボースハイトの魔力からすると、この村に滞在しているのは間違いない。


「それにしても、妙だな……」

「何がだ?」

「これまで、ボースハイトは我が輩達から逃げるように動き続けていた。だが、先程から一切動いていない」

「え? そ、それって、ボースに、何かあったってことか?」

「どうだろうな」

「は、早く、合流しよう。今、ボースが立ち止まってるなら、追いつける」


 我が輩達は村へと足を踏み入れた。

 この村は祭りの最中のようだ。

 通りには多くの出店が開かれ、村の何処にいても、陽気な音楽が聞こえてくる。


「す、凄い人の数だ。ボース、見つかるかな……」

「この人混みの中から、ボースハイトを見つけるのはそう難しくないだろう。周りを見てみろ」


 祭りに参加しているのは、グロルと同じ法衣を着た者ばかりだ。

 そのため、グロルは自分が背教者だとバレないように、お淑やかに振る舞っている。

 ボースハイトの服装は法衣ではなく、魔法使いのローブだから、この村の中にいるのなら見つけやすかろう。


「……ん?」


 祭りには法衣を着た者ばかり?

 それってまさか……。


「この村はフラットリーの祭りでもしてるのか」

「はい。ここはフラットリー教の聖地・ブジャルド。今日はフラットリー様が初めて我々に力をお貸し下さった記念の日ですから、それを祝しているのですな」

「あいつ、聖地と祭りもあるのか」


 フラットリーの奴、我が輩のいる世で本当に好き放題しおって……。


「今年はフラットリー様が我々に力をお貸し下さってから千年の節目の年ですから、例年より盛大に執り行われていますな」

「バレット、お前何度も来てるのか」

「一応、信者でしたからな」


 そういえば、そういう設定だった。


「穢れている……」


 そんな呟きが人混みの中から聞こえた。

 コレールにもそれが聞こえたのか、恥ずかしそう目を伏せる。

 我が輩は誰が言ったのかと、周囲を見回した。

 周囲の人間は皆、我が輩達を見て、こそこそと話している。


「我が輩達は歓迎されていないようだな」

「し、仕方ないよ……。信者じゃない魔法使いは魔族で、魔法が使えない戦士は穢れている、って、教えの聖地なんだから……」


 コレールはそう答える。


「この村の中では、我が輩達の方が異様か……」


 だからといって、法衣など絶対に着てやらん。

 我が輩はフン、と鼻を鳴らした。


「──フラットリー様の生まれ変わりが現れたそうですよ!」


 信者の一人が周りに聞こえる声で叫んでいる。

 何、フラットリーの生まれ変わりだと。


「祭壇の前にいらっしゃるって!」

「行きましょう、行きましょう!」


 噂を聞いた信者達がばたばたと走っていく。

 フラットリー信者というより、ただの野次馬だ。

 それにしても、フラットリーの生まれ変わりが現れた、か。

 ……丁度良いな。


「我が輩達もフラットリーの顔を拝みに行くぞ」

「ええ!?」


 グロルが驚きの声を上げる。


「ウィナって、結構ミーハーなんだな……」

「勘違いするな。我が輩は好きだから見に行く訳じゃない」


 殴りに行くのだ。


 □


 祭壇の前は信者共で溢れかえっていた。

 故に、フラットリーの生まれ変わりの姿が全く見えない。

 まあ、殴るために近づくのだから、今は見えなくても良い。


「道を開けよ」


 我が輩は目の前に手を出し、聖フラットリー展のときと同じように、風魔法で人を退けた。

 人間の合間を縫って、前に出る。

 コレールとグロルも我が輩の後ろに続いた。

 最前列まで来て、顔を上げる。

 祭壇に立つ〝奴〟の姿が見えた。

 やっと、会えたな。


「ボース!?」


 祭壇に立っていたのは、ボースハイトだった。

 ボースハイトは煌びやかな法衣を身につけ、装身具を身体の至る所につけている。

 何故、そこにボースハイトが立っている?

 そして、何故、そんな服装をしている?

 聞きたいことは色々あった。

 ボースハイトはいつも通り、意地の悪そうな顔で笑う。


「あっれえ? なんでお前らがここにいるの? 『フラットリーなんざクソ食らえ』とか何とか言ってなかったっけ?」


 グロルは周りの視線に気づき、ささっと体裁を整える。


「貴方こそ、何故そこにいるんです?」

「見てわかんない? 僕、フラットリー様の生まれ変わりなんだってさ」


 ボースハイトは衣装を見せつけるようにくるりと回った。

 宝飾がシャラシャラと鳴る。

 グロルはそれを馬鹿にするように鼻で笑った。


「貴方がフラットリー様の生まれ変わりですって? 何かの間違いでしょう」

「嘘だと思うなら、そこの大司教に聞いてみたら?」


 ボースハイトは横目で祭壇の近くにいる人間を見た。

 そいつは他の信者とは違い、上等な服を着ていたため、フラットリー教の大司教ということが一目でわかった。


「間違いではありません」


 大司教は冷静に答える。


「燃えるような赤い髪に、左右の色の違う双眸。そして何より、人々の思念を読み取る力。フラットリー様の生まれ変わりで間違いありません」

「……ってことらしいんだよね」


 ボースハイトは得意げに胸を張った。

 僅かな動作でも、服の宝飾がキラキラと光っている。


「貴方が生まれ変わりなんて、世も末ですね……」


 グロルも呆れている。

 ボースハイトは「はあ」とため息をついた。


「お前さ、さっきから誰に向かって口聞いてんの?」

「……は?」

「僕はフラットリーの生まれ変わりだよ? ただの信者のお前と、生まれ変わりの僕じゃ、住む世界が違う訳。口を慎めよな、《《信者グロル》》」

「なっ……!」


 グロルが顔を真っ赤にして、口をはくはくと動かしている。

 あまりの怒りに言葉が出ていないようだ。

 喧嘩別れしたのを追いかけてきた相手に、その言い方はない。

 グロルが怒るのも当然だ。

 ボースハイトが素直に謝るとは思ってなかったが……。


「そろそろ祭儀を始めます。ボースハイト様、お喋りはここまでにして下さい」

「わかったよ。じゃあね、信・者・グ・ロ・ル」


 ボースハイトはくすくすと笑って、グロルをしっしと追い払った。

 グロルは無言のまま、くるりと踵を返し、がに股でズカズカと歩いていて、祭壇から離れる。

 そこにお淑やかさは微塵もない。

 信者達があまりの変わりように驚き、グロルのために道を空けている始末だった。


「何だよ、あいつ! 絶対謝ってやんねーからな!」


 グロルは腕を組んで、フンッと顔を背けた。

 コレールは「まあまあ」とグロルを宥める。


「祭儀が終わったら、ボースとゆっくり話せるはずだ」


 コレールは祭壇の上のボースハイトに目を向ける。


「ま、まさか、ボースが、フラットリーの生まれ変わりだったなんて、信じられないな……。本当……なのか?」

「さあ……。フラットリー様の生まれ変わりの特徴なんて私も聞いたことがないですな」


 バレットも初耳のようだ。

 まあ、大嘘つきのフラットリーのことだ。

 預言もどうせ嘘でだろう……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ