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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!
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【生殺王】に会ってやろう!

 墓地の手前まで辿り着くと、ボースハイトが待ち構えていた。


「遅かったね」


 そう言いながら、ボースハイトはグロルの方を見る。

 グロルの体調はまだ万全とは言い難く、服の下に氷を忍ばせて、体温を下げている状態だ。

 しかし、自力で歩けるようになっていた。


「あ、グロル、くたばってなかったんだ。あんなに死にそうな顔してたのに」

「『もう大丈夫なの? 心配してたんだよ』くらい言えよな」


 グロルはボースハイトを煽る。

 ボースハイトはニッコリと微笑んだ。


「絶対言わない」


 お互い、軽口を言い終わり、我が輩達は墓地の探索を開始した。

 砂地に墓石が乱雑に建てられている。

 墓石は斜めになっていたり、倒れていたり、割れたりしており、全く管理されていないのがわかる。

 それもそのはずだ。

 墓地には、至る所に死体が転がっている。

 人間、動物、果ては経験値になり損なった魔物まで。

 おそらく、魔物が占拠してから、人間達は近寄らなくなったのだろう。

 コレール達は、ゾンビが現れると聞いていたからか、死体が起き上がることを警戒していたようだ。

 しかし、死体達は全く動く気配がなく、コレール達は首を傾げていた。


「ここ、本当に、依頼書の墓地なのか? 死体がやけに多いけど……」

「ここであってる」


 我が輩は即座にそう返す。

 コレールは察した様子だ。

 ここは墓地とはいえ、死体の数が異常に多い。

 この場所には死ぬ危険があるのではないか、と。

 果たして、冒険者ランクEランクの自分達が引き受けて良い依頼だったのか?

 コレールはそう思っていることだろう。

 実はこの依頼、Sランクの依頼である。

 我が輩は《認識阻害》を使い、『この依頼はSランクの依頼ではない』と認識させていた。

 冒険者ギルドの受付係は勿論、コレール達にも。

 そうしてまで、この依頼を受けたかった理由ある──。


「あ……?」


 不意に、我が輩以外の全員が力無く倒れた。

 脈を取らずともわかる。

 コレール達は死んだのだ。

 つまり、あいつが近くにいる……。


「いるんだな? 出て来い」


 我が輩がそいつを呼ぶ。

 すると、ギギギ、と木の軋んだ音がし始めた。

 音の方を見ると、一つの棺桶が砂に埋もれていた。

 その棺桶の蓋がゆっくりと開いた。

 蓋の上に積もっていた砂が、滝のように落ちていく。


「あれぇ……。死なない……」


 棺桶の中から現れたのは、藍色のくるくると巻かれたツインテール。

 次に、前髪から覗く紫色の瞳。

 そして、死人のような白い肌にゴシック調のドレス。

 奴こそ、我が輩が墓地の依頼を受けた理由だ。


「なんでぇ……? あたしの即死魔法で死なないなんてあり得ない……」


 そうブツブツと呟きながら黒い爪をかじる。

 全く、出会った生者を即死させるのは昔から変わっていないな。


「久しいな。【生殺王】メプリ」


 四天王の一角、生と死を意のままに操る【生殺王】メプリ。

 生者を忌み嫌っており、目に入った生者を全て屍に変えてしまう。

 我が輩はこいつに会いに来たのだ。

 バレットの調べにより、この辺りがメプリの根城だとわかっていた。

 この場所へ来る口実作りのために、《認識阻害》を使って依頼を受けたのだ。


「は……? 何処かで会ったかしらぁ……。会った人間は全員殺してるのだけど……」

「我が輩だ。魔王だ」

「魔王様……? ああ……通りで死なない訳ねぇ……。あたしの即死魔法を無効化出来るのは、魔王様ぐらいしかいないもの……」


 現に、バレットもメプリの即死魔法を無効化出来ずに死んでいる。

 今、バレットを生き返らせたとしても、またメプリに即死させられるだろうから、放置しておいた。


「魔王様ぁ……なんで人間なんかに成りすましてるのぉ……?」

「それには深い理由があってな。今は気にするな」

「あらそう……。なら、深くは聞かないわ……。話すのも聞くのも嫌だしぃ……」


 そう言って、メプリはそそくさと棺桶に戻ろうとする。


「待て。貴様に用があってきた」

「嫌」

「ほう?」

「……と言っても、魔王様は引き下がらないわよねぇ……」

「わかってるではないか」


 メプリは棺桶に突っ込んだ足を再び棺桶の外に出した。


「それで……? あたしに何をさせる気かしらぁ……?」


 我が輩は《収納》魔法で収納していたものを取り出す。

 聖フラットリー展で盗んだ、フラットリーの遺骨だ。

 メプリはフラットリーの遺骨を目にして、笑顔になる。


「あら、イケメン……。どちら様かしらぁ……?」

「稀代の大嘘つきだ」


 千年もの間、人間達を騙し続けてきた、な。


「それで、彼をどうするのぉ……?」

「メプリよ。こいつを生き返らせろ」


 そのためにこいつを盗んできたのだ。


「こいつは我が輩のいる世で、好き勝手やり過ぎた。一発殴らないと気が済まない」


 フラットリーは死後千年ほど経っているらしい。

 我が輩も《蘇生》を使えるが、フラットリーを完璧な状態で生き返らせるのは骨が折れる。

 そこで、【生殺王】メプリの出番だ。

 生と死を意のままに操るメプリならば、こいつを完璧な状態で生き返らせるくらい、造作もないことだろう。


「冗談は止してぇ……。折角のイケメンを生き返らせるなんて嫌よぉ……。生きた姿なんて醜いわ……。みんな……死んじゃえば良いのに……」


 再び我が輩に即死魔法を浴びせてきた。

 我が輩には効かないとわかっているだろうに……。

 我が輩は呆れてため息をつく。


「貴様を、貴様の言う《《美しい姿》》にしてやっても良いのだぞ」


 我が輩にはそれが出来る力がある。

 メプリは心底嫌そうに顔を顰めた。


「……わかったわよ」


 メプリはフラットリーの遺骨に手をかざし、《蘇生》魔法を使った。

 浮かび上がった遺骨が徐々に肉付いていく。

 数秒もしない内に、フラットリーは人間としての形を完全に取り戻していた。


「ほう……これがフラットリーの顔」


 何処にでもいそうな、普通ん人間だ。

 まじまじと顔を観察している内に、身体の再生が全て終わった。

 フラットリーは一千年の時を経て、生き返ったのだ。

 フラットリー教の信者が見たら、卒倒ものだろう。

 しかし、当のフラットリーはぴくりとも動かない。


「おい。動かないぞ」

「この子、空っぽみたいねぇ……」

「何?」

「魂が入ってないのよぉ……」

「魂が入ってない……? そんなことがあるのか?」

「普通はあり得ないわ……。生物には必ず魂が入ってるものだからぁ……。魔法で魂を何処かへ移動させれば……こうなるでしょうけどぉ……」


 要するに、生きているフラットリーには会えない、と。

 それは困ったな。

 あいつには色んなところで思惑を邪魔されてきた。

 今に呼び出して、一発殴ってやろうという腹づもりだったのだが……。

 ここまで来たのに、無駄足になってしまったではないか。


「フラットリー……。何処までも腹の立つ奴だ」


 我が輩は片手で顔を覆った。


「これ……どうするのぉ……?」


 メプリがフラットリーの抜け殻を指差して言う。


「そうだな……」


 折角だから、有効活用させて貰おうか。

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