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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!
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聖フラットリー展へ行ってやろう!

「お、俺はここで、待ってるよ。ゆっくり、見ておいで」

「僕も行かない」


 そう言ったコレールとボースハイトを店に置いて、我が輩達は列に並んだ。

 待つこと一時間、我が輩達はようやく美術館の中に入れた。

 フラットリーの面を拝むだけなのに、こんなに時間がかかるとは思わなかった。

 フラットリー……我が輩の腹を立てさせるのが上手い男だ。

 美術館の中はよくわからない絵画や書物が並べられており、数人がそれを眺めている。

 我が輩はそれに違和感を覚えた。


「我が輩達の前に並んでいた人間達は、一体何処に消えたのだ?」


 外には行列を成すほどの人間がいた。

 しかし、美術館内部にはたった数人しかいない。


「皆様はおそらく聖フラットリー展の目玉、フラットリー様のご遺骨を見に行っているんでしょうな」


 バレットがそう推測した。


「そんな物好きがたくさんいるのか……」


 かく言う我が輩も、フラットリーの遺骨を見に来たのだが。

 入場の際に貰ったパンフレットを見ると、フラットリーの遺骨があるのは奥の展示室らしい。


「では、フラットリーの面を拝みに行くか……」


 我が輩は奥の展示室に向かって歩き出す。


「お? 早速、フラットリー様のご遺骨を見に行くのか?」

「ああ」

「へえ。ウィナ、言い伝えとか信じるタイプなんだなあ。意外だ」

「遺骸だけにか?」

「はあ?」


 グロルが笑顔のまま、地を這うような声で言う。


「冗談なんだから、そんなに凄まなくて良いだろう……」


 我が輩が奥に進むと、バレットとグロルもついてきた。


「貴様ら、他を見なくても良いのか?」

「他に見るようなものもねーからな……」


 奥の展示室は人間でごった返していた。

 行列を作っていた人間達は、ここに集まっていたらしい。


「予想通り、ここには人がたくさんいますな」

「そうだな……」


 かなり人が多い。

 それ故に……。


「全く見えねーな……」


 グロルがぽつりとそう言った。

 目当てのフラットリーの遺骨は、前に立つ人間が邪魔をして、全く見えなかった。

 グロルが少しでも見えるようにと、背伸びを何度も試みている。

 我が輩の身長で見えないのだ。

 我が輩より小柄なグロルが見える訳なかろうに。


「はあ……。列に並ぶのはもう懲り懲りだ」


 これ以上は待ちたくない。


「仕方ない。《浮遊》魔法で頭上から……」

「おいおい。そんなことしたら大騒ぎになって、フラットリーの遺骨を見るどころじゃなくなるぜ?」

「大騒ぎ? 何故だ」

「空飛べんのは魔法使いの特権みてーなもんだから。『魔物が攻めてきた!』って騒がれるぜ多分」


 確かに、学院生活で空を飛んでる姿を見かけたのは、ボースハイトを含む魔法使いだけだった。

 ここにいるのは、フラットリー教の信者や野次馬の一般人だろう。

 大騒ぎになるのが、目に見えている。


「まあ、あのフラットリー様も飛べたらしいけど……。だからといって、『フラットリー様だ!』とはならねーだろ」

「むむ……。地上も駄目、頭上も駄目か」


 我が輩は手のひらを前に出す。


「ならば、無理矢理道を開けるしかあるまい」


 我が輩は風の魔法を使い、人を押し除ける。

 人が通れるだけの空間を空けて、我が輩は素知らぬ顔で前に進む。

 我が輩の後ろをグロルはついてきた。

 暫くすると、視界が拓けた。

 ここが人混みの一番前らしい。

 我が輩は顔を上げる。

 目の前には大きなガラスケースがあった。

 ガラスケースの中には頭から足の先まで揃った人骨が、人の形で綺麗に納められている。


「ほう。あれが……」


 フラットリーか。


「流石フラットリー様、骨でも神々しくいらっしゃる……」


 周りの目を気にしているのか、グロルは我が輩の横で礼拝のポーズを取っている。


「さて……」


 我が眼で、余すところなく、フラットリーを見てやろう。


「……ふむ。やはり」


 魔法なんて、一切かかってないではないか。

 見たら幸せになる魔法どころか、遺骨の形を維持する保存魔法すらもかかっていない。

 フラットリーの遺骨はただの遺骨だった。


「……まあ、薄々、そんな気はしていたがな……」


 大ホラ吹きのフラットリーの遺骨だ。

 それにまつわる噂も全く信用ならん。


 我が輩は周囲を見回す。

 ガラスケースの周りには、人間達が近寄らないようにロープが張ってあり、二人の警備員が観覧客に睨みを利かせている。

 しかし、ガラスケースに保護魔法をしないのはどうなんだ?

 これでは簡単に盗み出せてしまう。


「あれ? フラットリー様は……?」


 一瞬にして、展覧会の目玉、フラットリーの遺骨が忽然と消えた。

 観覧客が騒めき出す。

 それに気づいた警備員は、ガラスケースを見た。


「ああ~! フラットリー様のご遺骨が~!?」


 こんな風に、な。

 気づいてももう遅い。

 フラットリーの遺骨は既に我が輩の手の中にある。

 我が輩はガラスケースの中身を丸ごと、《収納》したのだ。

 薬草を採取したときと同じ魔法だ。

 観覧客の目が空っぽになったガラスケースに向いている間、我が輩は踵を返す。


「グロル、先に出るぞ」

「はっ!? えっ!? いや、今フラットリーのご遺骨が消えましたばっかだが!?」

「不思議だな」

「不思議とかじゃなくて! 盗まれたんだよ! たった今! ウィナー!?」


 人波に呑まれるグロルを置いて、我が輩は出入り口の方へと向かった。

 出入り口の扉の前に、バレットが待機していた。

 バレットには、我が輩がフラットリーの遺骨を《収納》するところが見えていたのだろう。

 非常に落ち着いていた。


「見えましたかな?」


 バレットはそう言った。


「ああ。よく見えた」


 我が輩は頷く。


「……骨の髄までな」


 我が輩はフッと笑う。


「バレット。【生殺王】メプリを呼べ」

「は、承知しました。……しかし、メプリは重度の生者嫌いです。貴方様の呼び出しに応じるかは……」

「……ああ、そうだったな」


【生殺王】メプリは、他者との交流を嫌う。

 魔族であれ人間であれ、自分から積極的に関わろうとはしない。

 いくらバレットと言えど、メプリを引っ張り出すのは骨が折れるだろう。


「では、我が輩から出向いてやろう。メプリの居場所を調べろ」

「仰せのままに」


 我が輩は美術館の外へと向かう。


「出入り口を全て封鎖しろ! 一人も外に出すな!」


 展示品が盗まれたことで、警備員が出入り口を封鎖しようとしていた。

 我が輩はその横をするりと通り抜けた。

 警備員に冒険者ギルドでも役に立った、認識をずらす魔法《認識阻害》を使い、我が輩を認識出来なくしたのだ。

 姿が見えていても、声が聞こえていても、我が輩が外に出ようとしていることを認識出来なくなっている。


「フラットリー様のご遺骨はまだ館内にあるはずだ──!」


 そう叫ぶ警備員達を尻目に、我が輩は美術館を後にした。

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