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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!
33/56

報酬を受け取ってやろう!

 一夜明け。

 我が輩達は報酬を受け取りに冒険者ギルドにやってきた。


「貴方達、一体何をしたんですか!?」


 来て早々、受付係にもの凄い剣幕で怒鳴られた。

「何の話だ?」と四人に目で伝えるが、全員が「知らない」と首を横に振る。


「貴方達が薬草採集に行った森、魔物がほとんどいなくなってるんですよ! ここ数日であの森に行った冒険者は貴方達だけです! 一体何をしたんですか!?」

「何をしたと言われてもな。出会った魔物を倒しただけだぞ」

「た、倒した……!? 中にはCランクの魔物もいたんですよ!? Fランクの貴方達が敵う訳ないです!」

「し、Cランクの魔物ぉ!?」


 コレールが慌て始める。

 もう倒した後なのだから、慌てる必要はなかろうに。

 我が輩は受付係に言った。


「忘れたのか? このパーティにはCランクのバレットがいる。倒せたとしても不思議ではあるまい」

「Cランク冒険者が同伴していたとしても、一人では魔物に敵いません!」


 受付係は鼻息荒く、そう言った。

 冒険者ランクの説明を聞いた限り、冒険者ランクは依頼の数を熟してランクが上げていくシステムだ。

 つまり冒険者ランクは、強さを表すのではなく、冒険者としての熟練度を表していると思っていたのだが、違ったのだろうか。


「どの魔物がCランクだったのでしょうか?」

「どれも手応えなかったけど」


 さらっとそう言うグロルとボースハイトを、受付係は「信じられない」といった顔で見つめている。


「そういえば、最初に出会ったスライムの群れ……依頼の薬草の傍にいたり、不意を突いて襲ってきたり、徒党を組んでいたり。他のスライムより知能が高かったように思えますな。もしや、上位のスライムだったのでは」

「それです!」


 バレットの言葉に、受付係は受付カウンターをバンッと叩いた。


「その魔物は〝知能スライム〟と言って、Cランクの魔物です。他の冒険者さん達もそいつらに手を焼いていました」


 あの程度の知能で〝知能スライム〟と呼ぶのはどうかと思う。

 あいつら以上の知能を持つスライムは、他にも山程存在する。

 人語を理解するスライムもいるくらいだ。

 かくいうあの【最弱王】ルザも、スライムだ。

 罠を張ったスライムが〝知能スライム〟なら、逃走に長けたルザは〝大賢者スライム〟になってしまう。

 我が輩はやれやれ、と首を横に振った。


「我が輩達では敵わない、と言われてもな。実際、我が輩達が倒したのだ」


 我が輩の答えに、受付係は頭を抱えた。

 あの森に行った冒険者は我が輩達の他にいない。

 そう受付係自身が言ったのだ。

 認めざるを得ないだろう。


「学院を卒業してないのに、Cランクの魔物が倒せるなんて嘘でしょう……?」


 受付係は小声でぶつぶつと文句を言っている。

 我が輩はため息をついた。


「貴様の用事は済んだか? 次は我が輩達の番だ。約束の報酬を受け取ってやろう」

「……Fランク依頼の報酬しか準備していません。魔物討伐の報酬はまだ……」

「構わん。出せ」


 受付係は渋々、報酬の入っている袋を受付カウンターの上に出した。

 我が輩は一応、袋を開いて確認する。

 我が輩の後ろでコレール、ボースハイト、グロルの三人が袋の中を覗き見て、感嘆の声を上げた。


「これだけあれば、暫く宿に泊まれますよ! 久々にベッドで眠れる〜!」


 グロルは両手を上に上げて喜ぶ。


「早く絶品スイーツ食べに行こ!」


 ボースハイトは弾んだ声でそう言った。


「も、もしものときのために、貯金しようよ……」


 コレールはいきなり大金を得たことに怯えている様子だった。

 色めき立つ三人に、受付係は咳払いをした。


「えー。ウィナ様、コレール様、ボースハイト様、グロル様。五十件の依頼を達成しましたので、貴方達の冒険者ランクはEランクに昇格します。これからはEランクの依頼も受けられますよ」


 それは朗報だ。

 Eランクなら、魔物討伐の依頼を受けられるやもしれん。


「ぼ、冒険者になって、数日しか経ってないのに、ら、ランクアップ……!? だ、大丈夫かな……」


 コレールは一人慌てていた。


「何匹も魔物討伐しておいて何を心配することがありますか」


 受付係に冷たくそう言われて、コレールは背中を丸めた。


 □


 我が輩達はかねてより予定していた、ボースハイトおすすめの絶品スイーツの店へ訪れた。

 店内には甘ったるい匂いが漂っていて、いるだけで胸焼けしそうだった。

 コレールも同様にそう思ったらしく、「外のテラス席に座ろう」と言い出したのでそうした。

 お目当ての絶品スイーツが運ばれてくると、コレールとグロルは顔を引きつらせた。

 絶品スイーツとやらは、砂糖の塊に砂糖がまぶされて、その上にドロリとした砂糖水がかけられている。

 見るからに甘そうだ。

 ボースハイトは鼻歌を歌いながらそれを口に運ぶ。


「んー。美味しいっ」


 ボースハイトは頬に手を当てて、「美味しい、美味しい」とスイーツを食べている。

 コレールとグロルはお互いの顔を見合わせた後、恐る恐る口に運ぶ。

 二人は苦い顔をして、直ぐにフォークを置いてコーヒーに手を伸ばした。


「これからボースの『絶品』は信用しねえ……」

「ボースって……かなりの甘党、なんだな……」


 二人の口には甘過ぎたようだ。

 我が輩もスイーツを口に運ぶ。

 見た目通り、歯が溶けるほど甘ったるい。

 甘過ぎて、苦いくらいだ。

 ボースハイトはそれを数分とかからず、ぺろりと平らげた。

 未だにコーヒーを飲み続けているコレールとグロルを見て、ボースハイトが意地悪く笑う。


「あれえ? 二人とも食べないの? あんまり遅いと僕が食べちゃうよ? くすくす」

「食べて良いよ……」


 ススッと二人はボースハイトにスイーツを差し出した。


「は? 本気で言ってる?」


 ボースハイトは不機嫌そうな顔をした。

 本当にこの砂糖の塊を絶品だと思っているらしい。


 我が輩はスイーツを何とか食べ終え、紅茶を啜りながら周囲を見渡す。

 このスイーツ店は、大通りに面している。

 店が立ち並び、人通りも多い。

 ふと、ある建物の入り口に目が留まった。

 そこには行列が出来ている。


「あの行列が出来ているところは何の店なんだ?」

「ああ……。あれは店じゃねーよ。展覧会だ」

「展覧会?」

「今やってるのは……」


 グロルは目を凝らして、展覧会の看板をじっくりと見た。


「聖フラットリー展みてーだな。ほれ、我がフラットリー教のフラットリー様の展覧会」

「フラットリーの展覧会……!?」


 あいつの何を展覧すると言うのだ!?


「主に、フラットリー様の遺したものが展示されてるっぽい。この聖フラットリー展の目玉は、フラットリー様のご遺骨だとよ」

「遺骨!? 遺骨を展示しているのか!?」

「ああ。フラットリー様のご遺骨には、見た者を幸せにする魔法がかけられていると言われててな。フラットリー教の者でなくても、一生に一度は見ておきたいと評判だぜ?」


 遺骨……。

 人間って倫理観がどうたら言う癖に、人間の遺骨をじろじろ見るのか。

 そこの線引きがよくわからん……。


「今年はフラットリー様が人間達に力をお貸し下さってから、丁度千年の節目の年だからな。こういうの、色んなとこでやってるぜ」

「へえ。フラットリーって千年前の人間なのか……」


 千年前……そんな奴、いただろうか。

 我が輩に匹敵するであろう勇者なら現れた記憶があるが、フラットリーという名前ではなかったはずだ。

 なんという名だったか……思い出せない。


「ば、バレット先生」


 グロルが改めてバレットに話しかけた。


「聖フラットリー展に興味ありませんか?」

「信仰しておりましたから、興味ないというと嘘になりますな」

「き、奇遇ですね! 俺も聖フラットリー展に行こうと思っておりました!」


 バレットは「行きたい」と一言も言ってない。

 だが、グロルは顔を赤らめてもじもじとしている。


「それでそのう……。よろしければ、俺と一緒に聖フラットリー展を見て回りませんか……!?」


 バレットが「はい」と答えると、グロルは間髪入れず「しゃっ!」と言ってガッツポーズした。


「で、では、早速行きましょう!」

「我が輩も行く」

「──へ?」


 我が輩の言葉に、グロルが素っ頓狂な声を上げた。


「我が輩も聖フラットリー展に興味がある」


 グロルは変な顔で我が輩を見てくる。


「な、なんでお前も……?」

「なんだ。我が輩が興味を持って悪いのか?」

「いや……。だって、興味なさそうだったじゃん……」


 グロルの語尾がだんだんと小さくなっていく。

 グロルは何が言いたいのだ?


「ちょ、ちょっと、ウィナ!」


 コレールが我が輩の腕を引き、耳打ちする。


「く、空気読みなよ! グロルは、バレット先生と、二人っきりで、展覧会に行きたがってるんだぞ!?」

「む。そうなのか?」

「多分、だけど……」

「多分なのか? なら、聞いてみよう」


 グロルの方を向いてこう尋ねる。


「グロル、貴様はバレットと二人っきりで展覧会に行きたいのか?」

「うぃ、ウィナー!」


 コレールが小声で叫び、カンカンに怒っている様子だ。


「なんだ。聞いちゃ不味かったか?」

「不味いに決まってるだろ!」

「でも、聞いてしまったしな……」


 何とかしろ、とバレットに目で伝える。


「グロルくん、そうなのですかな?」


 バレットの問いに、グロルはぶんぶんと首を振った。


「い、いや! 別に、バレット先生と二人っきりになりたいから誘ったんじゃねーです! ウィナも一緒に行こう! はは……ははは……」

「ほら、グロルは二人っきりで行きたい訳ではなかっただろう」


 我が輩はコレールを見て、ふふんと鼻を鳴らす。

 コレールは「ごめん、グロル……」と小声で謝っていた。

 一体、何に対して謝っているのか、理解出来なかった。

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