報酬を受け取ってやろう!
一夜明け。
我が輩達は報酬を受け取りに冒険者ギルドにやってきた。
「貴方達、一体何をしたんですか!?」
来て早々、受付係にもの凄い剣幕で怒鳴られた。
「何の話だ?」と四人に目で伝えるが、全員が「知らない」と首を横に振る。
「貴方達が薬草採集に行った森、魔物がほとんどいなくなってるんですよ! ここ数日であの森に行った冒険者は貴方達だけです! 一体何をしたんですか!?」
「何をしたと言われてもな。出会った魔物を倒しただけだぞ」
「た、倒した……!? 中にはCランクの魔物もいたんですよ!? Fランクの貴方達が敵う訳ないです!」
「し、Cランクの魔物ぉ!?」
コレールが慌て始める。
もう倒した後なのだから、慌てる必要はなかろうに。
我が輩は受付係に言った。
「忘れたのか? このパーティにはCランクのバレットがいる。倒せたとしても不思議ではあるまい」
「Cランク冒険者が同伴していたとしても、一人では魔物に敵いません!」
受付係は鼻息荒く、そう言った。
冒険者ランクの説明を聞いた限り、冒険者ランクは依頼の数を熟してランクが上げていくシステムだ。
つまり冒険者ランクは、強さを表すのではなく、冒険者としての熟練度を表していると思っていたのだが、違ったのだろうか。
「どの魔物がCランクだったのでしょうか?」
「どれも手応えなかったけど」
さらっとそう言うグロルとボースハイトを、受付係は「信じられない」といった顔で見つめている。
「そういえば、最初に出会ったスライムの群れ……依頼の薬草の傍にいたり、不意を突いて襲ってきたり、徒党を組んでいたり。他のスライムより知能が高かったように思えますな。もしや、上位のスライムだったのでは」
「それです!」
バレットの言葉に、受付係は受付カウンターをバンッと叩いた。
「その魔物は〝知能スライム〟と言って、Cランクの魔物です。他の冒険者さん達もそいつらに手を焼いていました」
あの程度の知能で〝知能スライム〟と呼ぶのはどうかと思う。
あいつら以上の知能を持つスライムは、他にも山程存在する。
人語を理解するスライムもいるくらいだ。
かくいうあの【最弱王】ルザも、スライムだ。
罠を張ったスライムが〝知能スライム〟なら、逃走に長けたルザは〝大賢者スライム〟になってしまう。
我が輩はやれやれ、と首を横に振った。
「我が輩達では敵わない、と言われてもな。実際、我が輩達が倒したのだ」
我が輩の答えに、受付係は頭を抱えた。
あの森に行った冒険者は我が輩達の他にいない。
そう受付係自身が言ったのだ。
認めざるを得ないだろう。
「学院を卒業してないのに、Cランクの魔物が倒せるなんて嘘でしょう……?」
受付係は小声でぶつぶつと文句を言っている。
我が輩はため息をついた。
「貴様の用事は済んだか? 次は我が輩達の番だ。約束の報酬を受け取ってやろう」
「……Fランク依頼の報酬しか準備していません。魔物討伐の報酬はまだ……」
「構わん。出せ」
受付係は渋々、報酬の入っている袋を受付カウンターの上に出した。
我が輩は一応、袋を開いて確認する。
我が輩の後ろでコレール、ボースハイト、グロルの三人が袋の中を覗き見て、感嘆の声を上げた。
「これだけあれば、暫く宿に泊まれますよ! 久々にベッドで眠れる〜!」
グロルは両手を上に上げて喜ぶ。
「早く絶品スイーツ食べに行こ!」
ボースハイトは弾んだ声でそう言った。
「も、もしものときのために、貯金しようよ……」
コレールはいきなり大金を得たことに怯えている様子だった。
色めき立つ三人に、受付係は咳払いをした。
「えー。ウィナ様、コレール様、ボースハイト様、グロル様。五十件の依頼を達成しましたので、貴方達の冒険者ランクはEランクに昇格します。これからはEランクの依頼も受けられますよ」
それは朗報だ。
Eランクなら、魔物討伐の依頼を受けられるやもしれん。
「ぼ、冒険者になって、数日しか経ってないのに、ら、ランクアップ……!? だ、大丈夫かな……」
コレールは一人慌てていた。
「何匹も魔物討伐しておいて何を心配することがありますか」
受付係に冷たくそう言われて、コレールは背中を丸めた。
□
我が輩達はかねてより予定していた、ボースハイトおすすめの絶品スイーツの店へ訪れた。
店内には甘ったるい匂いが漂っていて、いるだけで胸焼けしそうだった。
コレールも同様にそう思ったらしく、「外のテラス席に座ろう」と言い出したのでそうした。
お目当ての絶品スイーツが運ばれてくると、コレールとグロルは顔を引きつらせた。
絶品スイーツとやらは、砂糖の塊に砂糖がまぶされて、その上にドロリとした砂糖水がかけられている。
見るからに甘そうだ。
ボースハイトは鼻歌を歌いながらそれを口に運ぶ。
「んー。美味しいっ」
ボースハイトは頬に手を当てて、「美味しい、美味しい」とスイーツを食べている。
コレールとグロルはお互いの顔を見合わせた後、恐る恐る口に運ぶ。
二人は苦い顔をして、直ぐにフォークを置いてコーヒーに手を伸ばした。
「これからボースの『絶品』は信用しねえ……」
「ボースって……かなりの甘党、なんだな……」
二人の口には甘過ぎたようだ。
我が輩もスイーツを口に運ぶ。
見た目通り、歯が溶けるほど甘ったるい。
甘過ぎて、苦いくらいだ。
ボースハイトはそれを数分とかからず、ぺろりと平らげた。
未だにコーヒーを飲み続けているコレールとグロルを見て、ボースハイトが意地悪く笑う。
「あれえ? 二人とも食べないの? あんまり遅いと僕が食べちゃうよ? くすくす」
「食べて良いよ……」
ススッと二人はボースハイトにスイーツを差し出した。
「は? 本気で言ってる?」
ボースハイトは不機嫌そうな顔をした。
本当にこの砂糖の塊を絶品だと思っているらしい。
我が輩はスイーツを何とか食べ終え、紅茶を啜りながら周囲を見渡す。
このスイーツ店は、大通りに面している。
店が立ち並び、人通りも多い。
ふと、ある建物の入り口に目が留まった。
そこには行列が出来ている。
「あの行列が出来ているところは何の店なんだ?」
「ああ……。あれは店じゃねーよ。展覧会だ」
「展覧会?」
「今やってるのは……」
グロルは目を凝らして、展覧会の看板をじっくりと見た。
「聖フラットリー展みてーだな。ほれ、我がフラットリー教のフラットリー様の展覧会」
「フラットリーの展覧会……!?」
あいつの何を展覧すると言うのだ!?
「主に、フラットリー様の遺したものが展示されてるっぽい。この聖フラットリー展の目玉は、フラットリー様のご遺骨だとよ」
「遺骨!? 遺骨を展示しているのか!?」
「ああ。フラットリー様のご遺骨には、見た者を幸せにする魔法がかけられていると言われててな。フラットリー教の者でなくても、一生に一度は見ておきたいと評判だぜ?」
遺骨……。
人間って倫理観がどうたら言う癖に、人間の遺骨をじろじろ見るのか。
そこの線引きがよくわからん……。
「今年はフラットリー様が人間達に力をお貸し下さってから、丁度千年の節目の年だからな。こういうの、色んなとこでやってるぜ」
「へえ。フラットリーって千年前の人間なのか……」
千年前……そんな奴、いただろうか。
我が輩に匹敵するであろう勇者なら現れた記憶があるが、フラットリーという名前ではなかったはずだ。
なんという名だったか……思い出せない。
「ば、バレット先生」
グロルが改めてバレットに話しかけた。
「聖フラットリー展に興味ありませんか?」
「信仰しておりましたから、興味ないというと嘘になりますな」
「き、奇遇ですね! 俺も聖フラットリー展に行こうと思っておりました!」
バレットは「行きたい」と一言も言ってない。
だが、グロルは顔を赤らめてもじもじとしている。
「それでそのう……。よろしければ、俺と一緒に聖フラットリー展を見て回りませんか……!?」
バレットが「はい」と答えると、グロルは間髪入れず「しゃっ!」と言ってガッツポーズした。
「で、では、早速行きましょう!」
「我が輩も行く」
「──へ?」
我が輩の言葉に、グロルが素っ頓狂な声を上げた。
「我が輩も聖フラットリー展に興味がある」
グロルは変な顔で我が輩を見てくる。
「な、なんでお前も……?」
「なんだ。我が輩が興味を持って悪いのか?」
「いや……。だって、興味なさそうだったじゃん……」
グロルの語尾がだんだんと小さくなっていく。
グロルは何が言いたいのだ?
「ちょ、ちょっと、ウィナ!」
コレールが我が輩の腕を引き、耳打ちする。
「く、空気読みなよ! グロルは、バレット先生と、二人っきりで、展覧会に行きたがってるんだぞ!?」
「む。そうなのか?」
「多分、だけど……」
「多分なのか? なら、聞いてみよう」
グロルの方を向いてこう尋ねる。
「グロル、貴様はバレットと二人っきりで展覧会に行きたいのか?」
「うぃ、ウィナー!」
コレールが小声で叫び、カンカンに怒っている様子だ。
「なんだ。聞いちゃ不味かったか?」
「不味いに決まってるだろ!」
「でも、聞いてしまったしな……」
何とかしろ、とバレットに目で伝える。
「グロルくん、そうなのですかな?」
バレットの問いに、グロルはぶんぶんと首を振った。
「い、いや! 別に、バレット先生と二人っきりになりたいから誘ったんじゃねーです! ウィナも一緒に行こう! はは……ははは……」
「ほら、グロルは二人っきりで行きたい訳ではなかっただろう」
我が輩はコレールを見て、ふふんと鼻を鳴らす。
コレールは「ごめん、グロル……」と小声で謝っていた。
一体、何に対して謝っているのか、理解出来なかった。