表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/56

過去を話してやろう!

 報酬が入るのは明日になった。

 我が輩達は宿代を浮かせるため、野宿をすることになった。

 五人で焚き火を囲み、森の探索中に採取した果実を食す。

 こうしていると、ティムバーの森で修行したときのことを思い出す。

 グロルが取り繕わなくなったときも、同じように焚き火を囲んでいた。

 そのときは四人だったが、今はバレットが加わり、五人となった。

 バレットがいるからか、グロルはまだ猫を被ったままだ。

 悔しいことに、あの口の悪いグロルが恋しくなっている我が輩がいた。


「グロルくん、そろそろ演技は止めにしませんかな?」


 バレットは単刀直入にそう言った。

 直球過ぎて、コレールがおどおどと二人の顔を交互に見ている。

 当のグロルはというと、けろっとした顔をしている。


「演技なんてしていませんよ?」


 グロルは微笑みを讃えたままそう言った。

 グロルはそう言って誤魔化すしかないだろう。


「私もパーティの一人なんですから、隠し事はなしにしましょう。私にはわかっています。グロルくんが本当はフラットリー教を信じていないこと……」


 バレットはそう諭す。

 すると、グロルは急にすくっと立ち上がった。

 ……かと思うと、ドカッとあぐらをかいて座り直した。


「バレちまってんなら仕方ねーですね! そうです! 俺はフラットリー教なんて信じてません! フラットリーなんざクソ食らえですよ! ぎゃははは!」


 グロルは口を大きく開けて、唾を撒き散らしながら笑った。


「ぐ、グロル!」


 コレールが名前を呼んでグロルを咎める。


「ば、バレット先生は、フラットリー教を、信じてるんだぞ! そ、そんなこと言ったら、怒られる!」

「平気平気! 俺様が信じてねえように見えたってこたあ、先生だって信じてねーのさ。ですよね? 先生」


 グロルがバレットに同意を求めた。

 バレットは静かに目を伏せる。


「前々から、フラットリー教に不信感がありました。それが、凱旋パレードの一件で、完全に信じられなくなりましたな」


 バレットはフラットリー教に愛想を尽かした理由を、淡々とした口調で語り始めた。


「フラットリー文書の解釈が間違っていたことは別に構いません。古い文書の解読は難しいものですなら。ただ、間違った解釈を流布していた信者達がこぞって、私の教え子達を『魔族だ』と責め立てたのには、腹が立ちました」


 バレットは額に手をやる。


「結果、ウィナくん達が責任を取らされ、国を追われるなんて、おかしな話です」

「バレット先生……」


 流石、バレットだ。

 器用な嘘をつく。


「ふ、不信感があったのに、フラットリー教を信じてたんですか? どうして……」


 コレールがバレットにそう尋ねた。


「先生も孤児院出身なんじゃねーか」


 すると、グロルがすかさず答えた。


「ど、どういうこと?」


 コレールが首を傾げる。


「俺がいた孤児院はフラットリー教のものだった。多分、他のとこでもそうだと思う。孤児院では、毎日のようにフラットリー教の聖書を音読させられてた」


 グロルは「へっ」と馬鹿にしたように笑う。


「子供の頃に刷り込まれた教えが間違ってたなんて、普通は考えもしねーだろ。ま、俺様は自力で気づいたけど」


 グロルの言葉に、バレットは頷いた。


「グロルくんのおっしゃる通りですな。私には、フラットリー様を信じる以外の道がありませんでした」

「そう、なんですね……」


 コレールはバレット達の話を完全に信じ切っているようだ。


「……結構、そういう人って、僧侶に多いんですか?」

「そういうとは?」

「その……孤児だったって、いう……」


 コレールが口をもごもごさせながら、バレットにそう尋ねた。

 ああ、とバレットは何か理解したような顔をした。


「多いと思いますな。魔物に両親を殺されたり、両親に捨てられたりして、孤児院にいた子は。勿論、純粋に信じている人もいたと思います」

「そう……なんですね……」


 コレールは徐々に顔を下に向ける。


「今まで、僧侶は、悪い奴だと、思ってました。魔法を使うし、胡散臭い宗教を信じてるし……」


 コレールは拳をぎゅっと握り締めた。


「でも、信じざるを得ない環境で、育ったんですね……。今まで、邪険にして、申し訳なかったです……」


 そう言って、コレールはバレットとグロルに頭を下げた。


「ぎゃはは! お前真面目過ぎ!」


 グロルはそれを明るく笑い飛ばした。


「知らなかったなら仕方ねーって! ま、コレールは良いとこの坊ちゃんっぽいしなあ」

「い、今は、そういう話、してないだろ」

「でも、勇者の子孫だから良いご身分なんだろ?」

「爵位は、賜っているけど……」

「お貴族様かよ! じゃあ、敬語使わないとな! コレール様!」

「止めてくれ……。ご先祖様が認められたってだけで、俺は、何もしてないんだから……」

「つうか、貴族様なら家から離れるのダメじゃねーの? コレール様」

「だから、止めてくれって……。……俺は三男だから、自由にさせて貰ってるんだ。兄達も、しっかりしてるしな」

「兄? 兄がいんの?」

「うう……」


 グロルの質問攻めにコレールは頭を抱えた。


「そ、そうだ、ウィナ! ウィナは、魔法の知識、誰に教えて貰ったんだ!?」


 コレールはグロルの質問攻めから逃れるため、我が輩に話を振った。

 我が輩に振られても困る。

 バレットと違って嘘の経歴など、準備してないのだが。


「あっ! それは俺も気になるぜ!」


 残念なことに、グロルが乗っかってきてしまった。

 期待に満ちた目で見つめられ、答えない訳にもいかなくなってしまった。


「誰に、と言われてもな…」


 生まれてから、我が輩の周囲は敵だらけだった。

 戦わなければ食われる。

 勝たなければ死ぬ。

 我が輩は生きるため、がむしゃらに戦った。

 魔法はその環境の中で、自然と身についていた。

 それをなんと言えば良いのか……。


「……独学?」


 我が輩はそう答えた。


「独学って……。そりゃ、無詠唱魔法なんて人からは習わねーよな」

「僕、ウィナの過去予想ついてるよ」


 ボースハイトは自信がありそうな顔で言った。


「魔物に育てられたとかでしょ。正直に言って良いよ。僕、軽蔑しないから」

「うーん……」


 我が輩は腕を組み、悩みに悩んで、答えた。


「あながち……間違いではない」

「やっぱりね」


 ボースハイトが得意げに笑う。


「へー。そういうことってあるんだな。フィクションだけの話だと思ってたぜ」

「で、でもなんか、納得したな。……ウィナ、普通の人とは、違うから」


 グロルとコレールは何処か納得した様子だった。


「魔物に育てられたのに、なんで魔王を倒すための勇者学院に来たの? 敵じゃん」

「全ての魔物が、魔王の配下という訳ではない」


 これは事実だ。

 魔物は強い者に付き従う。

 それは魔物の本能だ。

 だからこそ、「我こそが最強だ」と宣う者もいるにはいる。

 千年は我が輩の前に現れなかったが……。


「人間達には魔王を倒して貰わねば困る。だが、昨今の人間は弱い。弱過ぎる! だから、我が輩は勇者を探すべく、勇者学院に来た」

「へえ。ウィナは仲間探しに来たって訳か」


 つい熱くなって本音が出てしまったが、勝手に理由を補完してくれたようだ。

 バレット、グロル、コレール、我が輩の話ときて、自然と皆の目がボースハイトへと向いた。


「さて次は……ボースくんのお話も聞きたいなあ?」


 グロルはニヤニヤと笑いながら、ボースハイトを見た。


「はあ? 僕?」

「悪名高い魔法使い・ボースハイトになるまでの過程に滅茶苦茶興味があるぜ」


 確かに、とコレールが同調する。


「勇者学院に来る前は、旅をしていたんだよな」

「まあね」

「目的は、なんだったんだ?」

「目的……」


 ボースハイトは何かを探すように、目線を空にやった。


「なかったのか?」

「知らない」

「し、知らないって……。自分のことだろう?」

「僕には生まれたときの記憶がないんだ」

「それは、みんな、そうだろ? 生まれたときの記憶がない、なんて」

「じゃあ、自分の名前すら覚えてないのも、みんなそう?」


 ボースハイトは素朴な疑問を口にしたような顔で言う。

 コレールをからかっている様子ではない。


「それは……」


 コレールが言い淀んだ。

 それが答えだと言っているようなものだ。

 ボースハイトはそれを理解した後、語り出した。


「僕は、僕のことが知りたくて、僕を知ってる人を捜したよ。いつの間にか使えてた魔法《思考傍受》で、片っ端から人の頭の中を覗いていった」

「どう、だったんだ……?」


 コレールの質問に、ボースハイトは首を横に振った。


「僕を知っている人はいなかった。そうしている内に、お腹が空いた。でも、お金なんてなかったから、魔法を使って盗んで食べた」


 我が輩は前にグロルから聞いた、ボースハイトの悪事を思い出す。

 盗み、食い逃げ、恐喝の常習犯──。


「その後も、生きるのに必要なら何でもした。そうして生きてきて、ついた名前は【悪意(ボースハイト)


 ボースハイトは本当の名前ではなかったのか。

 誰かに呼ばれた名前が名前になる。

 名前とは、得てしてそういうものなのだろう。

 我が輩の【剿滅(そうめつ)の魔王】という呼び名も、そのようなものだ。


「人間達は僕が《思考傍受》が使えると知ると、僕を魔族だなんだと罵って、石を投げてきたっけ。そうなのかもしれないね。僕は外側だけ人間で、中身は魔族なのかも」


 ボースハイトはコレールに顔をずい、と寄せ、ニヤニヤと笑った。


「僕はお前の妹を殺した奴の仲間だよ。ねえ、コレール。僕が憎い?」

「お前はまた、そうやって茶化す……」


 コレールが呆れている横で、グロルは腕を組んで考え込んでいた。

 どうした、と声をかけようとすると、突然、グロルが立ち上がった。


「──よし、決めた!」

「……何を?」

「旅の目的に『ボースを知ってる人捜し』を追加だ!」

「は?」


 コレールが頷いた。


「い、良いね。そうしよう」

「待って。僕は賛成してない」

「グルメ旅と魔王メプリ討伐のついでだ、ついで! ぎゃはは!」


 グロルは豪快に笑った。

 グルメ旅、魔王メプリ討伐、ボースの人捜し……。

 やることは山積みだな。

 大変だが、やることがないよりはマシだ。


「魔王メプリ……な か」


 コレールはポツリとそう呟き、北の空を見上げた。


「やっぱり、【魔族大陸】にいるのかな……」

「【魔族大陸】?」


 我が輩は首を傾げる。


「ここから、ずーっと北の方に、魔族だらけの大陸があると、言われてるんだ。【魔族大陸】は、前人未踏の地。上陸した人間は、二度と、帰ってこないと言われている……」

「ふむ……」


 北の方か……。

 我が輩の城がある方角だな。

 城の下は確かに、我が輩の鍛えた魔族共が住んでいる。

 間違いだらけの人間にしてはなかなかやるではないか。

 しかし、【生殺王】メプリは疎か、四天王は魔王城周辺にはいない。

 勇者達は各地に配備された四天王を倒し、我が輩の元へ辿り着く──というシナリオを描いていたためだ。

 だから、【生殺王】メプリはこの大陸にいる。

 メプリが何処にいるかは、我が輩も把握してない。


「【魔族大陸】は、冒険者ランクS以上の冒険者でないと、上陸する権利を得られません。魔王メプリを倒しに行くには、ランク上げが必須ですな」

「Sランクか……気が遠いな」


 楽しいお喋りの時間はあっと言う間に過ぎ、気づけば空が白んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ