依頼完了の報告してやろう!
薬草採取を終え、我が輩達は冒険者ギルドに戻ってきた。
冒険者登録をしたときに対応した受付係が「お帰りなさいませ」と笑顔で出迎える。
「薬草を取ってきてやったぞ」
そう伝えると、受付係はきょとんとした顔して、我が輩達の手元や腰などを見やった。
「あの、失礼ですが……。薬草は何処にあるのですか? それらしいものはありませんが……」
そう言って、受付係は首を傾げる。
やけにじろじろと見てくると思ったら、どうやら受付係は、薬草が入ってそうな袋を捜していたらしい。
「案ずるな。今から出す」
我が輩は受付のカウンターに手をかざす。
手のひらから《収納》魔法の裂け目──空間の穴を出現させた。
その空間の穴から、どさどさと緑色の草を落とす。
我が輩にはどれが依頼の薬草かわからなかったため、片っ端から薬草っぽい草を《収納》していた。
そのためか、かなりの量の草がカウンターの上に積み上がる。
カウンターの上に乗り切らなかった草は、床に零れ落ちていった。
「えっ……? えっ……!?」
それを見て、受付係は口をあんぐりと開けていた。
受付の奥で仕事をしていた者達や、掲示板で依頼書を吟味していた冒険者達も同じ顔をしている。
彼らもまた、カウンターの上の草の量に驚いている様子だ。
「ふむ……。やはり、採取し過ぎたか」
「いや、みんな、お前の《収納》魔法に驚いてんだよ。レア魔法だって言ったろ」
ボースハイトは呆れたように言う。
《収納》魔法は今の人間達にとって、思わず凝視してしまうほど珍しいらしい。
まあ、我が輩にとってはどうでも良いことだ。
「さあ。依頼書通りの品か、確認して貰おうか」
「え、こ、この量をたった数時間で……!? 無詠唱魔法……!? しかも、今の《収納》魔法……!?」
受付係は未だに混乱しているようだ。
「ウィナ様」
グロルが我が輩に声をかけた。
「この中から依頼の薬草を見つけるのは、受付係の方も大変だと思います。一度、私達で仕分けを行いましょう」
「仕分け……」
薬草を一つ一つ見て、依頼書の薬草かどうかを判断するだけの地味な作業。
我が輩は戦闘に全く関係ない作業が苦手だ。
「仕分けはバレットに任せよう」
こういう面倒事はバレットに任せるに限る。
「その間、我が輩達は再び森に向かうとしよう」
「は? 森に? なんで?」
ボースハイトが信じられない、と言う目で我が輩を見る。
「薬草が足りなかったら困るだろう」
「いやいや、どう見ても受けた依頼書の要求数を越してるでしょ」
ボースハイトが呆れたように言う。
「そうなのか? 依頼書をよく読まずに受けたからわからなかった」
「いや、ちゃんと読めよ」
「文章を読み込んだり、計算したりするのは好きではない」
「前から思ってたけど、お前って結構アホだよね」
「アホ……!?」
我が輩は下を向いて「ククク……」と笑う。
「……我が輩にそう言えるのはボースハイトぐらいのものだ……」
いつか対峙したとき覚えてろよ。
我が輩は心の中で恨み言を言った。
「この量なら僕達が受けた依頼書だけじゃなく、他にも出てる薬草採取の依頼も達成出来るんじゃない?」
「そうか?」
「ランクアップ条件に『五十件の依頼を達成する』ってあったよね。ランクアップしたら、ウィナちゃんの大好きな、魔物討伐の依頼も受けられるようになるよ。今日はもう、薬草の仕分けをするってことで良いんじゃない? みんなでやったら早く終わるしさ。早くて明日にはランクアップ出来るかもだよ?」
必死に口を回すボースハイトの顔には、『もう森に行って戦いたくない』と書いてあった。
全く、怠惰な奴だ。
しかし、ボースハイトの言うことも一理ある。
早めにランクアップをして、魔物の討伐依頼を受けられるようにする。
さすれば、薬草採取などという、心の踊らない依頼を受けずに済む。
「では、そうしよう。受付係よ、他の薬草採取の依頼もこれから受けてやろう」
受付係を見ると、汗をだらだらと流し、未だに薬草を見つめていた。
その目は泳ぎまくっている。
「い、一旦、この薬草をお預かりしてもよろしいでしょうか……?」
「え? しかし……」
グロルが心配そうに言う。
「採取物を確認するのは我々の仕事ですから! 今日はお疲れでしょうから、冒険者様には休んで貰って……。薬草の種類と要求数は他の依頼書と照らし合わせて差し引きしますので、我々にお任せ下さい!」
「預かるとなると、依頼の報酬は直ぐには受け取れないのか」
「申し訳ありません! 今は人手が足りず……! 明日には必ず、報酬をお渡ししますので! 冒険者ギルドをこれからも、どうぞよしなに……」
受付係はへへへ、と下品に笑った。
『明日には必ず』と言ったのだ。
その言葉を信じて、報酬は一日待つとしよう。
「依頼書にない薬草はお返しする形で……」
「余った薬草は返さなくても良い。他に使い道がない」
我が輩の言葉に、グロルは頷いた。
「私達は薬師ではありませんからね」
「《回復》には優秀な僧侶いますしな」
「優秀な僧侶……? げ、げへへ……」
バレットがそう言うと、グロルが身体をサーペントのようにくねらせた。
「い、依頼書に書かれた報酬以上は出せないのですが……」
受付係は困ったように言う。
「構わん。貴様らにやる」
「それは、寄付する、ということですか?」
「不満か?」
「い、いえ、私共としては非常にありがたいです! 薬草は薬作りや新薬の研究に際限なく必要ですから。しかし、報酬は出せません……。資金には限りがあるものですから」
「言ったろう。我が輩が持っていても使い道はない。我が輩の手から離れるのなら、それに越したことはない」
我が輩の《収納》魔法はいくらでも《収納》出来る。
だが、それ故に《収納》したことを我が輩が忘れてしまうのだ。
忘れる前に薬草を処分しておきたい。
「薬草を冒険者ギルドに寄付する。これ以上の問答は不要だ」
そう言うと、受付係は見覚えのあるポーズを取った。
両膝を床につき、胸の前で指を組む。
「なんと慈悲深いお方でしょう……。貴方様からはフラットリー様の加護を感じますわ」
そう、人間の国で幾度となく見た、フラットリーに祈るポーズだ。
「貴様、フラットリー信者だったのか……」
我が輩は忌まわしきフラットリーの気配を感じて、非常に不愉快だった。