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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第二部 冒険者になってやろう!
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依頼をこなしてやろう!

 冒険者ギルドで薬草採取の依頼をいくつか受け、我が輩達は近くの森まで来ていた。

 そして、目当ての薬草を捜す中で、一匹のスライムと遭遇した。

 コレールがそそくさと草陰に隠れる。


「ふ、普通のスライムだよな……?」


 コレールは訝しげにスライムを凝視する、

 どうやらルザの一件で疑心暗鬼になっているらしい。

 小さなスライムが魔王に変貌したのだから、疑り深くなるのも仕方ない。


「魔王に変貌するスライムなんて早々いないよ」


 ボースハイトは呆れてため息をついた。


「そうですね。さっさと倒しましょう」


 グロルが頷いた。


「えっ。倒すんですかな?」


 バレットが驚きの声を上げた。


「何を言う。魔物は倒すものだろう」

「しかし、我々の目的は薬草採取でしょう? 無理に戦わずとも良いのでは?」


 グロルは「ああ、そうでした」と思い出したように言った。


「バレット先生は知りませんでしたね。私達のパーティは魔物を避けずに戦うのです。……ウィナ様に叱られてしまうので」


 そう言って、ちらりと我が輩の方を見た。

 そういえば、そうだった。

 人間の今の常識では、魔物を避けて進むのが一般的だった。

 すっかり忘れていた。

 バレットは普通の人間の教師という設定上、驚くふりをするのは当然だ。


「前衛はコレール様とボースハイト様、私は後衛でサポート致します。バレット先生は如何なさいますか?」


 ……そういえば、バレットの職業は何の設定なのだろう。

 戦士……っぽくはないな。

 魔法使いならば、学院内でもっと煙たがれているはずだ。


「私もグロルくんと同じ、僧侶です。後ろでサポートさせて貰いますな」


 無難なところだ。

 グロルのように形だけ信仰していれば、魔法をいくら使っても嫌な顔をされない。


「ウィナくんは前衛、後衛どちらですかな?」

「あっ。ウィナ様は戦闘に参加しませ──」

「我が輩は前衛だ」

「えっ!?」


 コレール、ボースハイト、グロルの三人から驚愕の目を向けられた。


「た、戦えるのか? ウィナ? だ、大丈夫か? 無理してないか?」


 コレールからは心配された。


「当然戦わないと思ってた」


 ボースハイトからは期待されていなかったようだ。


「貴方も戦うんですね……」


 グロルからは戦う意思がないと思われていたようだ。

 そういえば、三人の前では戦ったことなかったか。

 しかし、戦えない思われていたとは心外である。

 むしろ我が輩は、戦うために生まれてきたと言っても過言ではない。


「前衛と言っても前に立つだけだぞ。攻撃してきたら反撃するだけだ」


 でなければ、全部我が輩が倒してしまうからな……。

 それでは、三人を鍛えるという目的が果たせない。


「そんな気はしてました」

「安心した」

「ま、まあ、攻撃が分散する、と思えば……」


 三人はほっとしたような、呆れたような顔をした。

 ボースハイトが放置されていたスライムの方を向いた。


「他に確認することもないよね? なら、さっさと倒そう。スライムだし楽勝でしょ」

「油断は禁物ですな」


 バレットが苦言を呈す。


「はいはい」


 ボースハイトはそれを軽く流し、《吹雪》を撃った。

 ちゃんと命中し、スライムは光に変わる──そう思ったそのとき。

 周囲の草むらから、多数のスライムが飛び出してきた。


「げっ!」


 いつの間にか、我が輩達はスライムの群れに囲まれていたようだ。

 グロルとバレットがすかさず、能力上昇魔法をコレールとボースハイトにかける。


「お願いします!」


 グロルの合図と共に前衛の三人は前に出る。

「あっ」とグロルが何かに気づいたように我が輩を見た。


「ウィナ様にかけるのを忘れてました! 一度下がって下さい!」

「必要ない」


 数匹のスライムが我が輩に向かってきた。

 魔王たる我が輩に挑むなど良い度胸だ。

《反撃》!

 スライムの攻撃を数千倍にして跳ね返した。

 我が輩に《反撃》されたスライムは空中で霧散した。


「平気だったろう?」


 と言ってグロルを見ると、ポカンと口を開けていた。


「何もんだよ、本当……」


 魔王だ。

 ……なんて、今は口が裂けても言えないが。


「……終わったけど」


 コレールとボースハイトがスライムを全て倒して、後衛の二人と合流する。


「本当にパパッと倒してしまいましたな。流石、魔王ルザを──ではなくて、魔王の右腕ルザを倒した、勇者パーティですな」


 バレットが彼らにぱちぱちと拍手を送った。


「そ、それほどでもありませんよ」


 グロルが頬を赤らめ、身体をくねくねと変な動きをした。


「それと、一つご報告があります」

「何だ?」

「足下にある一面の草、依頼の薬草ですな」

「えっ! ほ、本当ですか!?」


 コレールが飛び退いた後、しゃがみ込んで踏みつけていた草を見つめる。


「ええ。間違いありません」

「ラッキーだね」


 ボースハイトはニコニコと笑う。


「さ、早速、摘みましょう!」


 コレールが小さな袋を取り出し、薬草を摘んで袋の中にポイポイ入れていく。

 ボースハイトとグロル、バレットもそれに倣った。

 その姿を見て、我が輩は眉を顰める。


「効率が悪いな」

「え? で、でも、こうするしか、薬草が摘めないぞ?」

「どれ、我が輩が採集してやろう。少し離れていろ」


 四人が呆けた顔を見合わせた。

 不思議そうな顔をしたまま、その場から離れる。

 我が輩はそれを確認すると、足下に魔法を使う。

 使うのは《収納》魔法。

 地面から少し上に境界線を作り、そこから上を別の空間に《収納》する。

 ここら一帯の薬草をごっそり浚うことが出来た。


「終わったぞ」


 四人の方を向くと、コレールとグロルがポカンと大口を開けていた。

 ボースハイトはじっと地面を観察している。


「今のって……《収納》魔法?」

「そうだ」


 問いに答えるとボースハイトは顔を上げ、我が輩に疑いの目を向けてきた。


「《思考傍受》もレア魔法なのに、《収納》も使えるなんて……。ウィナって本当に何者?」


 魔王だ。

 とは当然言わなかった。

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