依頼をこなしてやろう!
冒険者ギルドで薬草採取の依頼をいくつか受け、我が輩達は近くの森まで来ていた。
そして、目当ての薬草を捜す中で、一匹のスライムと遭遇した。
コレールがそそくさと草陰に隠れる。
「ふ、普通のスライムだよな……?」
コレールは訝しげにスライムを凝視する、
どうやらルザの一件で疑心暗鬼になっているらしい。
小さなスライムが魔王に変貌したのだから、疑り深くなるのも仕方ない。
「魔王に変貌するスライムなんて早々いないよ」
ボースハイトは呆れてため息をついた。
「そうですね。さっさと倒しましょう」
グロルが頷いた。
「えっ。倒すんですかな?」
バレットが驚きの声を上げた。
「何を言う。魔物は倒すものだろう」
「しかし、我々の目的は薬草採取でしょう? 無理に戦わずとも良いのでは?」
グロルは「ああ、そうでした」と思い出したように言った。
「バレット先生は知りませんでしたね。私達のパーティは魔物を避けずに戦うのです。……ウィナ様に叱られてしまうので」
そう言って、ちらりと我が輩の方を見た。
そういえば、そうだった。
人間の今の常識では、魔物を避けて進むのが一般的だった。
すっかり忘れていた。
バレットは普通の人間の教師という設定上、驚くふりをするのは当然だ。
「前衛はコレール様とボースハイト様、私は後衛でサポート致します。バレット先生は如何なさいますか?」
……そういえば、バレットの職業は何の設定なのだろう。
戦士……っぽくはないな。
魔法使いならば、学院内でもっと煙たがれているはずだ。
「私もグロルくんと同じ、僧侶です。後ろでサポートさせて貰いますな」
無難なところだ。
グロルのように形だけ信仰していれば、魔法をいくら使っても嫌な顔をされない。
「ウィナくんは前衛、後衛どちらですかな?」
「あっ。ウィナ様は戦闘に参加しませ──」
「我が輩は前衛だ」
「えっ!?」
コレール、ボースハイト、グロルの三人から驚愕の目を向けられた。
「た、戦えるのか? ウィナ? だ、大丈夫か? 無理してないか?」
コレールからは心配された。
「当然戦わないと思ってた」
ボースハイトからは期待されていなかったようだ。
「貴方も戦うんですね……」
グロルからは戦う意思がないと思われていたようだ。
そういえば、三人の前では戦ったことなかったか。
しかし、戦えない思われていたとは心外である。
むしろ我が輩は、戦うために生まれてきたと言っても過言ではない。
「前衛と言っても前に立つだけだぞ。攻撃してきたら反撃するだけだ」
でなければ、全部我が輩が倒してしまうからな……。
それでは、三人を鍛えるという目的が果たせない。
「そんな気はしてました」
「安心した」
「ま、まあ、攻撃が分散する、と思えば……」
三人はほっとしたような、呆れたような顔をした。
ボースハイトが放置されていたスライムの方を向いた。
「他に確認することもないよね? なら、さっさと倒そう。スライムだし楽勝でしょ」
「油断は禁物ですな」
バレットが苦言を呈す。
「はいはい」
ボースハイトはそれを軽く流し、《吹雪》を撃った。
ちゃんと命中し、スライムは光に変わる──そう思ったそのとき。
周囲の草むらから、多数のスライムが飛び出してきた。
「げっ!」
いつの間にか、我が輩達はスライムの群れに囲まれていたようだ。
グロルとバレットがすかさず、能力上昇魔法をコレールとボースハイトにかける。
「お願いします!」
グロルの合図と共に前衛の三人は前に出る。
「あっ」とグロルが何かに気づいたように我が輩を見た。
「ウィナ様にかけるのを忘れてました! 一度下がって下さい!」
「必要ない」
数匹のスライムが我が輩に向かってきた。
魔王たる我が輩に挑むなど良い度胸だ。
《反撃》!
スライムの攻撃を数千倍にして跳ね返した。
我が輩に《反撃》されたスライムは空中で霧散した。
「平気だったろう?」
と言ってグロルを見ると、ポカンと口を開けていた。
「何もんだよ、本当……」
魔王だ。
……なんて、今は口が裂けても言えないが。
「……終わったけど」
コレールとボースハイトがスライムを全て倒して、後衛の二人と合流する。
「本当にパパッと倒してしまいましたな。流石、魔王ルザを──ではなくて、魔王の右腕ルザを倒した、勇者パーティですな」
バレットが彼らにぱちぱちと拍手を送った。
「そ、それほどでもありませんよ」
グロルが頬を赤らめ、身体をくねくねと変な動きをした。
「それと、一つご報告があります」
「何だ?」
「足下にある一面の草、依頼の薬草ですな」
「えっ! ほ、本当ですか!?」
コレールが飛び退いた後、しゃがみ込んで踏みつけていた草を見つめる。
「ええ。間違いありません」
「ラッキーだね」
ボースハイトはニコニコと笑う。
「さ、早速、摘みましょう!」
コレールが小さな袋を取り出し、薬草を摘んで袋の中にポイポイ入れていく。
ボースハイトとグロル、バレットもそれに倣った。
その姿を見て、我が輩は眉を顰める。
「効率が悪いな」
「え? で、でも、こうするしか、薬草が摘めないぞ?」
「どれ、我が輩が採集してやろう。少し離れていろ」
四人が呆けた顔を見合わせた。
不思議そうな顔をしたまま、その場から離れる。
我が輩はそれを確認すると、足下に魔法を使う。
使うのは《収納》魔法。
地面から少し上に境界線を作り、そこから上を別の空間に《収納》する。
ここら一帯の薬草をごっそり浚うことが出来た。
「終わったぞ」
四人の方を向くと、コレールとグロルがポカンと大口を開けていた。
ボースハイトはじっと地面を観察している。
「今のって……《収納》魔法?」
「そうだ」
問いに答えるとボースハイトは顔を上げ、我が輩に疑いの目を向けてきた。
「《思考傍受》もレア魔法なのに、《収納》も使えるなんて……。ウィナって本当に何者?」
魔王だ。
とは当然言わなかった。