目的地を決めてやろう!
「これから何処に向かいましょうか」
グロルはそう言って、眉を下げて笑った。
行く宛のない旅だ。
何処に行こうと我が輩達の自由。
……ではあるが、流石に目的もなく歩くのは難しい。
「そうだな……」
と言いながら、我が輩は考えてみる。
行きたい場所などパッと思いつかなかった。
そもそも、我が輩は最近まで魔王城に引きこもっていた。
何処に何があるかすら知らないのだ。
行きたい場所など、思いつくはずもなかった。
「ま、魔王メプリを、討ちに行こう」
そう言ったのはコレールである。
魔王メプリを倒せるなら倒して貰いたい。
そして、ゆくゆくは真の魔王である我が輩を倒しに来て欲しい。
だが、今のコレール達ではメプリを倒すことなど、夢のまた夢だ。
ルザは四天王の中で最弱である【最弱王】だった。
だから、コレール達でも倒せたのだ。
しかし、正当なる四天王の一角である【生殺王】メプリは倒せない。
それどころか、対峙する前に瞬殺されるだろう。
メプリを倒せるまで成長してからなら構わないが、今直ぐにメプリを倒しに行くとなれば止めなくては……。
ボースハイトは長いため息をついた。
「まさかお前、魔王メプリさえいなくなれば国に帰れると思ってるの? たったそれだけの覚悟で国を出たなら、今すぐ国に帰りなよ」
「え、帰れないのか?」
我が輩がそう聞くと、ボースハイトは呆れた顔をした。
「当たり前だろ。僕達が『魔王を倒した』と言ったせいで、犠牲者が出た。その責任は取らないといけない」
魔王メプリを倒せなかったことの責任ではなく、犠牲が出てしまったことの責任。
それなら、のこのこ帰れないだろう。
犠牲が出た事実は変えられない。
「そんなこと、わかってるよ。ただ、本当の魔王を討てば、悲しむ人が少なくなると、思ったんだ」
「くすくす。勇者の子孫様は考えも立派だねえ」
「では、コレール様は何処に向かいたいですか?」
グロルが尋ねると、コレールはバツが悪そうに視線を逸らした。
「か、考えてない……」
「はあ?」
グロルは笑顔のまま、ドスの効いた声で言った。
コレールはびくり、と肩を飛び上がらせた。
「た、旅をしていれば、俺達は強くなると思う。だから、当面の間は魔物を倒すのが、目的になるのかな……」
コレールはところどころ区切りながらも、いつもより早口で弁明する。
「そうですか」とグロルがいつも通りのケットシー被りの声で言うと、コレールはほっとした。
「しかし、困りました。行き先が決まりませんね。ボース……ハイト様、何処かおすすめの場所はありませんか?」
「この先の町にあるカフェがおすすめ。絶品スイーツがあるんだ」
ボースハイトがスイーツを思い浮かべてうっとりとした顔をして、溢れ出るよだれを啜った。
そんな顔をするほど美味しいスイーツがあるのなら、一度食べてみたいものだ。
「グルメ旅ですか。それも楽しそうですね!」
グロルの良い反応にボースハイトは微笑んだ。
「でしょ」
「だ、ダメだ!」
コレールが二人にストップをかける。
「グルメ旅はお金がかかる! お金には、限りがある! ま、万が一のために、出来るだけ、使わないようにしよう!」
「旅してたら今ある金なんて直ぐなくなるよ」
「そ、それは、そうかも、しれないけど……」
ボースハイトが深くため息をつき、コレールの方を向く。
「文句言うならお前が何処行くか決めろよ」
「ぶ、ブレイヴ王国から、出たことないんだから、何処に行きたいとか、わからない……」
コレールはメプリを倒したい。
そのためには修行をしたい。
ボースハイトはグルメ旅がしたい。
しかし、金はなるべく使いたくない。
「平行線だな。一体どうしたものか……」
我が輩はバレットに目を向ける。
バレットは我が輩の意図を察し、スッと前に出た。
「でしたら、冒険者になったらどうですかな?」
「話を聞いてなかったのか。我が輩達は何処に行こうかという話をしていたのだぞ」
「ですから、冒険者になることを提案します。冒険者は、人々から出された様々な依頼をこなすことで、報酬が得られます」
「報酬……」
「平たく言えば、お金ですな」
バレットは親指と人差し指で丸を作る。
「依頼の中には魔物討伐もありますから、修行にもなるでしょう。コレールくんの修行、ボースハイトくんのグルメ旅の資金集め、どちらの目的も果たせますな」
ボースハイトが希望するグルメ旅の金銭問題が解決し、コレールの【生殺王】メプリを倒すための修行も兼ねられる。
「素晴らしい案だ」
我が輩は頷いた。
「では、冒険者になってやろうではないか」
「で、でも、俺達、討伐依頼が出されてるんだぞ。そもそも、冒険者の登録が、出来ないんじゃないか?」
「元いた国は出たぞ?」
「と、討伐依頼は、世界中に出されてる。国を出たのは、国内ほど顔が知れ渡ってないと、思ったからなんだよ。で、でも、ちゃ、ちゃんと確認されたら、冒険者の登録どころか、その場で討伐されるかも……」
「つまり、面が割れているから登録出来ないと。それを解決出来れば冒険者になれるのだな?」
「え? まあ、そう、なる、かな」
「では、我が輩が何とかしてやろう」
我が輩はどん、と胸を叩いた。




