王様に会ってやろう!
コレール、ボースハイト、グロルによって、魔王ルザが倒された。
その数日後。
魔王ルザが倒されたことは、ブレイヴ王国全土に広がっていた。
魔王ルザを討った勇者学院ブレイヴの生徒は勇者と呼ばれて称えられた。
何故か、その勇者の中に我が輩がいた。
大体、ボースハイトとグロルが我が輩を持ち上げたせいである。
『魔王討伐の立役者』だとか、『彼がいなければ魔王は討伐出来なかった』だとか、大仰に言いふらしたのだ。
本気でそう思ってるにしては話がかなり誇張されていたので、二人は面白がっているに違いない。
とにかく、我が輩も勇者パーティの一員ということになってしまった。
一体、何故こんなことになってしまったのか……。
訂正する度に誇張される我が輩の武勇伝にイラ立ち、出される料理をヤケ食いした。
勇者としての忙しない日々が暫く続き、あれよあれよと言う間に、我が輩はブレイヴ王国の王に城へと足を踏み入れていた。
王宮騎士に連れられ、王城の廊下を歩く。
「き、緊張するなあ……」
コレールが胸に手を当て、深呼吸を繰り返している。
グロルはしずしず歩きながらも、素の言葉遣いで言う。
「俺、王様を前にしたときのマナーとかわかんねーんだけど。無礼を働いたら打ち首かね?」
「大丈夫。僕もわかんないし。てか、ただの平民にマナーまで求めてないでしょ」
ボースハイトはふん、と鼻で笑う。
「へ、陛下は寛大な方だし、多少の無礼は大丈夫だと、思う。気になるなら、俺が全部やるから」
「おお。じゃあ、コレールに全部お任せするわ」
ボースハイトが「あ」と小さく声を上げ、我が輩を睨んで指を差した。
「ウィナ、お前は黙ってろよ」
「何故だ」
「無礼を働きそうだから」
「失敬な……」
我が輩が無礼極まりないではないか。
確かに誰かへ礼を尽くしたことはないが、わきまえてない訳ではない。
「……そろそろ、謁見の間だ」
コレール達は雑談を止め、背筋をピンと伸ばした。
謁見の間の扉が開き、王の姿が見える。
コレールは慣れた動作で王の前で傅く。
我が輩と他二人はそれに倣って傅いた。
我が輩は魔王であるから、誰かに傅いたこともない。
コレールが良い手本になってくれた。
「ほーっほっほっほ! 勇者一行よ、よくぞ参った!」
王座に座るのはブレイヴ王国の国王・ラウネンである。
髪の色は橙色、瞳の色は桃色という、派手な色をしていた。
頭の上にはたくさんの宝石をあしらった大きな王冠を乗せている。
王座から我が輩達を見下し、満面の笑みを浮かべている。
人の王と言えば、髭をこさえた老人のイメージが合ったが、ラウネンは非常に若々しかった。
「魔王ルザを倒したそうではないか! なんと素晴らしい! これで我が国が……否! 世界が! 魔王に怯えずに暮らせる! 笑いが止まらぬな! ほーっほっほっほ!」
ラウネンは口を大きく開けて笑う。
全くもって、品がない笑い方だ。
「感謝するぞ。コレール、ボースハイト、グロル、そして、ウィナよ。明日、そなたらの凱旋パレードを行おう!」
コレールは『凱旋パレード』と聞いて、表情を曇らせた。
「皆、魔王を討った勇者らを一目見たいと思っておる! そなたらが姿を見せ、平和が訪れたことを民衆に知らせるのだ!」
「え、ええと……」
堂々とラウネンに傅いていたコレールが、急におろおろと視線を宙に彷徨わせ始めた。
「ラウネン陛下、僕は魔法使いです」
ボースハイトが口を開く。
「祝いの席に僕のような得体の知れない者がいたら、折角の祭典が台無しになってしまいます。僕は欠席させて頂きます」
そういえば、今の人間達の間で、魔法使いは魔族だと思われているんだったか。
魔法使いが民衆の前に出たら袋叩きに遭うかもしれない。
まあ、今のボースハイトなら返り討ちに出来るだろうが、祭りの楽しい空気は壊れるだろう。
ラウネンはフッと笑った。
「何、心配はいらぬ。そなたらは勇者だ。英雄だ! 魔法使いだからと言って、嫌な顔はせぬよ。そなたは堂々としておれ! ほーっほっほっ!」
ラウネンは顎が外れそうなくらいの大口を開けて、何度目かの高笑いをする。
一頻り笑った後、ラウネンは言った。
「そなたらの部屋を用意してある。今日はそこでゆっくりと休むが良い」
□
我が輩達は城の客間に案内された。
天井にはシャンデリアが取り付けられており、壁にはラウネンの肖像画が飾られている。
キングサイズのベッドが四つ、広い間隔を開けて置かれている。
それでも、部屋の空間は有り余っていた。
我が輩達を案内した王室付きの使用人が部屋を出る。
それを見届けた後、グロルはベッドへと飛び込んだ。
「うひょー! ベッド、ふっかふかだぜ! 城のベッド最高!」
グロルは広いベッドの上でゴロゴロと転がる。
遠慮の欠片もない。
「き、緊張した……」
コレールは椅子に腰掛け、項垂れた。
魔王の姿をしたルザと対峙した人間とは思えない小心者ぶりだ。
「ラウネン陛下、相変わらず優しかったな。しかもイケメン! 天って二物を与えるんだなー。羨ましい」
「『相変わらず』? 王様に会ったことあるの?」
我が輩は「げ」と小さく声を出してしまった。
〝いつものアレ〟が始まる、と。
「俺のいた教会を見に来たことがあってな。陛下、颯爽と現れて教会に大金を寄付してったんだぜ。かっこいいよな。おかげで暫くは飯に困らなかった」
グロルは胸を張って言う。
「俺、そんとき握手して貰ったんだぜ。凄ぇだろ。この手だぞ、この手!」
とグロルは右の手のひらをボースハイトに見せつける。
ボースハイトはゆったりとした動きでその手を目の前から退けた。
「僕も会ったことあるけど」
「握手は? して貰ったか?」
「すると思う?」
「ラウネン陛下なら頼んだらしてくれるぜ」
「そうじゃない」
ボースハイトは深くため息をついた。
「僕が勇者学院に来た理由。そのお優しい王様の誘われたからなんだよね」
「推薦入学ってことか? すげーじゃん」
「推薦って言うより脅し? 僕の討伐依頼が出されたのは知ってるよね」
「有名な話だわな」
「それを取り消す代わりに学院に入れって脅されたんだよ。くすくす。王様、優しい顔して恐ろしいよね」
「そ、それは、違う」
コレールが首を横に振った。
「陛下は、ぼ、ボースを更正させるために、学院に入学させたかったんだと思う。だから、無理矢理理由をつけて、誘ったんじゃないかな」
「はあ? 違うでしょ。僕を学院に縛り付けて、悪さをしないか見張りたかったんだ」
「ら、ラウネン陛下は、そんな人じゃないぞ……」
「お前が王様の何を知ってるの?」
「ふ、普通の人よりは、知ってるよ」
「へえ?」
ボースハイトが身を乗り出す。
「俺の父が、ラウネン陛下の友人で、よくお忍びで家に来てたんだ」
「マジ!? 世間って狭いんだなー」
三人はラウネンのことを延々と話し続けた。
やはり、〝いつものアレ〟か、と我が輩はため息をつく。
誰もがラウネンを褒め称える。
……気味が悪いほどに。
我が輩はラウネンが何者かを知っている。




