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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第一部 勇者学院に潜入してやろう!
22/56

魔王を倒してやろう!

「おーい。ボース、生きてるか?」

「死んだフリしてるんだから話しかけないでよ」

「ぎゃはは……。まだ生きてるな。良かったぜ」


 ボースハイトとグロルは倒れ伏していた。

 二人は幸いにも、まだとどめを刺されずにいた。

 だが、逃げる気力も魔力も、もう残っていないようだ。

 何度か逃げようと試みた後なのだろう。

 コレールが逃げた直後より、魔力が減っている。

《回復》に割ける魔力もなくなり、今はただ、死んだふりをしているしかないようだ。

 魔王ルザはコレールを捜しているらしく、二人から離れて、きょろきょろと周囲を見回していた。


「魔王様は死んだふりで見逃してくれるかね?」

「さあ? 魔王様に聞けば。全く、コレールの奴……一人だけ逃げやがって」

「何言ってんだ。俺達が逃がしたんだろ。魔王様の足にしがみついた癖によ」

「別に。僕のことほっといてどっか行こうとするから止めただけ」

「ぎゃはは。そういうことにしといてやるよ。まあ、逃げて正解だよな。魔王に敵う訳ねーんだから……」


 魔王ルザがコレールを諦めたのか、二人の元に戻ってくる。


「そろそろ潮時か」


 二人が諦めて目を瞑った瞬間──


「ま、待て!」


 コレールの声が響いた。

 その声は裏返っていて、救世主の登場のはずなのに、とても情けなかった。


「お、お、俺が。俺が相手だっ! ま、魔王ルザっ!」


 コレールが魔王ルザの前に立ちはだかる。

 コレールは顔面蒼白の上、冷や汗をかき、震える足で立っているのがやっとに見えた。

 それでも、魔王ルザからは目を離さない。

 鋭い眼光で魔王ルザを見据えている。


「コレール、どうして……」


 逃げたんじゃなかったのか。

 ボースハイトとグロルから、そういう目を向けられる。


「強くなりたいと思った。守りたいものを、守るために」


 コレールは震える声で絞り出す。


「でも、守る勇気がなきゃ、強くなったって意味がない!」


 今にも折れそうな膝を叱咤をするため、地面を踏みしめる。


「俺は、守る! 守りたい人達を! この手で!」


 そう叫ぶと、コレールの身体が眩い光に包まれた。

 コレールは驚いて、自分の手のひらを見た。


「え……。な、何これ、光ってる?」


 コレールは何故光り始めたのか、自分でもよくわかっていないようだった。

 これは……魔法だろうか?

 コレールの体が発光し始めてから、コレールのものではない魔力を感じる。

 我が輩は遠目からコレールをよくよく観察した。

 よく見れば、光っているのはコレールの血管だというのがわかる。

 つまり、血液から魔法を行使しているのか?

 それに、この感じたことのある魔力……。

 これは、コレールの先祖・タイレのもの。


「わからない……。でも、力が……沸いてくる!」


 ……なるほどな。

 タイレの奴、自らの血に魔法を混ぜていたのか!

 魔力を増幅させる魔法。

 いずれ、臆病な自分の子孫が恐怖に打ち勝ち、仲間を守る強い勇気を持ったとき発動するようにしていたのだろう。

 これほどの魔力を増幅させる魔法……まさかタイレは、心血を注いだのか?

 心血を注ぐ魔法とは、《《今世の自分を犠牲にする》》魔法だ。

 つまり、死ぬということだ。

 その代わり、自分の能力以上の魔法を発動させることが可能となる。

 その魔法は仲間を守れず、逃げ帰ってしまったタイレの後悔を現していた。


「うああああああああああ!」


 コレールが地面を蹴り、魔王ルザに向かっていく。


「な、なんですかあ、この力はあ……!? き、聞いてないですう!」


 魔王ルザが後ずさる。

 だが、逃げられなかった。

 コレールの突進が魔王ルザに突き刺さる。

 周囲に突進の衝撃波が吹き渡った。

 それほどまでの、強力な突進。


「ぐああああああああああ!」


 魔王ルザが悲鳴を上げる。

 吹っ飛ばされたルザの身体は空中に舞い、破裂した。

 花火が花開いた後のような光が洞窟いっぱいに広がる。

 コレールは目を白黒させ、その光を見つめた。


「倒せた……のか……?」


 かくん、とコレールの膝が折れ、尻餅をつく。

 体全体が震え、動けない。


「凄ぇよ! コレール!」


 グロルがコレールに飛びつく。


「お前は最高だぜ! ぎゃはは!」


 ゲンスルーはバンバンとコレールの背中を叩き、コレールを称えた。

 ボースハイトはゆっくりと歩いて、その二人に近づく。


「まさか逃げ出した臆病者が魔王ルザを倒しちゃうなんてねえ」


 その言葉に、コレールはバツが悪そうな顔をした。


「……逃げて、ごめん」

「くすくす! あとで学食奢ってよねえ。勿論、デザート付きで!」


 コレールがへにゃりと笑った。


「ありがとう……」


 経験値の光の大部分が三人の身体に吸い込まれた。

 ふと、コレールが魔王ルザのいたところに目をやると、一つのペンダントが落ちていた。

 コレールは這って近づき、それを拾った。


「これ……」

「イーズのペンダントだ!」


 グロルがコレールの後ろからそれを覗き込んで叫ぶ。


「あの兄妹の……」


 少年ピエタが魔王ルザに投げつけたと言っていた、妹イーズのペンダント。

 コレールはペンダントを握り締めた。


「本当に……倒せたんだ……。魔王……」


 □


 三人は喜び、笑っている。

 それを影で見ていた我が輩はほくそ笑んだ。

 タイレの血の魔法……大きな収穫だ。

 コレールがタイレの血の魔法を使いこなせるようになれば、我が輩を倒せるやもしれん。

 ふはは、戦える日が楽しみだ……。


「ふーう! 魔王様ぁ、これで良いんですよねえ?」


 ルザがぽよぽよと我が輩の現れた。


「ご苦労だったな、ルザよ」


 ルザは倒されていない。

 倒された《《ふり》》をしていたのだ。

 ルザは【逃走王】の名を欲しいままにする、逃走のプロフェッショナル。

 倒されるふりなど朝飯前である。

 経験値の光も、偽造だ。


 イーズのペンダントは村を襲ったケルベロス達が持っていた。

 ケルベロス達は村を襲った後、ルザを追いかけるようにこの洞窟に入っていた。

 我が輩がペンダントを持つケルベロスを見つけ出し、倒し、ペンダントを取り返した。

 それをルザに持たせ、コレール達に倒された後に落とすよう、命じたのだ。

 魔王を倒すのは大変だが、魔王を倒したことを証明するのもまた大変だ。

 ペンダントが魔王討伐の証明になるだろう。


「ルザ、仕事したので、あのう、こ、殺さないで下さいぃ……」

「元より殺すつもりはない。殺そうとしたら逃げるし」

「逃げなかったら殺すんですねえ……!? じゃあ、に、に、逃げますう!」


 ルザは転移魔法で何処かへ行ってしまった。

 解放するつもりだったから良いが、逃げられる形になったのは面白くなかった。

 次に会ったときは、逃げられる前に倒さねば。


 □


 コレールが傷だらけのボースハイトとグロルに肩を貸し、来た道を戻る。

 我が輩はそこに、何食わぬ顔で現れた。


「ご機嫌よう」


 勇者三人は目を見開いた。


「ウィナ! お前今まで何処に行ってたんだよ!」

「迷ってた」


 嘘だ。

 ずっと三人の行く末を眺めていた。


「僕達大変だったんだからね」

「魔王ルザと戦ったんだぜ! 俺、吹っ飛ばされた! いてーのなんの」

「全く、肝心なときにいないんだから」


 ボースハイトとグロルにチクチクと咎められる。

 見かねたコレールが我が輩と二人の間に割って入る。


「ち、違うんだ、二人共。ウィナは、お、俺に能力上昇魔法を、かけてくれたんだ。魔王ルザを倒せたのもそのおかげで……」

「かけてないぞ」

「え?」


 今言った通り、我が輩はコレールに能力上昇魔法をかけていない。

 魔法をかけた、という嘘をついたのだ。

 臆病者が魔王ルザに立ち向かえるように。


「嘘も方便というだろう」

「でも、身体が光り始めて……。力が溢れてきたんだぞ?」


 それはタイレの血の魔法だ。


「我が輩の力ではない。ルザを倒せたのは、貴様自身の勇気だ」


 タイレの血の魔法を発動する鍵である〝仲間を守る勇気」〟……それを持っていたのは、紛う事なきコレールだ。

 お膳立てはしたが、それ以外は本当に何もしていない。

 ここでルザに殺されればそこまでだと思っていた。

 別の勇者候補を捜せば良いだけ。

 まあ、とりあえず。


「魔王討伐おめでとう、勇者達よ」


 我が輩は三人の勇者に拍手を送る。

 三人は誇らしい顔をすると思いきや、むっとした顔をした。


「はーあ? お前、なーに自分は勇者じゃないみたいな顔してんの?」


 ボースハイトがイライラと足を踏む。


「は? いやいや、我が輩は何もしてないだろう」

「かー! 魔王討伐の立役者が何言ってんだか! 俺達に無詠唱魔法教えたの誰だっけえ? お・ま・え・だ・ろ!」


 グロルが我が輩を指差す。


「いや、でも」

「勇者の重役から一人だけ逃げようったってそうはいかないよ?」

「だから」

「そうそう! 死なば諸共だぜ!」


 ボースハイトとグロルはニヤニヤ笑いながら、我が輩の肩を抱いてくる。


「おら、肩貸せよ。こっちは魔王と戦って疲れてんの!」

「優しく運んでよね」

「ほら、コレールも乗っかれ!」

「い、いや、俺は……」

「くすくす。こんなとこでも臆病なんだね」

「う。じゃ、じゃあ、乗っかる……」


 我が輩は三人に乗っかられ、フラフラしながら洞窟を出る。

 重い訳ではなく、バランスが非常に悪いせいだ。

 洞窟の外に出ると、眩しい朝日が我が輩達を出迎えた。


 □


「何か言い訳はありますかな?」


 村に戻った我が輩達は、まず夜中に抜け出したことをバレットに叱られた。

 我が輩達は怒られるとわかって抜け出したので、甘んじて受け入れた。


「全く、一体何をしに村の外へ行ったのですかな?」

「ええと、ま、魔王を倒し、に……」


 グロルがそう言うと、バレットは目を丸くした。

 バレットがちらり、と我が輩の方を向く。


「本当だ。《《魔王ルザを》》倒してきた」


 我が輩はペンダントを見せてやれ、とコレールを小突く。

 コレールはペンダントを取り出した。

 そして、村の端に蹲っていたピエタの元に近づいた。

 ピエタは徐にコレールを見上げた。

 コレールは片膝をつき、ピエタにペンダントを見せる。

 ピエタはペンダントを見ると、目を大きく開いた。


「これ……イーズのペンダント……!」


 ピエタにペンダントを手渡すと、握り締めて、妹の名前を呼ぶ。


「ありがとう……勇者様……」


 ピエタは大粒の涙を流した。

第一部、これで完結です。

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