先生に怒られてやろう!
レックレス達は保健室に運ばれた。
決闘後、奴らの怪我はグロルが《回復》してやったのだが、何故か運ばれていった。
ボースハイト曰く、「彼らは心の傷を負ってしまった」らしい。
心って傷つくものなんだな。
一方、我が輩達はというと、職員室に呼び出された。
「何か言い訳はありますかな?」
職員室に到着すると、バレットが腕を組んで待ち構えていた。
呼び出された理由はおそらく、レックレス達との決闘の件だろう。
我が輩はため息交じりに応える。
「突っかかってきたのはあいつらだぞ」
「『やり過ぎ』という言葉はご存じですかな?」
我が輩はボースハイト達に「手加減しろ」と確かに言った。
怒られる謂われはない。
「我が輩は何もやってないぞ」
「ウィナくんが焚き付けたと聞きましたがな?」
隣でグロルとボースハイトがうんうんと頷いている。
裏切りおって……。
我が輩はちらりと、頷かなかった一人に目を向ける。
コレールだ。
コレールの顔色は真っ青だった。
「お、俺が、大怪我をさせてしまったのは、事実です。ば、罰なら受けます。すみませんでした」
コレールが深く頭を下げた。
「む……。反省しているなら良いのですがな……」
バレットがちら、と我が輩達の方を見る。
「反省してる」と我が輩達に言わせたいのだろう。
今のバレットは教師、我が輩は生徒だ。
仕方ない。
ここは口だけでも反省してやるか。
「反省してやろう」
「反省してまーす」
「反省しております」
我が輩とボースハイトとグロルが示し合わせたかのように言う
バレットは大きくため息をついた。
「……次は気をつけて下さいな」
バレットの説教はこれで終わりのようだ。
教室に行くかと踵を返したそのとき、バタバタと音を立てながら職員室に人間が駆け込んできた。
「た、大変です!」
職員室内の全員の視線が、その教師に集まる。
「魔王が……魔王が現れました!」
「ほう……魔王が」
それは大変だ。
学院が火の海にならなければ良いが……。
……って、魔王は我が輩ではないか!
我が輩が現れたとはどういうことだ。
ここ数日、我が輩はティムバーの森で経験値稼ぎをしていたのだが?
「落ち着いて下さいな。魔王は一体何処に現れたのです?」
「ブレイヴ王国の端にある〝サクリ村〟です!」
「サクリ村が……!?」
グロルがサッと顔を青くする。
「何? グロル。知り合いでもいるの?」
ボースハイトが尋ねると、グロルは震える声で言った。
「サクリ村は……私の故郷です」
□
教師達は廊下を慌ただしく走り回っている。
生徒達は自身のクラスの教室に待機していた。
暫く待っていると、バレットが教室に現れ、教卓に立つ。
「先程、魔王がサクリ村を襲ったと連絡がありました。これから救助、救命に向かいますな」
クラスメイト達はざわめいた。
一部の者は恐怖を感じ、また一部の者は好奇心にかられた。
そして、一部の者は野次を飛ばした。
「なんで俺達が……」
「魔族に襲われた人達を助けるのも勇者の使命ですな」
バレット曰く、魔王が襲われた町村に人材を派遣するのも勇者学院の仕事らしい。
最近は魔王が現れなかったため、こんな事態になるのは数十年ぶりになると言う。
まあ我が輩、四百年は暴れていないしな……。
むしろ数十年前に現れた魔王誰だよ。
「それって結局ボランティアでしょ? 僕達にメリットはないよね?」
ボースハイトがそう言うと、それに同意する者達がちらほら現れる。
「自分達には関係ない」
「そんなことより授業をしてくれ」
「面倒だ」
などなど。
それらを聞いて、バレットが唸った。
三科を無理矢理統合した弊害か、元からこのクラスに団結力はない。
サクリ村への遠征に行かない者は出て来るだろう。
グロルが音を立てて立ち上がる。
「お願いします。サクリ村を助けて下さい」
教室内がしん、と静まりかえる。
グロルはクラスメイト達の方を向き、膝をついた。
「サクリ村は私の故郷なのです。サクリ村の人達は孤児だった私を受け入れ、ここまで育ててくれました。今私がここにあるのは、サクリ村の人達のおかげです」
グロルは目尻に涙をにじませる。
「しかし、サクリ村の人達は今こうしている間にも苦しんでいます。お願いします! 皆様! サクリ村を。私の故郷を! 助けて下さいませ!」
そう言って、グロルはクラスメイト達に願った。
……こんなに必死なグロルは初めてだ。
グロルは狡猾な男だ。
自分の得のために、うさんくさいと知っているフラットリー教に身を置くくらいには。
損得抜きにこんなことが出来るとは思わなかった。
故郷というのはそれほど守りたいものなのか。
……我が輩には故郷などないから、わからないな。
「……一時間後、サクリ村へ出発しますな。行きたい者だけ校庭に集まって下さいな」
バレットはそれだけ言うと教室を出た。
□
校庭には生徒達が集まっていた。
皆、サクリ村へ救援に向かう有志達だ。
我が輩もその一人。
「うぃ、ウィナも来たんだな」
コレールが我が輩に近づいてくる。
「ああ、グロルの故郷とやらを一目見に行たくてな」
グロルが頭を下げるほどの価値がある村だ。
興味がある。
コレールは集まった生徒達を見回す。
「み、みんな、結構来てるな」
グロルの呼びかけのおかげか、僧侶の姿が多く見える。
戦士もそこそこいるようだ。
だが、魔法使いの帽子はあまり見えない。
「ウィナ様! コレール様! 来て下さったんですね!」
僧侶達と一緒にいたグロルが駆け寄ってくる。
「ウィナ様まで来てくれるなんて思いませんでした。魔法使いは来てくれないようなので……」
「何故、魔法使いは来ないのだ?」
グロルが言葉を詰まらせる。
「魔法使いはどの職業の奴よりも損得勘定で動くからね」
我が輩とグロルの間にボースハイトが割って入った。
グロルはそれに飛び上がって、数歩後ずさりした。
「人間から魔族扱いされてる奴が人間を助けると思う? どうせ行っても、罵詈雑言を浴びせられるだけだ。僕達はそれが一番わかっている」
ボースハイトはくすくすと笑う。
「じゃ、じゃあ、お前は、何しに来たんだよ」
ボースハイトはコレールにニッコリと笑いかけた。
「魔王に襲われて惨めになった奴らを見て笑うため」
「お、お前なあ……」
コレールは呆れた声を出す。
グロルは首を横に振った。
「いえ、来てくれるだけで心強いですよ。ありがとうございます」
ボースハイトはすっと笑みを消した。
「別に。お前のためじゃない」
そう言うと、ボースハイトは我が輩達から離れていった。
あいつは一体、何を言いたかったんだ。
暫くして、バレットの号令がかかり、我が輩達はサクリ村へと出発した。




