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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第一部 勇者学院に潜入してやろう!

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16/56

修行の成果を見せてやろう!

 翌日。

 コレール、ボースハイト、グロルの様子を見るため、朝食の時間に食堂へと来た。

 素早く三人を捕まえ、同じテーブルに座らせる。


「昨晩はよく休めたか?」


 席に座りそう言うと、三人は疲れ切った顔をする。


「かなり疲弊していましたが、フラットリー様のおかげでよく休めました」


 周囲に人がいるからか、グロルは上品にスープを口に運ぶ。

 口の周りはびしゃびしゃで、全く繕えてないのが滑稽だ。


「一日で五日間の疲れが取れる訳ないだろ。馬鹿じゃないの?」

「体力、魔力共に回復してるように見えるだが、休めていないのか?」


 それともあれか。

 ボースハイトの言っていた精神的疲労って奴のせいか。

 精神的疲労を回復する魔法を作ってやろうか……。


「──おい」


 防具をつけた三人の男が、コレールに声をかける。


「コレール、なんで魔族共と一緒にいるんだよ」

「れ、レックレス……」


 コレールはレックレスと呼んだ男の顔を見ると、顔を逸らした。

 わざわざ話しかけてきたのだから、知り合いかと思ったが、この反応は……。


「お前、森から帰ってきたの最後だったんだってな。いくら魔族共が足引っ張ったからって遅過ぎだろ」


 レックレスはゲラゲラと笑った。

 人を馬鹿にしたような下品な笑い。

 グロルもこのように笑うが、ここまで不快にさせる笑い方ではない。

 我が輩はボースハイトににじり寄り、小声で尋ねた。


「コレールの知り合いか?」

「戦士の奴でしょ。知らないけど」


 ボースハイトは気にせず、パンを食べやすいように千切って口に運ぶ。

 テーブルにぽろぽろとパンくずが零れている。

 どいつもこいつも食べるのが下手か。

 少しはコレールを見習え。

 食べこぼし一つないぞ。


「俺達か? 俺達は一日で帰ってきたぞ。誰よりも早くな。なあ?」


 レックレスは後ろにいる二人達に同意を求めた。

 二人はヘラヘラとレックレスに合わせて笑っている。

 コレールは目線を下に落としたまま黙り込んでいる。

 ふむ。

 コレールは言葉が出て来ないようだから、我が輩が会話を繋いでやろう。


「早く帰ってきて何がそんなに偉いのだ?」


 我が輩は正直に言った。

 あんな森、一日で帰れて当然だ。

 まあ我が輩達は、たっぷり五日使って経験値稼ぎしたがな。

 帰るときは一日もかからなかった。


「何がって……一番早い奴が一番偉いに決まってるだろ」

「一番早い奴が一番偉い……? ……あ!」


 我が輩はぽん、と手のひらに拳を置いた。


「わかったぞ! タイムアタックだな?」


 タイムアタック。

 一度、暇潰しのため、タイムアタックなるものにチャレンジしたことがある。

 世の中には魔物を倒したタイムを計り、競わせる猛者達がいるらしい。

 一度の挑戦で記録を塗り替えたことがあるが、それ以降誰も我が輩のタイムを塗り替えられなかった故、記憶の隅に追いやっていた。

 ダンジョン攻略もタイムアタックが出来たのか……知らなかった。


「なるほど。あの授業はタイム競わせるものだったのだな。ならば早く言ってくれれば良いものを……。バレットめ、抜かったな」


 説明してくれたら一瞬で帰ってきたのに。

「説明したとしても聞いていたかどうかは謎ですな」とバレットの声が聞こえた。

 勝手に脳内へ話しかけるな。


「では、今から記録を塗り替えてこよう。貴様達は何秒で戻ってきた?」

「秒!?」

「レイコンマだったか?」


 人間にしてはなかなか早いな。

 まあ、我が輩には敵うまい。


「こ、この……」


 レックレスは顔を真っ赤にして、わなわなと肩を震わせている。

 何故か怒ってる様子だ。


「表に出ろ! どちらが上か、わからせてやる!」


 レックレスは叫んだ。


 □


 言われた通り、我が輩達四人は中庭に出た。

 レックレスは仁王立ちで腕を組み、我が輩達を待ち構えている。


「降参するなら今の内だぞ」


 レックレスの後ろには取り巻きが二人いる。

 我が輩達四人とレックレス達三人で決闘をするつもりらしい。


「三人だけか?」


 レックレスは鼻で笑う。


「俺達はこの三人でティムバーの森を踏破したんだ。お前ら如き、三人で十分だ。まあ、ハンデだと思え」

「ハンデか。良かろう」


 我が輩は頷いた。


「よし。行け、ボースハイト」


 我が輩はとレックレス達をびしっと指差す。


「は? なんで? 一人ずつ戦うの?」

「全員でかかったら弱い者いじめになるだろう?」


 実力的にはコレール達の方が明らかに上だ。

 丁度、三人と一気に戦わせるのは大人げないと思っていたところだ。

 ボースハイトは我が輩の言葉の意味を理解すると、くすくすと笑った。


「なるほど、ハンデだね」


 レックレスは顔を真っ赤にした。


「馬鹿にしやがって! てめえら、ギッタギタになる覚悟は出来てんだろうなあ!?」


 我が輩はレックレスの声量に耳を畳んだ。 


「何をあんなに怒っている? ハンデを言い出したのは向こうだろうに」

「あ、煽りだと思われたんだよ……」


 コレールは顔を手で覆って言った。

 事実なんだがな。

 ティムバーの森を踏破したと言っても、魔物を避けて進んでは経験値を稼げない。

 そんな奴らが、五日間みっちり経験値稼ぎした三人に敵うはずがないのだ。

 相手をするのは一人で十分……。


「手加減しろよ、ボース」

「言われなくても」


 ボースハイトは《吹雪》の準備をする。

 ……《吹雪》は不味いな。

 放たれた《吹雪》は周囲を凍らせながら進んでいき、取り巻きの一人に当たった。

 そいつは取り巻き・一としよう。


「へっ?」


 レックレスが素っ頓狂な声を上げた。

 レックレスが恐る恐る《吹雪》の通った先を見ると、取り巻き・一は全身が凍り付いていた。

 ボースハイトはしまった、というような顔をした。


「ヤバ……死んだ?」


 死んではいない。

 我が輩が《防御》させてやり、一命は取り留めている。


「え……え?」


 ボースハイトが目をパチクリさせている。

 自分でやったのに、何を驚いているのだ。


「手加減しろと言ったろう」

「いや、だって、ドラゴンに使ったときは平然としてたじゃん」

「ドラゴンは《防御》を使っているからな」


 ここの戦士は《防御》どころか、魔法を一切使わない。

 あと、ドラゴンと人間じゃ元々の防御力が桁違いだ。


「グロル、《回復》してやれ」

「あ。は、はい!」


 口をあんぐりと開けたグロルは口を閉じると、パタパタと相手に近寄り、瀕死状態の男に《凍結回復》と《回復》を使う。

 あと二人残ってるな。

 ボースハイトが一番手加減が上手そうだと思って、一番に行かせたのだが、失敗だったようだ。

 仕方ない。

 次は確実に手加減する奴を行かせよう。


「では次。グロル、行け」

「へえ!? まだやるんですか!?」

「あと二人いるのだから当然だ」

「僧侶一人と戦えだと……? どんだけ俺達をコケにすりゃあ気が済むんだ!」


 もう一人の取り巻きが前に出て来る。

 そいつを取り巻き・二と呼ぼう。

 取り巻き・二にレックレスは「お、おい……」と何か言いたげだった。

 取り巻き・二はグロルの前に仁王立ちする。


「おら、かかって来いよ。あ?」


 そう言って、取り巻き・二はグロルを挑発する。

 グロルは「仕方ないですね」と肩を落とし、手を構える。


「えいっ」


 グロルは目を瞑って、頬を優しく叩いた。

 ぺち、と軽い音が響く。

 すると、取り巻き・二の身体が後方に吹っ飛んだ。


「えーっ!?」


 吹っ飛んだ身体は中庭の植木にぶつかり、ずるずると下に落ちた。

 取り巻き・二は目を回しているようだ。

 柔だな。


「ウィナ様! こ、これは一体どうことですか!?」

「良い手加減だったぞ、グロル」

「そうじゃなくて! わ、私、軽く叩いたんですよ!? なんで吹っ飛ぶんです!?」

「五日間の修行の成果だな」

「会話をして下さい!」


 何故、と言われてもな。

 経験値稼ぎで攻撃力が上がっただけだ。

《防御》の使わない相手など、吹き飛んで当然である。

 攻撃力は筋力とは違う。

 武術で言う〝気〟のようなもので、攻撃する際、無意識的に使われる。

 筋肉のように肉体に出る成長ではないため、身体の大きさと攻撃力の強さがイコールにならない。

 我が輩の人間の肉体は小さいが、これでも十分強さを発揮出来るという訳だ。


 最初の修行の成果はわかりやすく出るんだが、ここから成長するのが結構大変である。

 ティムバーの森ではもう経験値をあまり稼げないし……。


「ん?」

「ひっ……」


 レックレスと目が合った。


「ああ……もう一人いたな」


 すっかり忘れてた。

 レックレスが足を震わせ、怯えたような目で我が輩達を見ている。


「コレール、最後の一人だ。やれ」


 コレールに指示を出すが、コレールはその場から動かない。


「も、もうやらなくて、良いんじゃないか……?」

「何故だ?」

「れ、レックレスに、戦う意志はもう、ないだろう?」


 確かにこいつは戦意喪失している。

 だが、ここで見逃して報復されても迷惑だ。


「本当に一人だけ見逃すのか?」


 何気なくそう聞くと、コレールの顔が強ばった。

 ……我が輩、何か変なこと言ったかな。

 コレールは俯き、何を考えているかわからなくなる。


「わかった……」


 コレールはレックレスに近づく。

 怯えて後ずさりするレックレスに、コレールはゆっくりと手を伸ばし……。

 鈍い音が響いた。

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