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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第一部 勇者学院に潜入してやろう!

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13/56

仲間を捨ててやろう!

 ティムバーの森を探索し始めてから三日が経ち……。


「ボース! 右に避けろ!」


 グロルの指示通りにボースハイトが動く。

 ボースハイトがいた場所にトレントの枝が振り下ろされた。


「コレール! そっち行ったぞ!」


 トレントが枝を震わせて、鋭利な木の葉の雨をコレールに浴びせる。

 いくつかの木の葉がコレールの足に刺さり、コレールは顔をしかめた。


「痛っ……」


 血液が足を伝う。

 見かねたボースハイトがコレールの前に出た。


「コレール下がって。僕がやる」

「わ、悪い……」


 コレールがグロルの元に行き、《回復》をして貰う。

 大分手際が良くなってきたな。

 この三日、我が輩は三人に魔物を倒させながら森を進んだ。

 その横でピクニックを楽しんだら、三人に怒られた。

「戦いに参加しろ」と。

 我が輩は戦闘が終わるごとに《全回復》してやってるのだから、参加しているのと同じだろう。

 三人は経験値稼ぎの成果もあってか、一日目のような苦戦もなくなった。

 ……そろそろ頃合いだろうか。

 ボースハイトの雷魔法でトレントが倒れる。

 トレントが完全に動かなくなると、トレントは光に変わる。

 戦闘が終わったようだ。


「慣れてきたようだな」

「誰かさんのおかげでね」

「そんなに誉めるな、ボース」

「誉めてないんだけど? あと、ボースって呼ぶな」

「グロルには呼ばせているのに……」

「呼ばせてるんじゃない。呼ばれてるの」


 どっちも同じでは?


「おーい。ウィナさんよお、そろそろ《全回復》してくれ。痛えよ」


 グロルがトレントの木の葉でやられた腕を摩りながら言う。


「自分で《回復》出来るのに我が輩に要求するとは……さては、魔力を温存したいのだな」

「あ、バレちった?」


 グロルはにひひ、と誤魔化すように笑う。

 全く、狡賢い……。

 あ、そうだ。


「グロル。良い魔法を教えてやろう」

「どんな魔法?」

「魔力を回復出来る魔法だ」

「何それ超便利じゃん! 教えて教えて!」


 グロルが目を輝かせる。

 我が輩が手を出すと、グロルはすかさず手で触れる。

 こうすると、ケルベロスのお手を思い出すな。


「では、やるぞ」


 グロルの魔力の流れを制御して、《魔力回復》の魔法を強制的に使わせた。


「うおっ……?」


 グロルが膝をつく。

 コレールが慌ててグロルに駆け寄る。


「身体重っ! なんだこれ」

「《魔力回復》は体力を使う魔法だ。身体が重くなる程度だが、使い過ぎると衰弱して死ぬから気をつけて使え」

「ひえ。ヤベー魔法じゃん……。魔力が枯渇したら身を削らなきゃなんねーのか。まあ、戦闘中に魔力切れたらどっちにしろ死ぬしな」


 経験値稼ぎで魔力が増えているから、そんな事態には滅多にならないだろう。

 だが、世の中何が起こるかわからない。

 目の前に魔王が突然現れることもある。

 一応覚えて置いて損はあるまい。

 ボースハイトがちょんちょんと我が輩の肩を叩いた。


「ねえ、それ、僕も使える?」

「使えるが……前衛の貴様が使うと危険だぞ。貴様には《吹雪》を教える」

「《吹雪》って《氷結》の上位魔法じゃん。十年修行しないと使えないって言うけど?」

「魔力は足りてるから使える。あの木に向かってやってみろ」


 介助をしてやろうとボースハイトの肩に手を置く。

 しかし、その手を払われてしまった。


「一人で出来る」


 ……生意気になったものだ。

 ボースハイトが木に向かって《吹雪》を放つ。

 放たれた氷の風は周囲を凍り付かせながら木に向かっていき、着弾すると木全体を凍結させた。

 初めてにしては上出来だ。

 それに相反して、ボースハイトは肩をがっくりと落とした。


「いや、本当に使えるのかよ」

「使いたくなくなかったのか?」

「お前の言う通りになるとなんかムカつくんだよ」

「理不尽だ」

「お前が言う? 理不尽の権化の癖して」

「失礼な」


 我が輩はさっと、グロルとボースハイトを《全回復》してやった。


「毎回《全回復》してやってるのに、何処が理不尽の権化なのだ」


 我が輩は息をついて、歩き始める。


「では、先に進むぞ」

「ん。ん? あれ? お、俺は……」


 コレールが首を傾げる。

 コレールだけ《全回復》しなかったことを、疑問に思っているのだろう。


「おいおい、魔力切れか? そりゃ戦闘毎に《全回復》してりゃあ魔力もなくなるわな」

「否、魔力切れではない」

「いや、それはそれでビビるわ……」


 グロルは引き攣った笑みを浮かべる。


「魔力切れじゃないなら、なんで回復しないの?」

「そろそろ良い頃合いだと思ってな。──コレールは捨てていこう」


 しん、と静まりかえる。

 ティムバーの森を探索して三日経った。

 そろそろ、コレールに見切りをつけても良い頃だろう。

 グロルが沈黙を破る。


「……は? 捨てていくってどういうことだよ、ウィナ? 本当に捨てていく訳じゃあねーよな?」

「グロルも後ろから見ているからわかるだろう」


 魔法を使わないコレールはこのパーティの足を引っ張っている。

 魔物は《防御》魔法を使っているため、コレールの攻撃は通りづらい。

 前衛で戦っているから怪我も多く、《回復》魔法を頻繁に使わねばならない。

 かと言って、自力で攻撃力や防御力を上げることは出来ない。


「コレールは魔力を食い潰すだけだ。コレールの《回復》はしない。グロルも《回復》をするな。魔力を温存しろ」

「お、俺は足手まといって、ことか」


 コレールの言葉に、我が輩は頷いた。

 すると、グロルは顔を真っ赤にして我が輩に掴みかかる。


「んなことなら。戦わねーお前が一番の足手まといだろうが!」

「毎回貴様らを《全回復》してやっているのは我が輩だぞ」

「そもそもお前が魔物と戦わせなきゃ良いだけの話だ! 寄り道ばっかしやがってよ!」

「経験値を稼ぐためだ。説明したろう」


 いきなり掴みかかってくるなんて、グロルは大分頭に血が上っているようだ。


「何故、貴様が怒ることがある? 貴様はコレールではあるまい」

「この……!」


 グロルが拳を固く握って振り上げる。

 この我が輩を殴るつもりか。

 我が輩を殴ってもダメージはないが、一応《防御》しておこう。

 グロルの拳がどうなるかわからんが、怪我をしたら治せば良い。


「まあ、ウィナちゃんが言いたいことはわかるよ。コレールちゃんは足手まといだよねえ」


 ボースハイトが言葉を発したことで、グロルの拳が止まった。


「ボース……お前もそう言うのかよ!?」


 グロルは上げた拳を下ろし、ボースハイトを睨みつける。

 グロルの怒りの矛先がボースハイトに向いたらしい。

 我が輩は《防御》を解く。


「でも、肉壁にはなるんじゃない? 見捨てるには勿体ない」


 ボースハイトもコレールを捨てるつもりはないらしい。

 意外だな。

 ボースハイトはコレールを捨てる選択をするものだと思っていたのだが、見誤ったか。


「随分、手のかかる肉壁がいたものだな」

「ボロボロになるまでこき使って、使えなくなったら捨てるよ」

「ならば、何も言うまい」


 我が輩は三人に背を向けた。

 グロルとボースハイトはホッと胸を撫で下ろした。


「ご、ごめん。グロル、ボース。お、俺……」

「気にすんなよ、コレール。俺達、パーティじゃん?」

「僕はパーティだと思ったことはないよ。肉壁としてちゃんと働いてね」


 二人はそう言って笑っていた。

 コレールだけは申し訳なさそうに視線を落としていた。


 □


 その日の夜。

 眠りについた三人を見届けて、我が輩はぼんやりと空を眺めていた。

 今日は雲が少なく、星が綺麗に見える。

 そうしていると、草と布の擦れる音が耳に届いた。


「眠れないのか? コレールよ」


 近づいて来たコレールに、我が輩はそう語りかける。

 暗闇の中、コレールは真っ直ぐ我が輩の目を見ていた。

 いつも、何処を見ていようか迷っている目をしていたのに、珍しいこともあるものだ。


「ウィナ、た、頼み事がある」

「《全回復》はしてやらんぞ」

「さ、さっき、グロルにして貰ったから、平気だ」

「では、頼みたいこととはなんだ?」


 コレールは我が輩の前に来て、両膝をついた。


「魔法を、教えてくれないか」


 我が輩は冷静に答えた。


「……魔法は魔族が使うものだから、使いたくないんじゃないのか?」

「でも、あ、足手まといはごめんなんだ」


 コレールの目はじっと我が輩の目を見つめる。

 良い目をしている。

 首を縦に振る以外の選択肢を選ばせない目……。

 コレールの性格ならば、皆に見捨てられるとわかったら、縋ってくると踏んでいた。

 そのとき、見捨てない代わりに、魔法を使えと言うつもりだった。

 それでも魔法を使うことを拒むようなら、それまでの人間だということ。

 本当に捨てるつもりだった。

 だが、予想外にも、グロルとボースハイトがコレールをかばった。

 コレールを育てるのは諦めようと思っていたが……。

 二人の行動が良い方向に働いたようだな。

 我が輩はフッと笑った。


「我が輩は厳しいぞ」


 コレールは困ったように眉を下げながら笑った。


「……知ってる」


 □


 翌日。

 皆が目覚めてそろそろ動こうかと準備をしていたときだった。


「コレール、なんか顔色悪くね?」


 グロルがコレールの顔を覗き込んで言う。


「くすくす。初日ならまだしも、もう三日も野宿してるのに、今更眠れなかったの? 変なの」

「ま、まあ……」


 コレールはバツが悪そうに視線を逸らした。

 森の探索を再開すると、直ぐに魔物と戦闘になった。

 ここ数日で、何十回も戦ったトレントだ。

 いつも通り、コレールとボースハイトが前線に立ち、グロルが後方でサポートする。


「攻撃来るぞ! コレール!」


 戦闘の最中、トレントが木の葉を放ち、いくつかがコレールの腕に直撃する。

 見かねたグロルが指示を出す。


「コレール下がれ!《回復》する!」

「平気だ」


 コレールは木の葉が直撃した腕で、トレントを殴った。

 グロルとボースハイトは目を見張った。


「コレール、腕……」


 コレールの腕に傷はない。

 コレール自身が《防御》魔法でトレントの攻撃を防いだのだ。

 今まで魔法を使って来なかった者に魔法を教えるのは、我が輩も初めてだったため、かなり苦戦した。

 一晩で《防御》魔法しか教えられなかったが、これが使えるだけで、コレールはぐんと役に立つようになる。


「……お前、いつの間に魔法使えるようになったんだよ」


 ボースハイトが尋ねると、コレールは不器用に笑った。


「足手まといはごめんだからな」

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