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魔王自ら勇者を育成してやろう!  作者: フオツグ
第一部 勇者学院に潜入してやろう!

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12/56

野宿をしてやろう!

 その後も何度か魔物を強制的にエンカウントさせ、三人に倒させた。

 我が輩も戦いたかったが、我慢だ。

 こいつらが勇者と呼べるほど成長したときまで、グッと堪えるのだ。

 日が傾いてきた頃、コレールが足を止めた。


「そ、そろそろ、休もう……」


 コレールが足を止めたことで、我が輩達も立ち止まる。

 グロルはコレールの言葉に頷いた。


「そうしましょう。夜の森を歩くのは危険ですからね」

「お前らと同意見なのは不本意だけど、賛成」


 ボースハイトも賛成する。


「誰かさんが魔物連れてくるせいでもうクタクタだよ」

「クタクタだと? さっきの戦闘後に《全回復》してやったろう」

「精神的に疲れてんだよ! 休ませろ! この魔王!」

「ままま魔王ではない!」

「いや、本気にするなよ……。冗談に決まってるだろ」


 なんだ。

 正体がバレたのかとヒヤッとしたではないか。


「あ、悪逆非道な人間のことを、ま、『魔王』だって、揶揄することがあるんだ。本気で言ってる訳じゃない」


 コレールがそう教えてくれた。

 我が輩、そんなに悪逆非道な行いをしていたか?

 今日は天変地異を起こしたり虐殺したりしてないぞ。

 ボースハイトは勘が鋭いのかもしれない。

 気をつけよう。


「とりあえず、今日はもう休みましょう」


 グロルの一声で、我が輩達は小枝や枯れ葉、薪になりそうな枝を集め始めた。

 集めたそれらに、グロルが魔法で火をつける。

 焚き火を囲うように我が輩達は座った。


「野宿なんて久々。入学してからずっと寮に住まわされてたし」


 ボースハイトが焚き火を見つめて言う。


「野宿が好きなのか? 珍しい」


 魔族は家を建てない。

 家を建てても、魔王たる我が輩に直ぐ壊されるからだ。

 気に入った場所を住処にする者が多い。

 だが、人間は違う。

 人間は何度壊されても、家を建ててそこに住む。

 不思議なことに。


「魔法使いに家があると思ってるの? ……いや、お前はありそうだな」


 如何にも、立派な城に住んでいる。


「何故、魔法使いに家はないのだ?」

「魔族は魔族に襲われませんから、家など必要ないでしょう? 私達人間は魔族に襲われますから、家が必要なのです」

「そうか? 魔族だってゆっくりベッドで寝たいだろう」


 我が輩もそのために城を構えたし。


「フラットリー様のご加護があれば襲われずに済みます。やはりフラットリー様は素晴らしいお方ですね」

「グロルちゃんさあ、そろそろそのキャラ止めたら?」


 グロルは固まる。


「……何の話でしょう? ボースハイト様」

「僕、心が読めるんだ。お前が背信者だってことは、もうわかってるんだよ」


 グロルはじっとボースハイトの顔を見る。

 その言葉が嘘かどうか、見極めているようだ。

 ボースハイトの言葉に嘘偽りはない。

 心が読めるのも事実であり、《思考傍受》でグロルの本性を把握したのも事実だ。

 グロルは一つため息をつくと、こう言った。


「……なーんだ。バレてんなら無理して演じなくて良いな」


 グロルは正座していた足を崩し、あぐらをかいた。

 そして、ギザギザの歯を見せつけるようにニヤリと笑う。


「騙して悪かったな。信者のフリしてた方が何かと都合が良いんだよ。わかるだろ? ボース。俺様なりの処世術って奴だ」

「ボースって呼ぶな」

「つれねーこと言うなよ! パーティの仲間だろ?」


 グロルはげらげらと下品に笑いながら、ボースハイトの肩をバンバン叩いた。


「ぐ、グロル……?」


 コレールが声を震わせて名前を呼ぶ。

 コレールは豹変したグロルを見つめながら、はくはくと口を動かしている。


「コレールはまだ気づいてなかったのかよ。鈍いねえ。じゃあ、改めてまして。俺様はグロル。フラットリーなんてクソ食らえだぜ! ぎゃはははは!」


 唾を撒き散らしながら大笑いするグロル。

 コレールは「ええ……」と言いながらグロルと距離を取った。


「うぃ、ウィナは知ってたのか? 驚いてないけど……」

「知ってたぞ」

「ええ……」


 コレールは我が輩からも距離を取った。

 何故。


「それにしても、あっさり本性現したな。てっきり隠しておきたいものだと思っていたのだが」

「三人中二人にバレてんならもうバラしても良いかなって」


 良いのか。


「コレール、この間はごめんなー? ぼっこぼこにしちまって! ちょっとカッとなっちまってさあ」

「え?」

「ほら、戦士寮襲撃事件があったじゃん。ウィナの言う通り、犯人俺だったんだよなー」

「そうだったのか……」


 コレールは自白されても尚、信じられない様子だった。

 グロルは実際、カラッとした性格だ。

 恨みで闇討ちするようには見えない。

 だが、本心というのは、その人自身にしかわからないものだ。


「本当に悪かったって思ってるよ……。お詫びにこれやるよ」


 グロルの法衣の中から出て来たのは大きな果実。

 我が輩が受け取るのを拒否した【神聖な果実】である。

 グロルはこれまた法衣の中からナイフを取り出し、果実を四等分に切った。

 一人一切れ、果実を手渡す。

 コレールとボースハイトはまじまじと果実を見つめた。


「な、なんか凄そうな実だな……」

「これ、フラットリー教に伝わる伝説の【神聖な果実】じゃないの」

「えっ!?」


 グロルは【神聖な果実】にかぶりつきながら笑う。


「こっそりくすねてきたんだ。信者共には内緒だぜ?」

「ええ……」

「お前、滅茶苦茶背信者じゃん。僕達がバラしたら首刎ねられるんじゃないの」

「ぎゃはは! そんときはそんとき考えるわ!」


 ボースハイトは果実を一口かじった。

 続いて、二口、三口と口にしていく。


「……まあ、内緒にしとくけど」


 ボースハイトは果実が気に入ったらしい。

 我が輩も果実を食べる。

 果実は非常に甘く、歯がドロドロに溶けてしまいそうな感覚がする。

 これが好ましいとは、ボースハイト、大分甘党だな……。

 コレールは果実をじっと見つめたまま、止まっている。

 まだ食べるのを躊躇しているらしい。


「食わねえのか? コレール。普通に美味いぜ?」

「でも、大事な実、なんだろ」

「インチキ宗教の崇めてるもんなんて大したことねーよ! ほら、食え食え!」


 グロルはコレールの口に果実を突っ込んだ。

 コレールは口に入ったそれを恐る恐る噛んだ。


「な? 美味いだろ?」


 コレールはこくりと頷いた。


 □


「ふあ……」


 ボースハイトが欠伸をする。

 ボースハイトはハッとして慌てて口を閉じる。


「眠いのか? いつそんな魔法を食らったのだ。グロル、治してやれ」

「いや、何その発想。この時間なら普通眠くなるでしょ」

「我が輩は眠くならない」


 我が輩は眠り状態に耐性があるため、眠気に襲われることはない。

 二度寝の快楽や暇潰しのために寝ることはあれど、流石に野外では寝ない。

 野外で眠り状態になったら、敵に襲われて死んでしまうだろう。


「なら、魔物が襲って来ないか一晩中見張っててよ。眠くならないなら良いよね?」

「よ、良くない! こ、交代で見張ろう!」


 何故、コレールが反対する?


「僕、魔物との戦闘続きでクタクタ。戦ってないウィナちゃんが見張るのは当然じゃない? それとも、魔族の見張りは信用ならない? だったら、一晩中起きてなよ。僕は寝る」


 ボースハイトは横になったかと思うと、直ぐに寝息を立て始めた。

 寝るのが早過ぎる。

 やはり、魔法を食らったのではないか?


「任せて良いんだよな? ウィナ」


 グロルの問いに頷くと、グロルも横になった。

 数秒経たず、寝息が聞こえてくる。

 コレールは暫く起きようとしていたが、こくり、こくりと船を漕ぎ始めた。

 そしてそのまま、座ったまま寝てしまった。


 我が輩は夜の間、何もない時間を過ごした。

 今日一日、大変騒がしかったから、この静けさが少し気持ち悪い。

 みんな、早く起きないだろうか。

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