第十七話 天空の名も無き港町
牧田先生と隠れ家的カフェで会ったその週の末に、僕は映画館に来ていた。一人ではない。今は一人だが、もう少ししたらもう一人来るだろう。
映画の特設ブースの横の椅子に座る僕の元へ。僕を見つけたら、その人は笑うだろう。目の前にロウソクの点いたバースデーケーキでお祝いされている八歳の少女のように、君は笑うだろう。
目を大きくして、大きく口角を上げ、並びのいい白い歯を見せて、君は笑うだろう。そして、一度その場で立ち止まり、大きく手をこちらに振るだろう。それから小走りにこちらにやってくるだろう。
そんなことを考えながら、丁寧にエスカレーターで上がってくる人を、一人一人確認する。
週末とあって人が多い。女子中高生に絶大的人気を誇るアイドルが主演の映画が公開とあって、それ目的であろう女子中高生軍団が目立つ。そのアイドルの等身大のパネルと写真を撮る為にタピオカ屋並みに行列を作っている。そのアイドルの等身大パネルと一緒に写った写真を、SNSに投稿するのが、イケていてお洒落な週末の過ごし方として確立されているのかもしれない。
一際大きい笑いが、女子中高生軍団から湧き上がったその瞬間、遅れてきたヒーローのようにゆっくり上がってくる彼女が、視界に入った。そのゆっくりは、主役の余裕そのものの現れのようで、映画フロアの声が、完全に遮断された。まさに別格の存在感であり、彼女の周りの女子中高生軍団は、もちろん主演のアイドルのパネルさえも、一瞬で脇役に成り下がった。
髪がかきあげられていて、大人っぽく色気に満ちている。トップスには、青生地にドット柄の甘めのブラウスを着ていて、その上に袖を通さないで肩に黒のライダースジャケットを羽織っている。ボトムスは黒のデニムパンツで締めている。黒のハンドバックに黒のパンプス。大人で格好良いスタイルだ。再び今までに見たことの無い牧田先生がそこにいた。
気づいたらガタンと椅子を鳴らし、立ち上がっていた。無人島に漂流した人が、やっと通りかかった沖の船に、僕はここにいると必死にアピールするが如く大きく手を振った。すぐ気付いてくれた牧田先生はきっと、沈まない優良豪華客船に違いない。歯並びの良い歯を見せこちらに胸元で小さく手を振り返している。堪らず小走りで牧田先生の元に駆けよった。
「人多いね」
「あの男のせいですよ」
そう言って、女子中高生の列が未だに途切れない等身大パネルを指差した。
「ああ、今日が公開日だったか。それは仕方ないね。彼、今凄い人気だもんね」
「牧田先生も、もしかして彼好きなんですか?」
「好きよ」
「ふうん」
「でも正確には、彼が好きというより彼が演じてた役が好きってことね。去年やってたドラマの。知ってる?」
「ああ、最終回だけは観ましたね」
安心を感じながら答えた。
「なんでそういう観方するのよ。彼のカッコよさは最終回だけでは分からないはずよ」
「へーい。後でDVD借りて勉強します」
「絶対しないやつ。まあ、そんなことよりチケット買いましょう」
「どうします?彼の主演の映画にします?」
「却下。別に彼に興味は無いし今回の映画は中身が無さそう」
益々、楽しくなってきた。
「じゃん。これチケット」
「あ、もう買ってたの」
「自分の分だけ」
「よろしい」
「正直な感想を持つためにチケッット代は自腹ってのがポリシーでしたもんね?」
得意気に確認する。
「そうよ。よく覚えてましたね。あ、でも先に自分だけの買ってたら席一緒になれないリスクがあるわよね」
「あ・・・」
「まあ、今日の目玉は、人気の彼の映画だから大丈夫と思うけど」
一抹の不安を抱えながらチケット窓口までの列に並んだ。前に並ぶほとんどの人が、例の今をときめく人気のイケメンアイドルが主演のチケットを購入していく。
「え、凄い。ハル君の周りスカスカ。ふはは」
人の心配をよそに僕たちが観たい映画は、話題ではあったが先々週の公開とあってまあまあの集客に落ち着いていた。幸運なことに僕の周りはほとんど空いていた。
「この辺は貸し切っておいたからね」
「ふはは。さっきの不安そうな表情はなにかな?」
「演技に決まってるじゃないですか」
「あら。素晴らしい俳優」
「今度の日本アカデミー賞主演男優賞にノミネートされるかも」
「いつかハル君も等身大パネルになって女子中高生に行列作られるかもね」
「そうっすよ」
なんでだろう。牧田先生には、そう言われたくなかった。
「人気者になるのね」
「でも、好きな人から思われなかったら人気者でも意味がないですよ」
「あら。素敵」
「普通ですよ」
「一途なのね」
「もちろんです」
「ピアノ頑張りましょうね」
「はい」
「あ、ポップコーンとドリンク買いましょう」
牧田先生は無邪気にそう言ってポップコーン売場へ向かっていく。その華奢な背中から楽しさが伝わってくる。楽しさは、インフルエンザより感染率が高い。牧田先生が楽しそうにしているから僕も嬉しくなった。嬉しくなりすぎてしまった。
「牧田先生」
「ん?」
もう既にポップコーン売場の列の一番後ろに並んでいる牧田先生は、メニュー表からこちらに顔を向けた。そして早くというように手招きした。それに従い小走りで牧田先生の隣に行く。
「ねえ、僕が等身大パネルになったら牧田先生も並びます?」
「ううん。並ばない」
あまりにもあっけなくそして素っ気なく答えられたので、言葉も出なかった。あっけなさだけであれば笑って「並べよ」と突っ込み、平和に終わらせていただろう。しかし素っ気なさは思いの外引っ掛かり、何も発せられなかった。それによって冗談の雰囲気にまとめることも出来ず、「並ばない」という言葉が、二人の空中に漂うがままになってしまった。並ばないということはつまりは興味がない、好きではないということと同じではないか。自分の表情も強張ってしまっているのが分かった。何故この流れで気まずい空気になってしまったのか混乱する。
「飲み物何にします?」
牧田先生も気まずさを感じているようで笑顔がぎこちなく見える。
「僕はジンジャエールで」
「好きだね。ジンジャエール。前もそうだったよね?じゃあ、あたしは・・・」
「メロンソーダ」
「おお。よくわかったね」
「前もメロンソーダでしたよ」
「ふふ。さすが覚えがいいね」
ポップコーンとドリンクを受取りまだ時間があったので近くのテーブルに座ることにした。女子中高生の悲鳴のような声や笑い声が、初夏の蝉の鳴き声のように映画館に馴染んでいる。
「ほんと凄い人気だね」
「あたしもあんなにはまれる芸能人がいればもっと楽しかったかもしれないね」
「結構現実的な人だったんですね」
「んー。そうかもしれないね。冷めているというかどっか一歩引いて物事をみていた子だったと思う。例えば、道徳の時間に教育番組をクラスの皆で観た時にクラスの皆が笑うとこで、あたしだけ笑っていなかったりとかね」
「大人ですね。友達いました?」
「失礼ね。ちゃんといたわよ。多くはなかったかもしれないけど・・・まあ、同学年の男子に魅力を感じたことは確かになかったかもしれない」
「やっぱそうなんですね。小学生は尚更女子と男子の精神に差がありますもんね。じゃあ、先輩に?」
「それが小学生で先輩になかなか興味持たないじゃない?持たないっていうか、何処か同学年のなかじゃないとって暗黙の了解というか、そういう雰囲気なかった?」
「あ、確かにあったかもしれないですね。でも割と男子はお姉さんに惹かれることは、あったかもしれないです。けど、確かにルール違反というか、そういうのあったかもしれないですね」
「ねー。やっぱあるよね。女子は逆に下の学年の子に可愛いって思うことはあったかもしれない」
「あーなるほど。母性が擽られる感じですかね」
「かもね」
「じゃあ、中学生になってから先輩とか?」
「それが、自分で言うのもなんだけどピアノの才能が開花した頃でずっとピアノ漬になってしまって高校卒業まで駆け抜けちゃったから、恋愛とかそういう余裕なかった。勿体ない青春時代よね。ほんと」
好きな人の話が無いということに、牧田先生に悪いが喜んでいる自分を認めていた。
「そうだったんですね。大学は専門?」
「高校卒業して海外に少し留学していたの」
「え!凄いですね」
「全然凄くないのよ。世界は広くてね。井の中の蛙ってのを思い知らされて途中で帰って来ちゃった」
「そんな・・・」
「でもね、そこで初めて恋をしたの。初恋ね」
心臓がドクンと鳴った。
「ドイツ人で本当に才能に溢れてて彼をみて、自分の平凡さを知ったようなものね。今思うと彼に恋をして魔法が解けてしまったのかもしれないって思うこともあるの。キキが恋をして箒で空を飛べなくなってしまったように・・・」
「ピアノを弾けなくなった?」
コクリと牧田先生は頷いた。
「彼が、帰国の理由。恋は怖いわね。このままいたらあたしじゃなくなってしまうと思ったの。ピアノが無いあたしは、もはやあたしじゃないって頭で思っているのに、彼の近くで彼のピアノを聴いているだけでもう他に何もいらない、望まないって思っていたのよね。その心と頭のギャップがどんどん大きくなっていってね。苦しかった。でも苦しいだけ・・・」
「好きだったんですね」
牧田先生は、目を少し大きく見開きこちらを見て微笑んだ。
「でもね。帰国してからまたそこからピアノ猛練習したのよ」
「それは彼を想って?」
「そうね。それと自分を保つ意味もあったのかもね。でも、そのおかげで今のあたしがいるのかなって最近は思える」
正直、小さなピアノ教室の先生で満足しているのだろうかという思いが、頭を過った。もしかしてまだ彼を想っているのかもしれない。また海外に行くのかもしれない。
「だから僕のピアノ応援してくれているんですね?」
「え?」
「牧田先生も彼を想ってピアノ練習してたんですよね?今の僕と、自分を重ねたのかなって」
「あーすごい。確かにねー。全然意識していなかったわ。ふはは。でも無意識に重ねていたのかもね」
「すごいロマンチックって言ったら違うかもしれないですけど、なんていうか壮大な恋をしていたんですね」
「ロマンチックに語ったからね。魔法って。ふはは」
「僕の等身大のパネルの下り忘れてください。こんな壮大な恋を聞かされるとなんか凄い恥ずかしいっていうか。馬鹿な質問だったな」
「ふはは。一瞬気まずかったよね。なんも言わなくなるんだもん」
「まだ冗談っぽく言われるなら良かったのに、まさか並ばないってマジなトーンで言われるとは思ってなかったですから」
「あたしは、現実的なの」
そう言って視線を落とした牧田先生が今、何を考えているのだろか。久し振りに掘り起こした異国の彼のことだろうか。牧田先生の思いを計ろうと視線の先をなぞるとその先に、蓋越しに、鮮やかな緑の液体がある。メロンソーダだ。牧田先生はストローでクルクルと掻き混ぜた。それに従いクルクル回るメロンソーダ。牧田先生と視線が合った。
「あたしは今のように二人で、映画行けたらそれでいいな」
「え?」
…ズズズ。
「あ!」
「ふふ。飲んじゃった」
「ねえ、僕のことイジってますよね?」
「さあ。どうでしょう?ふふ。あ、映画始まる。行きましょ」
映画好きな牧田先生。楽しそうにスクリーンへ向かう牧田先生。ああ、確かにこんな時間がこれからもあればいいなと、牧田先生の華奢な背中に思った。
「牧田先生!飲み物いりません?」
「あ・・・」
空になったコップを少し見つめ、そして満面の笑みをこちらに寄こしてきた。
「メロンソーダでいいです?」
「やったー。ありがとう」
子供のようにはしゃぐ牧田先生。うん。この距離でいい。この時間は守りたい。何かに対しての期待を覆うように、そう願った。
気持ちは寄せては返す波のように動き、波は浜辺の砂を浚うその範囲を徐々に大きくしていく。
「あの女の子は結局誰だったんだろうね?」
「ねー。なんか時間軸とかも途中から分からんくなった」
爽やかな青春映画で役者の演技も台詞も自然でその雰囲気が、平安と安らぎを与えてくれてジャンルとしては好きな映画だった。途中までは。途中から仲良くしていた少女が消えたり、過去と現在が混在するようにストーリがー進んでいき追いつけなくなった。色んな伏線があってきっと、もう一度観たら繋がりを発見してこの映画に対しての理解を深めることができるだろう。この映画を理解したいと思った僕は、スマホで調べようとした。
「ちょっと、スマホで調べようとしてない?」
「そうだけど、なんかこれだってもんがでてこないな」
「しっかくー」
「え?」
「あの感じの終わり方をさせたってことは、作り手が視聴者に想像を求めているのよ。後はご自由に想像して下さいって」
「それモヤモヤするな」
「作り手の特権ね。でも想像するのが楽しくない?どうせ観る人の価値観や経験、状況でそれぞれ受取り方違ってくるんだし」
「まあ、そうだけど。じゃあ、牧田先生はどう思います?あの消えた少女の正体」
「私は、少女は少女なんだけど、時間軸に仕掛けがあるような気がするのよね。始まりと終わり一緒のシーンに見えなかった?」
「ああ、確かにそれは思いましたね」
「そう。つまり始まりのシーンは実は少女が消えた何年か後のシーンなのよ」
牧田先生は、探偵のような物言いで活き活きと推察を述べている。
「そうだとしたらまた再会するってことが考えられますね」
「そうなの」
「うわっ、そう考えたら嬉しいな。また会えるんだあの二人」
「でしょ。でしょ」
確かに想像して他の人の感想や意見を聞くのは楽しいと思った。二人で興奮して共感したことによって、さらに距離を近づけたような気がする。
「ハル君は?どう思った?」
そう話を振られるが、牧田先生の見解がハッピーで盛り上がったのでそれ以外の見解が言いづらい。んーとか、あーとか言い淀んでいると「何か思ったはずよ」と促された。
「まあ、あるっちゃあるんですけど・・・」
「なになに?」
「笑わないでくださいね」
「うん。笑わない」
そう言ったそばから、牧田先生の目は笑いそうになっている。
「ちょっと、もう笑ってるじゃないですか」
「ふふ。だって笑わないでくださいねってフリをするんだもん」
「フリじゃないですよ」
「構えちゃったら、余計に可笑しくなってくるのよ」
「年末の番組出演したら、お尻叩かれまくるタイプですね」
「ああ、もうそうだと思う。絶対あんなの笑っちゃう」
「妖精・・・」
「え?」
「妖精だと思ったんです」
「妖精?」
唐突の妖精に、きょとんと牧田先生がこちらを見ている。
「あの少女は公園の妖精・・・みたいな」
こんな感想は、幼稚のようで恥ずかしい。声に出すとさらに幼稚のように思え、言ったそばから後悔した。もうこんな低レベルな感想では、牧田先生も物足りなくて今後映画に誘われなくなるのではと不安が襲う。
「妖精・・・。ふはははは」
牧田先生は、急に笑い出し僕の背中をバンバン叩いた。
「凄い。素敵です。ハル君はメルヘンですね。妖精だなんて。やっぱ面白いな二人映画は」
楽しそうにしている牧田先生に安心した。馬鹿にされているのかもしれないが。
「でもやっぱまた会って欲しいです。あの二人」
「そうねー」
「だから、牧田先生の見解に僕は乗っかります」
「ふふ。妖精っていうの私、好きだけどな」
「いや、何も考えずに直感で思ったこと言っただけなんで忘れてください」
「なんで?いいじゃない。妖精。ふふ」
「やっぱイジッててます?」
「まさか。ふははは」
よく笑う牧田先生。その笑顔が与えてくれる感情を、表現や感性に長けた芸術家や作家が絵や曲、詩に表したなら後世に残り続ける名画、名曲、名作になるだろう。
「牧田先生。これからどうします?車で来たんですけどもしよかったら送りますよ」
「ほんと?お言葉に甘えちゃおうかしら」
「全然大丈夫ですよ。車屋上に止めてあります」
「じゃあ、あそこから出て屋上に出ましょ」
屋上に出ると暗い場所にいたせいで、もう日が落ちかけている時分だったが眩しくて目を細めた。
「凄い。夕日が綺麗」
そう言った牧田先生の夕日に染まった横顔を見つめていた。
「確かに綺麗だ」
「ねえ、知ってる?」
「なにがですか?」
「ほら、あそこ!」
牧田先生が、勢いよく指差した方向を眺めて見る。オレンジに染まった空が広がっている。
「あそこに町があるの分かる?港町」
「港町?」
「そう。雲が陸で雲の無い所が海で・・・」
「あ!」
「ね?見えた?」
「見えた。ほんとだ。港町だ」
夕陽に染まった雲と空の濃淡で港町が出来ていた。確かに黒く陰る雲が陸で、雲の無いオレンジに染まった空は夕陽に染まる海に見えた。
「でしょ!ずっと一人で思ってたの。いつか誰かに伝えたくて。分かってくれて嬉しい」
「凄い。よく見つけたね」
「名も無い港町」
「夕陽の時間しか現れない幻の名も無い港町」
「ふふ。なんかRPGみたいね」
「そこらの町人に話しかけたらその港町に行くヒント貰えるかも」
「ふふふ。じゃあ、あそこの子連れのお父さんの前に行くからAボタン押して」
「ははは。よっしゃ。自分結構完璧主義者だから、町人全員に話しかけないと気が済まないから宜しくね」
「ちょっと」
「冗談。でも綺麗だった。空に浮かぶ名も無き港町。教えてくれてありがとう」
「ううん。分かってくれてあたしもすっきりしたから」
牧田先生は、オレンジの満面の笑みを見せてから体ごと名も無き港町が浮かぶ空の方へ向いた。牧田先生の視線に何故だか胸騒ぎを覚えつい、声をかけてしまった。
「牧田先生?」
「ん?なあに?」
微笑を浮かべた顔をこちらに向けてくれた。
「あ、いや・・・」
「えーーー、ただ呼んだだけってやつ?随分、懐かしいことするのね」
「あ、いや違います。違います」
「ふふ。冗談よ。どうしたの?」
「あ、いやなんかあまりにも真剣に見つめていたから、なんか本当に行ってしまう気がして・・・」
「やっぱり和山君はメルヘンね。ふふ」
「ちょっと、また」
「いいじゃない。あたしは好きよ。メルヘンチック」
そこでまた、夕陽の空に視線を戻した。
「なんか素直に、喜べないんですけど」
「行ってみたいわね。あんな夕陽の綺麗な港町」
オレンジに染まる牧田先生の横顔。
「連れてってくれる?」
不意に牧田先生がそう呟いた。そして、こちらを向いた牧田先生。何か覚悟をもった表情に、一瞬気圧されるのを感じた。
「じゃあ、あそこのポップコーンン持ってるおじさんに話しかけないと」
「ちょっと」
そこで破顔した牧田先生に、何故か安堵している。
「今日は楽しかった。付き合ってくれてありがとう」
「ううん。こちらこそ。じゃあ、帰りますか」
「そうね」
車まで歩く二人に、会話はもうなかった。