君へのメッセージ〜はるかなる思い〜
こんにちは。こんばんはかな? おはようございますかな?
今日も十枚の短編ですが、お読みいただければと思います。
動物園の園内はどこか非日常的で好きだった。まさか街でライオンやキリンを見ることはないだろう。だから園内で見られるライオンやキリンや白熊といった動物は貴重だった。
君はチンパンジーに勝手に「次郎」と名前をつけて。あは。
「じゃあ、太郎は?」
って僕が聞くと、
「そこはフィクションじゃん」
って、普段は使わない関東弁で答えたね。
僕は君の笑った時にできる笑窪が好きだった。そうして、その窪んだ穴に指を突っ込んで上目遣いで見てくる、その視線にやられた。
君が一番好きなものはイチゴだっていうからイチゴの美味しいカフェへ連れて行ったら、「本当は焼肉が良かった」
って急に肉食っぽいことを言ったね。
それなら最初から焼肉にすれば良かったけれど、僕は二回目のデートの確約ができたと思って随分と嬉しかったのを覚えている。
君はどう思っているかわからないけれど、僕は君のことが心底好きだった。
君は僕のどこに惚れたんだい? って言っても答えるわけないか。写真たての中の君の笑顔は動かないもんね。
君が亡くなって三年。やっぱりいくら年月が過ぎても忘れられないもんだね。
月命日にはいつもイチゴを嫌味っぽく仏壇に供えているよ。
ほら、覚えてる?
あの歌。なんだっけ。僕は思い出せないよ。そのうちまた思い出すね。
君と出会ってから三回ほど行った動物園に今日行ってきたんだ。
もちろん、「次郎」にも会ってきたよ。次郎は元気だったよ。チンパンジーの方が長生きなんて、皮肉だよね。
でも、案内表示板を見ると「次郎」ではなくて「ポッポ」だったよ。ポッポくんか、ポッポちゃんかはわからないけど、君が「次郎」と名付けたからきっと男の子だとは思うけど。
今ね、言葉が流れるように浮かんで来るんだ。それは君の動かない写真を見ているとね、あの日の君の笑窪が見えるんだ。確かに写真は笑窪は見られないよ。でも、見えるんだ。
夢があったね。看護師になりたい、って。でもその夢も叶わなかったね。看護学校までは通ってたから、半分は叶ったと思っていいのかな。
君がナースだったら、どんなに良かっただろうって今もつくづく思うんだよ。
なんてたって優しかったから。バスではお年寄りに絶対席を譲ってたし、子供にも笑顔で。その笑顔が真顔の写真からは見られない。
そもそも、君は写真を撮るときはほとんど真顔だったね。
薬指にできた日焼けの跡で、なんとなく気づいたんだ。別れを。
ハンカチに包んだ指輪を差し出し、「別れてほしい」と動いた唇。
「嫌いなわけじゃない」ってなんだかずるいよ。
僕より夢を選んだ君を心の底から応援していた。二人で行った古都奈良の大仏、二人で撮ったチェキ。
いつも真顔の君が初めて笑った。
僕は思ったんだ。君が僕と別れて、東京で看護師を目指す、って。何も東京に行かなくても大阪でもいいじゃないか、って思ったよ。
そりゃ誰だって思うよ。でも君は違った。
東京に憧れを持っていたもんね。仕方ないか、君ぐらいの年恰好の女のコなら、誰だって大都会に憧れるしね。
君の夢のためなら、別れることも一つの優しさかなって思った。
最後、君は最後まで真顔だった。涙ひとつも見せなかった。
でも知ってる。君の親友の谷口さんから聞いた。
君は僕と別れたくなかった、って言ってたことを。それはいいんだけど、それより気になったのは、彼女の前で大粒の涙をこぼして泣いたってこと。意外だった。強がりだったんだね。
もっと僕に甘えて欲しかったよ。何のための僕なのさ。
そんな僕だから君は僕の前では泣けない、っていうことも谷口さんから聞いた。
結局、僕はいつも君の気持ちは汲んで取れなかった。
ねえ、また焼肉食べに行こうよ。少し、あと40年ぐらいかな、待っててよ。そっちへ行くから。
他の男と付き合うなんて信じないからね。
だって、谷口さんも言ってた。僕と別れてからは男性とはお付き合いしなかったってこと。
僕は切なかった。
君はどこまで優しいんだ、って。
だから黒い縁取りの報らせが届いたとき、僕は君を憐れんだ。
最期は君は交通事故で死んだことを知った。
病気とかならまだ諦めがつくけれど、いや、それも若すぎるから諦められないけれど、交通事故って。しかも相手の飲酒運転。
僕の怒りはどこへぶつければいいのかわからなかった。
薄れていく意識の中で、君は僕の名前を呟いたと、東京で親しくしていた看護学校の仲間から聞いた。
もっと君を引き止めれば良かった。悔いた。自分が悔しかった。
写真を見ると君のいつもの真一文字に結んだ真顔が懐かしく思えるんだよ。
今日もごめん、イチゴを持ってきた。最近はイチゴはいつのシーズンでも手に入るんだ。 本来なら、ビールでもお供えしようかと思ったんだけど、未成年で亡くなった君にはコーラで我慢してもらうよ。
ごめん。やっぱり僕は君が好きだ。
今日、動物園で君に似た後ろ姿の女のコを見かけたんだ。まさかとは思うけど、まさか、君が来ていた、なんてことはないか。
君と見紛うばかりに似ていたよ。
僕は嘘が嫌いだから、本音を言う。
好きだ!
本当に、心の底から好きだ。
そして、僕は君を、君を愛し続ける。
そう決めたんだ。
一生独身でもいいよ。
「東京へはもう何度も行きましたね」
今聴いてるラジオから流れてきたよ。君に会いたい。
明日、僕は東京へ行きます。どこかおすすめの場所はありますか?
東京も大阪も随分と様変わりをして、どこに何があるか、もうわかりません。
君の微笑みがまどろっこしいほどに僕を苦しめるんだ。だって、君は滅多に笑わなかったから。
さよなら、を言いには行かないよ。まだ、僕の中では君とのラブストーリー第2章が始まったばかりだからね。
この三年間は時間が止まったようだよ。
でも、今日また動き出した。
第2章。
どんな物語になるんだろうね。僕だって楽しみだよ。
シンデレラみたいなドレスを着た君がウェディングロードを歩いている。僕は君のお父さんからバトンを受けると君と神父さんに向かって誓いの言葉をいい、そっとベールを捲って、キスをした。
そういえば、ファーストキスっていつだっけ?
初めての動物園の帰りじゃなかったかな。
そう、思い出して、そこも実は今日行ってきたんだ。
細い路地の電信柱。今もそこは当時のまま残っていたよ。
そうそう、君が好きだったあべのハルカスにものぼってきたよ。屋上までは行かなかったけどね。
56階のレストランでランチ食べたの覚えてる?
絶景だったね、名前もZKだったよね。
僕はね、あそこで飲んだコーヒーが今まで飲んだ中で一番美味しいと思ったんだ。
あいにく雨だったけどね。
僕と君がデートする日は雨の日が多かったね。相合傘でよく二人で出かけたね。
「また雨ね」
「そういえば」
「え? 総入れ歯?」
「違うよ、そういえば」
って君はよく聞き間違えたね。
滑舌の悪い僕に、君の聞き間違い。よくあったね。
この前、お笑い芸人がテレビで、
「デパートで『ショートケーキありますか?』って聞いたら、『消毒液は薬局です、って言われたよ』」っていうネタをやってたけど、君ならやりかねない間違いだね。
そんな思い出話をしていたら、もう原稿用紙十枚になったよ。
寂しいな、君とはここでお別れだね。
いつまでも元気で向こうで暮らしてね。
また、来月、イチゴとコーラを持ってくるからさ。お母さんにはもう僕が来た時にお寿司は取ってくれなくていい、って言ってね。 じゃあね。
最後までお読みいただきありがとうございました。




