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日常

何気ない日常を切り取った小説です。これを小説と呼べるのかわかりませんが。

 しゃしゃり出んとばかりに道にはみ出た自販機。

 社内販売の定食ばかりに飽き飽きしている食べ盛りのボク。たまには他の飯でも食ってやりたい。そう思い、会社の出口、まあ入り口も一緒だけど、そこを出る。やっぱりしゃしゃり出ている赤い自販機とその隣の青い自販機。色だけでメーカーがどこかわかる。一つは赤に白い筆記体の炭酸飲料会社。もう一つは外人のおじさんがパイプをくわえた、たまにその顔の入ったジャンパーを街で見かける珈琲の会社。

 オフィスの休憩タイムには、このどちらかの自販機でコーヒーもしくはお茶を買う。でも、昼だけは違う。我が社を目当てにその自販機の隣に緑の幌の軽自動車を沿道に停め、ワゴンで弁当を売りにくるおばちゃん。弁当は全部で七種類。一つ五百円のが三種類、一つ四百円が四種類。メインのおかずが、幕の内、鮭、からあげ、ハンバーグ、チキン南蛮、エビフライ、あと一つは日替わり。今日は遅めの昼食なので、四百円の弁当はほぼ売り切れだったが、からあげ弁当だけかろうじて一つ残っていたので、それを頼み、ついでに二十円ケチるために、自販機ではなく、この店のお茶を百円で買う。冷えてない。二百メートルほど歩けばオール百円の自販機があるが、そこまで行くのが面倒で、あえて冷えてないお茶で我慢する。それに冬は冷えてないほうが丁度いい、というのは自分への言い聞かせだが。

 会社に戻ってデスクに弁当を広げる。プラスチックのフタについた米粒を、いかにも安物の割り箸で一粒一粒拾う。割り箸が安物だからいつもうまくチョップスティック! っていう具合には割れたことがなく、ほぼ九割の確率で右が「7」で、左が「1」みたいな形になる。逆は滅多にないから不思議だ。からあげは三つ入っている。その三つのうちだいたい一つは大きいがあとの二つは小さい。それに合成着色料つけました! っていうぐらいあり得ないピンク色をした漬け物がスパゲッティの上に乗っ掛かっている。そのスパゲッティをピンク色に染めるぐらいだから、お前、どれだけ? って言いたくなる。そしてどこでそんな技術を磨いた、ってぐらいの細っそーいキャベツが、どこかのトンカツのキャベツ無料食べ放題とは比べ物にならないほどちょびっとだけ、からあげの敷き布団になっている。で、入ってるのをちゃんと確認すると、メインの「からあげ」「漬け物」「スパゲッティ」「キャベツ」。あと赤い赤いウインナーを忘れていた。その五つでご飯がちょっとついて四百円。たまに東京へ出張に行くときに買う新大阪の八角弁当とは比べ物にならないが、まあまあ空腹を満たすには充分だ。

 オフィスでかかっている有線を聞く。部長は大のフォークソング好きなので、部長がいるときはだいたいフォークだ。音楽を聞きながら仕事なんて気楽な会社だ。部長がいないときはチャンネルというのかダイヤルというのか、その主導権が課長にうつる。普通、次長の方が上なのだが、次長の方が課長よりも三つ若くて、年上の課長の方が幅を利かせている。入社も課長の方が先だ。でも、待てよ、部長は課長よりも一つ下だ。よくわからないが、出版社の編集長をしていて引き抜きで我が社へ来たらしい。「我が社」とボクも気楽に呼んでいるけど、イマイチ何の会社か理解していない。とりあえず、名前だけは、「株式会社ブロンドマインド」という。が、この社名、イマイチ理解してない。というのも、入社して二週間で社名が「株式会社ネース」からこのブロンドなんちゃら、に変わってしまったのだ。とりあえず、売れ、というから、パンフレットにある商材を売ってきた。そして、売りに売って成績は新入社員ではトップクラスに入っている。毎月配られる社内報に成績優秀者として名前が載るぐらいだ。中学の模擬試験ですら名前が載ったことがないボクが、成績優秀者として載るのだから悪い気はしない。

 その我が社におけるボクの強い味方が、三好係長だ。部長、課長、次長(なぜかこの序列になってしまう)の次の権力者が三好係長だ。三好係長は常に成績優秀で、この会社の期待の星。まさしくボクら新入社員にとってはスター。三好係長、格好良くて、いや、見た目がとかではない、生き様だ。常に「俺には会社をどうしてもやめられん理由があるねん」というのが、口癖だ。屹度、大きな夢を持っているに違いない。将来、独立して起業するとか、海外進出、あるいは何かそれ以上のボクには想像も出来ないほどの得体の知れない何かでっかいことをやってみせる、そんな意気込みを常日頃から感じている。

 デスクで深く腰をかけてお茶を飲んでいると、切れ長の目が男のボクにもドキッとさせる憧れの三好係長が声をかけてきた。

「どないや、正田、契約取れてるか」

 ボクはドギマギしながら、はい、と答えた。

「そうか、正田、お前も”億”動かすぐらいの仕事せえよ」

 三好係長の言葉は重い。億単位の仕事をしているのだ。そう言えばこの前も大型ショッピングモール内のカラオケボックスの店舗を全部プロデュースした、っていう話を聞いた。その達成報奨金で海外へ旅行に行った、っていうから、やっぱり憧れだ。ボクも行ったことのない海外へ一度は旅立ってみたい。

 三好係長と世間話というよりは有り難い話を聞いていると、時間はすでに一時五分前になっていた。昼休憩を取り終えると、ボクはプラスチックの容器を「プラ」と書かれたゴミ箱に、箸を袋に入れて「普通ゴミ」と書かれたゴミ箱に、そして最後に「缶・ペットボトル」と書かれたゴミ箱にそれぞれ捨てて、デスクの横の営業かばんを肩にかけてオフィスをあとにした。

「○」快晴。天気記号通りの空イチメンまったく雲のない青空。青い雲、それは君が見た光。なんだか連凧が上がって線香の薫りでもしてきそうなぐらいの青空だ。会社を出て駅まで続く商店街を少し歩いただけで冬なのにじっとりと汗が出て来る。逆にそれが途中の商店街を遮断する信号で止まると、じめっとみぞおちあたりに集まってきて、綿の下着を濡らして気持ち悪い。コートを脱ぐまでもないので、コートの襟を掴んでパタパタと風を首筋に送る。それでも流れる汗。信号が青に変わって渡る。潰れかけのCDショップが見えて、潰れかけの電気屋が見える。そして潰れそうもない大きな家電量販店の二号館が見える。ここが潰れたらこの商店街の店は全部潰れるだろう。というよりはこの量販店のおかげで商店街も何とか生き残っているようなものだ。それを明るく証すかのようにライバル店が潰れた。ライバルといっても、たいしてライバルにもなってはいなかったが。赤い店だ。つまり青い店が残った。自販機にしろ、家電量販店にしろ、なにかと赤い会社と青い会社がライバルになることが多い。たまに緑色が入ったりする。自販機で言えばお茶の会社。ボクはX JAPANが好きなのだが、そこにもよく「青」と「赤」が登場する。「赤い手首を抱きしめて泣いた夜を終わらせて」とか「青い唇に」とか。あと、童話の桃太郎にも出て来る青鬼と赤鬼。何にしろ、白黒、赤青とは対称的に使われる。白黒つける相撲でさえも、朝青龍に朝赤龍といった具合だ。そう考えながら街を歩くと意外と楽しい。街の看板を見て、色をチェックしていくだけでも、面白いのだ。ボクは色と音が好きなんだ。あと、おっぱいと脚と。とりわけ色が好きで、色んな色を他の言葉に置き換えるのが好きで、そうすると時間が経つのが早く感じるからだ。あと音に変換する場合もある。かといって絶対音感があるわけではない。

 そんなことを考えているうちに駅に着いた。ターミナルステーションの一番南の七番出入り口だ。オレンジ色の券売機で表がピンクで裏が茶褐色の切符を買う。小学校のときに近所のガキ大将が子ども会の遠足で電車に乗る度遊んだゲームというか、遊びがいまだに癖になっている。下の四桁の数字を逆にしても読める数字がいくつあるかだ。やっぱり切符を買う度に見てしまう。今日は「6691」だ。逆さにすると「9961」、全部読める。「ホームランだ!」ボクは思わず心の中で叫ぶ。何がうれしいのか。逆さにしても読める数字が一つだとヒット、二つだと二塁打、三つだと三塁打、全部読めるとホームランとなる。二人以上いると、誰が一番ヒットが多いかで勝負になるのだが、一人だと、ただ単にうれしい、だけで終わってしまう。そう、そのホームランの切符を大事に財布にしまうと、眠気が、営業特権の昼寝タイムへとボクを誘う。ボクは一度切符をなくして、そのときは許してもらったが、それ以来は財布に入れてなくさないように気をつけているのだ。そして眠りにつく。

 二駅目。急行が停まる駅で、試験終わりの女子高生集団が次の普通電車を待つ。この駅が最寄り駅の女子高生は市内から通うコが多いので滅多と急行には乗り込んで来ない。そう思って深く眠りについた。が、すぐに目を覚ました。とくに他意はない。たまたま目が覚めた。深い眠りとはいえ案外昼寝というのは浅いものだ。そんな期待を大きく裏切るのか、薄目を開けたボクの目にアイドルと見紛うばかりの可愛い女子高生が乗り込んで来た。

 ボクは勝手に奈津子ちゃんと名付けた。なんとなく肌の色が夏みかん色をしていたからだ。なんでも色に変換すると言ったボクでも見た目で決める場合もある。安直なもんで。その奈津子ちゃんがボクの隣に座ったのだ。無論、もう一人おまけはついてきたのだが。そうしてやっぱりボクは睡魔という、疲れとストレスを吹き飛ばしてくれる文字通り眠りの魔法にかかってしまう。

 ウトウトしているうちに、ネチョネチョとよだれがツターっと右の唇からこぼれ落ちるのがその温もりで気付いたのでそっと人差し指で唇に戻した。よだれの恥ずかしさで目が覚めたので、しばらくその奈津子ちゃんとおまけの二人組の会話を音楽プレーヤーのボリュームを落として聞く。別に盗み聞きではない。

 自然と耳が奈津子ちゃんの方に傾く。

「なあ、大学どこにする?」

 奈津子ちゃんが、ブス、あ、ごめん、おまけの方に聞く。

「そうやなあ、国立は絶対ムリやからK大ぐらいかな」

 おまけが答えると、奈津子ちゃんはウンウンと頷く。

 その度に多分、オレンジ色のボトルのシャンプーの香りがクンクン薫る。

 ボクのハートはドキドキ100度C。沸点に達した。

 次に停まった駅でおまけが降りた。奈津子ちゃんはおまけに手を振るとそのまま眠りについてしまった。後ろから照りつける太陽がボクと奈津子ちゃんの影を一つにくっつけるように、奈津子ちゃんはボクの肩に寄りかかってきてピタっとくっついた。ラッキー、とは本当にラッキーなときはそんなこと思う余裕もないものだ。



最後までお読みいただきありがとうございました。

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