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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

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File5-8「異形の魔物たち」

「アリス、後方支援員の指揮を頼む。アラタ管理官、ツナギ管理官、俺たちで前衛を担うぞ!」

「了解!」

 大剣を構えたヒューズの号令に、即座にアラタとツナギは前に出た。

「管理官権限執行、物理・魔法攻撃反射。それと、能力向上!」

 アリスが即座に全員に補助魔法をかける。

「カイ、オギナ管理官とキエラ管理官の護衛を。サテナ、我々で戦線維持を行うぞ!」

「了解!」

「はいは~い。管理官権限執行、風刃!」

 サテナの掲げた長杖から無数の風の刃が放たれる。オギナに迫った異形の魔物が五体ほど、胴を切り裂かれた。続くように、オギナも矢を放つ。オギナの放った矢は異形の魔物の頭を的確に飛ばしていった。オギナと背を合わせる形で、キエラも両手に構えた拳銃で応戦する。

「管理官権限執行、炎爆」

 カイが長杖を手の中で回すと、地面に突き立てた。

 足元から吹き上がった炎がカイとオギナ、キエラを守るように広がり、群がる魔物を消し炭へと変える。

「はぁっ!」

 気合とともに、ツナギの拳が接近する魔物の頭部を砕いた。続いて、アラタが地を蹴り、ツナギに群がる三体の魔物を両手の双剣で刻む。

「管理官権限執行、衝撃付与!」

 ヒューズの手にした大剣に風が渦を巻く。大きく薙いだ大剣から放たれた衝撃波が十体近い魔物たちを両断した。

「管理官権限執行、雷帝の怒り!」

 アリスが長杖を掲げると、虚空にいくつもの魔法陣が出現した。

 そこから無数の稲妻が魔物たちへ降り注ぐ。

「あはは、まだまだたくさんいるねー」

「くそっ、ヒューズ! このままだとキリがないぞ!」

 サテナとアリスが互いに背を預けると、同時に長杖を突き出す。


「管理官権限執行、炎渦!」


 二人の放った炎の渦が大きくうねりながら天へと上る。魔物の半数を巻き込みながら燃え上がる炎だったが、魔物たちは怯む様子もない。

「そこだっ!」

 アラタの振るう双剣が、二体の魔物を同時に裂いた。

「ぎぃいぃ……」

 金属を軋ませるような声を上げ、地に伏した魔物へトドメを差そうとした時だった。

 ふわりと小さな光がアラタの横顔を掠めた。アラタは咄嗟に振り上げた双剣を止める。目を見開くアラタの前で、小さな光が魔物に近づく。

「あれは……迷魂?」

 呆然と立ち尽くすアラタを尻目に、迷魂は魔物へ近づくとあろうことか()()()()()()()()()()()()()()()()()

「なっ……!?」

 驚きに声を上げたアラタの前で、胴体を切り裂かれた魔物が咆哮を上げる。

 アラタが見守る中、魔物の身体が急速に再生し、さらには体が大きく膨れ上がっていく。全身からいくつもの角が生え、背の翼や手足が二回りも巨大化した。

「まさか……変異したのか!?」

 魔物の変異を目にしたヒューズが険しい顔で呟く。振り下ろされた爪を、大剣の剣身を盾にして防いだ。

「ああ、なるほどねー。だから異世界シャルタで遭遇した『鬼』も転生者の魂を取り込んでいたのか」

 サテナだけは疑問が解けたことの方が嬉しいようで、場違いなほど明るい声で笑っている。そんなサテナは迫ってきた魔物を、手にした長杖で殴りつけた。

「なぜ迷魂が進んで魔物の中に……」

 言いかけたアラタは言葉を切った。ツナギの言葉を思い出したからだ。

 迷魂の核となる感情は、神々への不信。

 世界や神々に対して絶望を抱いた魂が、神々や世界を拒絶しているというのなら、その憎むべき神々を支援する立場にある異世界間仲介管理院の管理官もまた、彼らにとっては「敵」でしかない。

 変異した魔物が真っ直ぐアラタに向かってくる。アラタは振り下ろされた爪を双剣で受け止める。先程以上に強い腕力で、アラタは大きく後ろへ押された。

「くそっ……押し負ける!」

 悲鳴を上げる両腕に顔を歪め、アラタは叫んだ。

「管理官権限執行、炎舞!」

 アラタの双剣の剣身を炎が覆う。アラタの炎が変異種の魔物の手を焼いた。距離をとった魔物を前に、アラタも体勢を立て直して双剣を構える。

「長年、迷魂を放置してきた報いが、こんな形で降りかかってくるとはね!」

 オギナの放った矢が、変異種の魔物の肌を掠める。しかし、矢は魔物の皮膚を僅かに裂いた程度で、あっさり弾かれてしまった。そのわずかにつけた傷もすぐに修復されてしまう。

「どうすればいいんだ……」

 アラタはギリッと歯噛みする。アラタが見守る中、迷魂たちは続々と異形の魔物の中へ取り込まれていく。迷魂たちの示した「敵意」に、アラタは悔しさに目を伏せた。

 冷静に……俺は「管理官」だ。

 アラタは胸の内で呟く。

 小さく息を吐き出すと、アラタは目を開けて真っ直ぐ魔物を見据えた。

 肉薄してきた魔物の腕を、アラタの右手の剣が切り飛ばす。

「管理官として、俺が成すべきこと……この世界や神々の秩序を、決して破壊させはしない! そのためにも、お前たちの存在を野放しにはできない!」

 キッと魔物を睨み据え、アラタは左手の剣で魔物の首を飛ばした。

「よく言った、アラタ管理官!」

 ヒューズは大剣を振るい、魔物の振り下ろしてきた鋭い爪をはじいた。

「アリス、使用権限の上限を引き上げる。術式を構築しろ!」

 ヒューズが異形の魔物を両断するなり叫んだ。

「っ!? いいんだな、ヒューズ?」

 ヒューズの指示に、アリスは険しい顔で彼を見つめる。

 アリスの視線を受けたヒューズは迷わず頷いた。

「わかった。サテナ、戦線維持を任せる」

「はいは~い。ド派手なのよろしくね、副隊長!」

 サテナは笑顔で請け負うと、手の中の長杖を掲げた。

「管理官権限執行、空間隔離、氷刃、風神の来訪!」

 同時に三つの管理官権限を執行した。

 アリスを守るように結界を構築した後、虚空に生み出した氷の刃を暴れる竜巻に乗せて魔物の群れへ叩き込む。

 変異した魔物の強靭な肉体を持ってしても細かな氷の刃が全身を刻んできてはひとたまりもない。十体近い魔物は、自己再生が間に合わず、その肉体を塵へと帰した。

「アラタ管理官、我々でアリス管理官を援護する」

「了解です!」

 ツナギとともに、アラタは術式の構築を開始したアリスを守るように陣形を組んだ。アラタはアリスに群がる魔物の爪を右手の剣で払い、左手の剣を突き出して胸を抉る。

「管理官権限執行、地柱槍」

 ツナギが右手で地面を殴ると、そこから無数の槍が魔物の身体を貫く。

「管理官権限執行、風刃」

 アラタは無数の風の刃を放ち、牙を向けた魔物の頭を潰した。

 そこでアリスから声が上がった。

「総員、結界を張れ!」

 アリスの叫びに、皆が一斉に管理官権限を執行する。

「管理官権限執行、守護結界!」

 アラタたち全員の身体が透明な壁に包まれる。

 その様子を見届けると、アリスが長杖を掲げた。


「管理官権限執行、黒滅魂!」


 アリスの長杖の先で空間が揺らぎ、裂けた。その穴へ魔物たちが吸い込まれていく。周囲に漂っていた迷魂すらも巻き込んで、塵も残さず魔物たちを吸い込んだ空間の裂け目は、役目を終えるとパタリとその穴を閉ざした。

 ふらりとアリスの身体が傾く。

 ヒューズが素早くアリスの背に腕を回し、倒れる彼女を支えた。

「よくやった、アリス!」

「さすがに……疲れた」

 攻撃対象の魂そのものを消滅させる管理官権限は、執行者に多大な負担をかける。通常ならば複数人で行う術式を、アリスはたった一人で即座に構築させて執行した。並みの管理官では成し得ない芸当だった。

「アリス管理官の実力は本物だね、アラタ……アラタ?」

 オギナは返事のない友人を振り返る。

 アラタは双剣を手にしたまま、虚空を見つめていた。その双眸は鋭く、虚空の先に隠されたものを見極めようとしているかのようだった。

「アラタ、どうかしたの?」

「あ、あぁ……悪い」

 オギナに声をかけられ、アラタは双剣を鞘へと戻した。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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