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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

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File5-4「追跡任務」

「道」を抜け、赤く焼けた大地と抜けるような青空の間を駆けた。

 滑らかな黒い車体を水平に保ちながら、アラタは軽く息をつく。

 地面がむき出しの岩山が地上に濃い影を落とし、アラタたちがまたがる魔動二輪の影を映していた。

「やっぱ魔動(まどう)二輪(にりん)は最高だね~っ!」

「おい、サテナ管理官! 大人しく座っていろ! 落とすぞ!」

 両腕を左右に広げ、はしゃいだ様子のサテナに、運転しているカイが怒鳴った。

 ラセツの執務室を辞した後、今回の任務での移動手段としてアラタたちには四台の大型魔動二輪が割り当てられた。

 魔動二輪とは、異世界間仲介管理院が保有する人工の移動手段であり、二つの車輪を持つ車体に、燃料の魔力石と魔力供給炉による循環で推進力を得る乗り物である。

 魔動二輪の運用方法は、あらかじめ決められた運転手が指輪型の(キー)を指にはめ、共鳴具と自動同期して認証を完了させる必要がある。そこから指輪を通して魔力を供給炉に流し込むことで、内部の魔力石を燃焼させて稼働させる仕組みとなっていた。

 さらに魔動二輪の指輪には収納魔法が刻み込まれており、魔動二輪の魔力供給炉を停止させれば自動的に指輪へ収納されるという優れものだ。

 難点といえば生産・整備に専門的な知識が必要となり、実戦配備台数が百台を少し超えた程度しかないということだろうか。悪戯に台数を増やしても装備部交通手段開発整備課の人員確保が難しく、増産計画は今のところ立っていないのが実情である。そのため防衛部の移動手段は未だ、幻獣がその大半を占めている。

 ただ、今回の任務では、複数の異世界へ探索に赴くこととなる。環境の影響を受けやすい幻獣ではやりづらいだろうと、ラセツが配慮してくれたおかげだ。

 魔動二輪ならば、燃料さえあれば環境の変化に左右されることはない。

 とはいえ、下手な扱いはできなかった。

 貴重な魔動二輪のハンドルを切りながら、アラタは搭載された高度計を確認し、車体の飛行姿勢を維持する。

「もうすぐ、あの『鬼』と接触した場所だね」

 アラタの後ろに乗っているオギナが共鳴具で座標を確認しながら言った。

「降下!」

 先頭を行くヒューズが腕を振って指示した。彼に倣い、後続の三台も続く。

 車輪が地面に着くと、大きく車体が跳ねる。アラタはハンドルを水平に保ち、魔力供給を切った。魔動二輪が減速し、やがて砂埃を巻き上げて止まった。

「この辺りですか?」

 キエラがヒューズの操る魔動二輪から下りると、周囲を見渡した。

 現場はすでに吹き抜ける砂塵によって覆われ、大地に穿たれた穴も周囲の景色と完全に同化してしまっている。吹きさらしの大地では、戦闘の形跡も風化が早かった。

「正直、当時の座標記録がなければ通り過ぎていたぞ」

 アリスが腕を組み、眉間のしわを深めた。

「アルサ管理官の場合はいつも目的地に辿り着けないじゃないですか――痛っ!」

「アリス管理官だろ」

 サテナの言葉に、アリスの蹴りが彼の足を払った。盛大に尻もちをつくサテナに、傍らのカイは素知らぬ顔だ。名前の訂正だけは忘れない辺り、もはや条件反射のようだ。

「キエラ管理官、キトラ管理官はいけそうか?」

「試してみます」

 ヒューズの呼びかけに、キエラは右目を閉じて前髪を掻き上げる。

 左目が開くと、その瞳が細められた。

「ほぅ、これはまた……随分と()()()()()だな、おい」

 キトラが邪魔な前髪を耳にかけ、顎に手を当てる。表情の乏しいキエラの顔が、キトラのときだけ皮肉な笑みを浮かべた。

「綺麗な歪み? キトラ管理官、我々にも理解できるよう解説を願えるか?」

 ツナギの問いかけに、キトラは軽く唸る。

「解説ねぇ……ざっくりした言い方すりゃ、『人工魔王』って感じか?」

 キトラは首の後ろに手をやり、その細めた左目を絶えず虚空に注いでいる。

「おい、そこの新人。そもそも魔王ってのは何か……簡潔に説明しろ」

 唐突にキトラがアラタに人差し指を突きつけ、指名した。

 咄嗟のことにアラタの両肩が跳ねる。

「は、はい。異世界間仲介管理院や神々にとっての『魔王』とは、世界の秩序・安定を歪ませ、破壊する存在を指します。神々や世界がもたらす負の連鎖、例えば戦争や疫病、異常気象による環境の崩壊などにより、そこに住まう人心が歪み、神々への不信による負の感情が凝り固まって具現化したのが『魔王』の始まりだとされています。アヴァリュラスの永獄のように、本来、歪みを正す役目を担う勇者の魂がアヴァリュラス神へ反意を示したことで堕落し、世界を飲み込まんとした事例を受け、異世界間連合は魔王化防止対策を一層強化するようになりました」

「おう、上出来だ」

 キトラの言葉に、アラタは胸を撫でおろした。

「『魔王』ってのは、魂が抱く感情の歪みそのものと言い換えてもいい。神々が己の存在を維持すんのに『信仰』を糧にしてんなら、『魔王』はその逆……不信や恐怖といった負の感情を起源にしてるっつうのは、まぁ少し考えりゃわかるな?」

 その場にいる全員がキトラの言葉に無言で頷く。

「そんで、話は最初の方に戻る。俺が言った綺麗な歪みっつうのは、言わば魔王が魔王たる所以――根幹がねぇっつう意味なんだよ」

「『人工魔王』というのは、負の連鎖を経て歪みを生じたわけではなく、そもそもの歪みを利用して具現化した……そういうことですか?」

「その通りだ、新人その二。理解が早くて助かる」

 キトラは眉間にしわを寄せて首を傾げているアリスに向き直る。

「つまりな、嬢ちゃん。お前さんが接触した『鬼』は魂の歪みによって膨大な力を得たわけじゃなく、純粋な悪意を懲り固めて生み出されたっつうわけよ」

「そんなことが、可能なのか!?」

 キトラの解説でようやく理解したアリスが、声を上げた。

 ヒューズの目が鋭さを増す。

「だからあの『鬼』は、()()()()()()()()()()()()()()()というわけだな」

「そういうこと。言ってしまえば不純物がないゆえに、魔王特有の爆発する力の威力が減退し、神々も脅威として認識することができなかったんだろうよ」

 キトラも真顔で頷く。

「だからあの『鬼』は、自我を維持できたのか」

 カイも納得した様子で呟いた。

「うん? 自我を維持できるってことはさ、自分の意思である程度力を制御して、隠すこともできちゃうんじゃない?」

 首を傾げていたサテナが、ひらめいたと言わんばかりに人差し指を立てた。


「力を制御できちゃうんなら、暴走するような魔王を一体生み出すより、人工魔王の軍勢を量産する方がずっと効率がいいよね!」


 サテナの指摘に、この場に居合わせた全員が凍りついた。

 アラタは言葉を失い、オギナとカイは弾かれたように顔を見合わせている。アリスは顔を青ざめ、口元を手で押さえていた。

「……」

 ヒューズとツナギ、キトラは表情こそ変わらなかったが、互いに視線を交わして黙り込んでいた。

 魔王を量産する。

 もしもサテナがひらめいたこの考えが、現実に起ころうとしているとしたら――


「止めないと」


 アラタは震える唇を動かし、声を絞り出した。

「なんとしても、止めないと……そんな恐ろしいこと、絶対に、許していいはずがない!」

 青ざめた顔のまま、アラタは叫んでいた。

「その通りだ、アラタ管理官」

 ヒューズの落ち着いた声音が、厳然と言った。

「我々の任務が、この世界の未来を変える。皆、気を引き締めてかかるぞ」

「了解!」

 ヒューズの号令に、アラタたちはしっかりと頷いた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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