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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

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File5-2「副隊長のお悩み」

 アラタとオギナが西部基地の第四方陣前にやってくると、青髪に両端の髪を藤色に染めたサテナが振り向いた。

 サテナが表情をやわらげ、アラタたちに手を振ってくる。

「やぁ、ウドン管理官とトロロ管理官! 今日は一緒に任務へ行くんだね!」

()()()管理官と()()()管理官だ。というかそれ、さっき食べた昼食の具材だろ」

 虚空に映し出した画面を睨んでいたカイがサテナの傍らで指摘した。

「昼食、うどんだったんだな……」

「それもトロロのせ、だったみたいだね」

 呆れるアラタの傍らで、オギナは両肩を震わせて必死に笑いをこらえている。

 変なツボに入ったらしい。

 アラタは気を取り直してサテナとカイに向き直った。

「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく。先日は世話になった」

 アラタとカイが軽く挨拶を交わす。

 カイが表示している画面を、アラタは一瞥する。

「本日赴く場所はどの――」

「おっ、全員集まったな!」

 黄丹(おうに)色の髪を両端(サイド)で結び、やや釣り目がちの青い瞳を持った少女――アリスがこちらに歩み寄ってきた。傍らにはご自慢の長杖が付き従うように浮いている。

 アリスは第四方陣を背にすると、アラタたちの前で腕を組んで仁王立ちした。

「今日はヒューズに代わり、この私――第一部隊副隊長のアリスがお前たちの班を指揮する!」

 アリスの言葉に、サテナとカイが整列すると左胸に拳を当てた。

 アラタとオギナも慌てて二人に倣う。

 部下の行動に頷いて応えたアリスは、満足そうな笑みを浮かべている。

「この私がいるからには、危険はない! 大船に乗ったつもりでついてこい!」

 アリスの視線を受け、カイが一歩前に進み出た。

「では、本日の転生者探索範囲について情報を共有する。我々が担当するのが――」

「ああ、まだ出立前でよかった。アリス! すまんが任務内容は変更だ!」

 カイの言葉を遮り、ヒューズが早足でこちらに向かってきた。

 心なしか、その表情が険しい。

 アリスは不機嫌そうな顔で、ヒューズを睨みつける。

「なんだ、ヒューズ? どういうことだ?」

「詳しい話は部長の執務室で話す。アラタ管理官、オギナ管理官……悪いが君たちも一緒に来てくれ」

 ヒューズがアラタとオギナに振り向いた。

「我々も、ですか?」

 戸惑うアラタとオギナに、ヒューズは頷く。

「ラセツ部長からの指示だ。それに、君たちも事情を知っているからな。無論、転生部のセイレン部長からの許可は取ってある。ナゴミ課長がラセツ部長の執務室で君たちを待っているよ」

「……わかりました」

 アラタとオギナは顔を見合わせた。ヒューズに視線を戻すと、二人は同時に頷く。

 アリスは不機嫌そうに頬を大きく膨らませると、ヒューズを睨みつけて地団太を踏んだ。

「せっかくこの私が新人たちにすごいところを見せつける機会(チャンス)だったのにっ!」

「悪かった、悪かった。だが、アリスはそんなことしなくても十分すごいだろう」

 困った顔で笑うヒューズに、アリスはパッと表情を輝かせる。

「本当にそう思うか?」

「当たり前だろ。俺や部隊の全員が頼りにしている」

「でも、きっと新人(こいつ)らは私がチビだから弱そうなんて思っているかもしれないぞ!」

 ビシッと険しい表情のアリスがアラタとオギナを指差した。

 突然話を振られたアラタは大いに慌てる。

「いや、そんなことないですって!」

「そうですよ。私たちは異世界シャルタで副隊長の実力を間近で拝見しています」

 アラタは必死に首を横に振り、オギナも穏やかな笑顔のまま頷いた。

 アリスの主張に、ヒューズは軽くため息をついた。

「新人研修でのこと、まだ根に持っていたのか……」

「当たり前だっ!」

 アリスはその青い瞳を潤ませ、拳を握りしめてヒューズを見上げている。

 かなりの身長差があるせいで、アリスはつま先立ちだ。

 ヒューズはさりげなく上体を屈めてアリスに視線を合わせる。

「確かに私の体は小さいが、だからといって弱くはない! お前らがデカいだけだっ! 馬鹿にすんな! 私は強いし、偉いんだぞ!」

 両腕を振り回して主張するアリスに、ヒューズは何度も頷いている。

「ああ、もちろんだ。アリスは第十部隊にいた頃から次期隊長候補として名が挙げられていたほどの実力者だ。第一部隊の副隊長に抜擢されたのだって、その実力を俺や第十部隊の隊長が保証したからだ。だから機嫌直せって」

 ヒューズが必死にアリスを宥めている様子を見つめながら、アラタは思わずサテナに囁いた。

「あの、新人研修で一体何があったんですか?」

 サテナとカイも何とも言えない表情で唸る。

「あー……ほら、防衛部って武芸や体格的に恵まれた人とかが隊員として選ばれる傾向があるでしょ? 防衛部の任務内容を考慮すると、仕方のないことなんだけどさぁ……」

 サテナも眦を下げて、アリスとヒューズのやり取りを見つめる。

「アザミ管理官の場合、防衛部で採用するには身長が足りなかったらしいんだ。だけど、その身長の低さを弱点とさせないだけの実力があったから、防衛部の上官たちから強い希望があって採用された人なんだよ」

「アザミ管理官じゃなく、アリス管理官だ」

 カイが横から律儀に訂正を入れる。

「それってすごいことじゃないですか!」

 アラタはアリスに尊敬の眼差しを向ける。

 管理官の指名採用(スカウト)というやつは、飛び級合格者よりもさらに稀だ。

 新人の頃からそれだけの実力を備えていたというなら、異世界間防衛軍の統括部隊、その副隊長に任ぜられたことは自然なことと言える。

「でも、まぁ……新人の頃はどうしたって()()()じゃない? 新人の頃は周囲の同僚からかなり馬鹿にされたみたいでさ。それで当の本人は、あの通りの勝気な性格でしょ? 訓練の時に自分を馬鹿にした連中全員を体術でボコボコにやっつけて医療棟送りにしたっていうのは有名な話だよ。それでついたあだ名が『鮮血の武闘支援員』」

「……」

 アラタは顔を引きつらせたまま黙り込んだ。

 カイも小さくため息をつく。

「その後も新人指導の度に、ああして荒れるわけだ。事情を知らない新人管理官からすれば、アリス管理官の第一印象はどうしても『小さい』だからな。アリス管理官も己の背の低さに引け目を感じているのか、自分を見下ろす連中全員が自分を馬鹿にしていると感じてしまうらしい」

 カイはアラタとオギナに振り向くと、少しだけ寂しそうに笑った。

「アリス管理官は私とサテナ管理官の指導教官だったんだ。本当にすごい人なんだよ。あんな風に意地になって周囲に力を見せつけようとするから、子どもっぽい印象までつきまとって損をしているけどな」

「まぁ、とにかく……アダナ管理官の前では大きさの話題は禁句だよ」

「サテナ管理官、アダナ管理官じゃなくてアリス管理官だ」

 カイは額を手で押さえるとため息をついた。

「なんというか……色々、難儀していらっしゃるんですね」

 アラタは複雑な表情で、ヒューズに向けて何やら訴えているアリスを眺めた。

 傍から見ているとヒューズとアリスのやり取りは、だだをこねて癇癪を起す子どもとその保護者の絵面でしかない。

「管理官を見た目だけで判断しちゃいけない。そんなの、養成学校時代に散々学んだだろうにね」

 オギナも笑顔のまま皮肉を落とした。

 周囲からの第一印象と己の中で爆発する不満などが複雑に絡まり合い、やや歪んだ形で劣等感(コンプレックス)を抱く結果になったのだろう。

「ふんっ、つまらない任務だったら許さないからな!」

 腕を組んでそっぽを向いたアリスに、ヒューズは苦笑を浮かべている。

「安心しろ。実力のないヤツに任せられないから、お前たちを呼び止めたんだ」

 このヒューズの一言に、アリスは多少なりとも機嫌を直したようだ。

 得意げに両手を腰に当て、アラタたちの顔を見回す。

「さて、任務が変更になったのなら仕方がない。部長のところへ行くぞ」

「はい!」

 ヒューズとともに歩き出したアリスの後を、アラタたちもついていく。

「でも、任務内容の変更って言うからには、そっちの方が危なかったりするのかなぁ?」

 にこにこと楽しそうに呟くサテナに、アラタも表情を引き締める。

 一体、何が起きたのだろう。

 第四方陣を背に、妙な胸騒ぎを覚えたのであった。

Copyright(C)2021-紅咲いつか

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