表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/204

File4-12「転生者救出」

 何故、健が異世界シャルタにいるのか。

 一瞬脳裏を過った疑問に、アラタはすぐさまタダシの顔を思い浮かべた。

 健を護送したのは、タダシの指揮下にあった部下たちだった。

 本来、健の向かうべき転生(うけいれ)先とは違う場所へ、彼は遺棄された可能性が高い。

 黒い短髪に、青白い顔をした男は、以前封魂監で出会った時とは変わり果てた姿になっていた。あの鋭く尖った目は絶望に満ち、恐怖に強張った顔は鬼を見るなり大きく首を振った。

「た、助け……」

 そのかすれた声に、アラタは双剣の柄を握りしめる。

 アラタの中で自己嫌悪が渦巻く。

 健が護送される際、アラタはすぐ傍にいた。最後まで自分の目で転生者を見送ると言っておきながら、結果的にはタダシたちの悪行をみすみす見逃していたのだ。知らなかったとはいえ、アラタは自分を責めずにはいられなかった。

「なんてことを……」

 健の変わり果てた姿を前に、アラタは頭を振った。

 今は、後悔している場合ではない。

 目の前に、助けを求める(ひと)がいる。そちらの救出が最優先だ。

 許しを請うなら、まずはその相手を助けてからだ。

 アラタは鬼を真っ向から睨み据えた。

「その人を解放しろ!」

 凄むアラタに、鬼は口元の笑みを深めた。

「オ前、コイツヲ知ッテイルノカ?」

 もしや……、と鬼が呟く。


「オ前ガ、『アラタ』トカイウ、管理官ダナ?」


「……残念ながら、違うな」

 アラタは双剣を構えたまま鬼を睨む。

 何故、異世界シャルタの魔物が自分の名を知っているのか。

 アラタは抱いた疑問を顔に出さぬよう、慎重に言葉を選ぶ。

「管理官であるなら、保護対象の転生者の名前を誰もが知っている。今、お前の目の前に立っている俺も、その一人だ」

「ホウ……マァ、連レ帰レバワカルコトダ」

 鬼の手が、健の頭を強く掴んだ。健の喉から絶叫が迸る。すると、見る間に鬼の潰れた片目が元通りに再生する。

「転生者の魂を糧に……傷を修復しているのか!」

 驚愕したアラタは、顔を歪めて歯噛みした。

 第五班の管理官たちが手も足も出せなかった理由がこれか。

 鬼を傷つけるたびに、健の魂を吸収することで傷を修復されてしまっては転生者の魂が壊れてしまう。転生者の魂の損耗が激しくなれば、もはや待ち受けるのは消滅だけだ。

 鬼は再び己の腹の中へ健を押し込んだ。

 腕を引き抜いた後は、傷一つない腹部がある。

 アラタは双剣を手に、混乱する思考を整理する。

「とにかく、健さんと鬼を分離させなければ……っ」

「無駄ダ」

 鬼は足を踏み出すと、耳障りな笑い声で続ける。

「アノ方ヨリ賜ッタ『力』ハ絶対……オ前ガドウコウデキルモノデハナイ」

「あの方? お前に転生者の魂を取り込むことを指示した奴がいるのか……っ!」

 怒りで肩を震わせるアラタに、鬼は挑発的な笑みとともに両腕を広げてみせる。

「ドウシタ? 先程マデノ威勢ハドコヘイッタ? オレガ許セナインダロ? ナラ、ソノゴ自慢ノ双剣デ好キナダケ攻撃スレバイイ」

「ぐっ……」

「来ナイナラ、コチラカラ行クゾ」

 鬼が一気にアラタとの距離を詰めてきた。振り下ろされた拳を避け、鬼から距離を取る。

「管理官権限執行、物理攻撃反射」

 アラタは再び自分の身を保護すると、鬼の回し蹴りを右手の剣で受けた。

 みしりと腕の骨が悲鳴を上げる。痛みに耐え、アラタは叫んだ。

「管理官権限執行、拘束蔓」

 鬼の足元から、光の蔓が生えた。その巨体に光の蔓が絡みつく。

「邪魔ダ」

 鬼は気合とともに光の蔓を引きちぎった。光の蔓はあっさり霧散する。

「くそっ」

 足止めの管理官権限ではとても押さえきれない。


「管理官権限執行、光矢!」


 頭上から鬼に向けて無数の光の矢が降り注ぐ。アラタは反射的に仰ぎ見た。

 天馬の上から弓を構え、鬼に狙いを定めているオギナの姿があった。

「オギナ、攻撃するな! こいつは転生者を取り込んでいる!」

 アラタは即座に叫んだ。振り下ろされた鬼の拳を両手の剣身で受け止める。

「転生者を取り込んで……?」

 オギナは構えていた弓を下ろした。

「だから第五班の皆さんが反撃できなかったわけですね」

 一緒にいたジツも倒れた仲間を見て歯噛みした。

「オギナ管理官、ジツ管理官、二人は負傷者の手当てに回ってくれ」

 ヒューズが静かな声音で命じると、天馬から飛び降りた。

 ツナギも地上に降り立つなり、鬼に向けて駆け出す。

「アラタ管理官、攻撃系の権限執行を」

「ツナギ管理官、何を――」


「大丈夫だ、アラタ管理官」


 困惑するアラタに、ヒューズが微笑んだ。

 その揺るぎない瞳に、アラタは小さく頷く。

「はぁああぁっ!」

 鬼へと肉薄したツナギが、固めた拳をその顔面へと叩き込む。

 吹っ飛ぶ鬼に、アラタは剣先を向けた。

「管理官権限執行、風刃!」

 アラタの管理官権限で風の刃を生み出す。アラタが放った風の刃が鬼の身体に無数の裂傷を刻んだ。しかし、どれも浅い。致命傷には程遠い結果に、アラタは舌打ちした。

「何度ヤッテモ無駄ダ。コノ身体ハスグニ再生スル」

 鬼が笑い、その皮膚に刻まれた傷が消えていく。

 その回復力に健の魂が使われているのだと思うと、アラタの焦りは募っていった。

「ふむ、そういうことか」

 目に魔力を集めて一部始終を眺めていたヒューズがそっと頷いた。

 不敵な笑みを浮かべるヒューズに、鬼は目を細める。

「何ガワカッタノカ知ランガ、チョロチョロサレテハ面倒ダ。オ前ラハコイツラト遊ンデイロ」

 鬼の足が己の足元を蹴った。鬼の影がざわざわとうごめく。やがて、鬼の影から二体、同じ鬼が姿を現した。肩を並べたアラタとツナギが構え、ヒューズが腕組みしたまま軽く鼻で笑った。

「はっ、よく言う……悪いが、そんなこけおどしに付き合う気はない」

「フン、強ガルナ」

 鬼の言葉に、ヒューズはちらりと虚空を見た。

「アラタ管理官、一歩だけ後ろに下がれ」

 ツナギがアラタに囁いた。彼女の指示にアラタは一歩、後ろへ下がる。

 ヒューズが軽く肩をすくめながら笑う。

「別に強がっているわけじゃない。残念ながら、お前の敗北は確定事項だ。なぜなら――」


「管理官権限執行、火炎球!」


 鬼の召喚した影たちが、突如現れた火炎球に飲み込まれ、爆ぜた。

 衝撃に周辺を砂塵まみれの暴風が吹き抜ける。アラタは両腕で顔を覆って、目を守った。アラタとツナギがそれまで立っていた場所まで火の手が上がり、やがて力を失ったように消え失せる。

 爆風が収まると、アラタは火炎球の飛んできた方角を見た。

 そこには己の身長ほどもある長杖に両足を乗せ、虚空に浮いている少女の姿があった。肩まである黄丹(おうに)色の髪を両端(サイド)で結び、やや釣り目がちの青い瞳が油断なく鬼を見据えている。

 少女の傍らには同じように長杖に腰かけた二人の管理官が控えていた。一人は青い髪に長く両端(フェイスライン)を伸ばした部分を藤色に染めている。もう一人は若緑色の髪に、長い両端を同じように藤色で染めていた。

「随分と遅かったな、アリス」

 ヒューズが火炎球を放った少女を見た。妙に親しげな口調だ。

「ヒューズこそ、もう来ていたのか。せっかく一番乗りだと思ったのに……」

 アリスと呼ばれた少女が腕組みをしながら尊大に言う。彼女は管理官の制服の上から胴鎧と肩当てのみを纏った軽装姿で、その胸元には第一部隊副隊長の印章が刻まれていた。以前、オギナが言っていた第十部隊から異動した第一部隊の副隊長とは彼女のことだろう。

「降りる座標地点を間違えたんですよ。おっちょこちょいですよね、アタラ副隊長ってば」

 くすくすと笑うのは青髪に長く両端(フェイスライン)を伸ばした部分を藤色に染めている青年だ。

「おい、サテナ管理官。()()()副隊長だろ。新人が混乱する」

 若緑色の髪の青年がサテナと呼ばれる青髪の青年をたしなめた。

「ああ、ごめんごめん。管理官(他人)の名前ってどうも覚えにくくて……ケイもそう思わない?」

 サテナの言葉に、若緑色の髪の青年がため息をついた。

「俺の名前は()()だ、サテナ管理官」

 二人のやり取りを尻目に、ヒューズが笑う。

「ははは、お前たち三人はいつも道に迷うな!」

「う、うるさい! ヒューズだって、よく道のない場所に一人で突っ込んで行くじゃないか!」

「俺の場合はちゃんと探査してから進んでいる」

 ヒューズは縮小魔法を解除し、大剣を構える。その表情から笑みが消えた。

 それが、合図だった。


「アリス、サテナ、カイ……あの化け物から転生者を引き離すぞ」


 ヒューズの言葉に、三人の態度が変わった。

 その口元に、好戦的な笑みが浮かぶ。

「はいは~い……新人くん? もいることだし、いいとこ見せちゃおうか! トイ!」

「カイ、だ。無駄口はいいから始めるぞ」

 ヒューズの一言で状況を理解したらしい。

 サテナとカイが即座に動いた。

 二人はブーツのつま先で、自分たちが座っていた長杖を蹴る。蹴り上げられた白い長杖が弧を描き、まるで意思を持つように二人の周囲を巡った。先端に埋め込まれた宝珠から、難解な術式が虚空に描かれていく。

 虚空に浮かんだサテナとカイが胸の前で両手を叩いた。

「管理官権限執行」

「再生封印」

 鬼の足元に、巨大な魔法陣が出現した。

「ムッ、『力』ガ抜ケテイク……?」

「さて、これはサービスだよ!」

 サテナは悪戯っぽく笑うと、パチンッと指を鳴らした。

 彼の足元に魔法陣が出現し、次の瞬間、辺り一体を透明な壁で覆った。

 空間隔離のようだ。

「フン、小賢シイ」

 鬼が地面を蹴り、サテナとカイへ一直線に向かっていく。

「危ないっ!」

 サテナとカイは術式の維持で動けない。腕を組んだまま仁王立つアリスは動かず、権限の執行には間に合いそうにない。

 アラタが右手の剣を投げようと身構えた時だった。ゴキッと鈍い音が響いた。

 目を向ければ、アリスの蹴りが鬼の顔面を捉えていた。鬼の首が変な方向へ曲がっている。

 そのまま、大きく後方へ吹っ飛ばされる鬼。

 アラタは呆然とその一部始終を眺めていた。

「ふんっ、馬鹿か、貴様は! 後方支援だからって近接戦闘が苦手なわけではないぞ!」

 アリスはニッと口元に嘲笑を浮かべた。

第十部隊(うち)の訓育でな! 戦場では後方も前線になる! 真の後方支援とは――」

 アリスは足元の長杖を蹴り、虚空で踊るように術式を描いた。

 彼女の放った光を受け、ヒューズとツナギ、アラタの武器に威力増強の補助魔法がかけられた。


「戦う同胞の憂いを断ち、戦いやすい場を整えることだ!」


「行くぞ、ツナギ管理官! アラタ管理官は転生者を保護しろ!」

「了解!」

「わ、わかりました!」

 ヒューズとツナギが同時に地を蹴る。

 ツナギが固めた拳が鬼の胴を捉え、雨のように浴びせた。最後に鬼の横腹を蹴り、ヒューズの眼前へと鬼を飛ばす。

 ヒューズは大剣を横へと薙いだ。鬼の胴に吸い込まれた刃が、鬼の身体を両断する。紫色の血が噴き出し、鬼の身体から陽炎のように揺れる健の姿が飛び出した。

「管理官権限執行、俊足!」

 アラタは健の魂を腕に抱くと、戦線から離れた。

「クッ、調子ニ乗ルナ!」

 胴を斬られてもなお、空中にとどまっていた鬼が激怒した。

 紫色の血がどす黒い炎へと変わる。

「タトエ転生者ガイナクトモ! コノ身ハ不死身――」


「さっき言っただろ? 仲間の憂いを断つと」


 アリスの周囲でクルクルと回転していた長杖の先端が鬼に向けられる。

 その青い瞳がひたりと鬼を見据えた。


「管理官権限執行、付与効果はく奪」


 鬼を覆う炎が風に吹き消されるように鎮火した。

 驚愕に顔を強張らせた鬼が最後に見たのは、大剣を振り上げるヒューズの姿だった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ