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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

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File4-8「拒絶」

「皆さまのお気持ちは理解いたしました」

 ヒューズは落ち着いた声音で言った。ゆっくりと顔を上げる。その瞳は、己を睨みつける転生者たちを静かに見据えた。

「それで今後、皆さまはどうされるのですか?」

「そんなこと、あんたには関係ないだろっ!」

 ヒューズの問いかけに男性は興奮気味(ヒステリック)に叫んだ。

「関係あります。我々管理官は異世界の神々と転生者の皆さまとの橋渡し役。もしも皆さまがこの世界に残りたいとおっしゃるのであれば、この世界を治める神さまにお話を通さなければなりません」

 ヒューズはあくまでも事務的な口調で続ける。

「でなければ、皆さまはこの世界で生きていくことができないでしょう」

「そんなことは――」

「言葉も通じないのに、どのようにしてこの世界の住人と交流するおつもりですか? この世界では魔物と人が共存する世界。魔物に関して必要な知識や備えもなしに、皆さまはどのようにして生きてゆかれるつもりですか?」

 ヒューズの問いかけに、六人の転生者たちは不安げに顔を曇らせた。

 互いに視線を交わし、押し黙る。

「なんだよ、結局は自分たちに従わないからって脅すつもりか?」

「違います。私はあくまで事実を申し上げているだけです」

 ヒューズは詰め寄る男性を見下ろし、目を細めた。

「皆さまが己の力のみで道を切り開くと言うのであれば、我らはその願いを叶えるために尽力いたします。そして、二度と皆さまの前に現れることはありません」

 ヒューズの言葉に、転生者たちはざわつき出す。

「……私は、嫌よ。こんな魔物だらけの世界で生きていくなんて」

「おい、裏切んのか!?」

 一人が声を上げ、ヒューズに突っかかっていた男性が鬼の形相で女性を振り返った。彼女は大きく肩を震わせた。しかし、キッと目元を吊り上げる。

「だって、私……平穏無事な世界でのんびり生きたいってお願いしたのよ! 今度こそ、好きな服飾の仕事に携わって、新しい世界でファッションデザイナーとしての腕を振るうんだって……!」

 女性は周囲を見回すと、涙を浮かべながら腕を振って周囲を示した。

「こんな魔物がうじゃうじゃいる場所で、素敵な服を作ったところでどうするのよ! 私が作りたいのは人間の服なの! こんな魔物たちに囲まれて生活するなんてごめんよ!」

「お、俺だって……元の世界で事業に失敗して、すべてを失ったんだ。もう一度、新しい世界でやり直したい。俺の長年の夢だった事業なんだ! 今度こそ、叶えたい。それは魔物相手じゃ成り立たないんだ!」

 一人、また一人と声を上げていく。男性はたじろいでいた。

「そりゃ、またひどい目に合わされるかもしれないって不安よ。でも、このまま放り出されても、私たちじゃ生きていけないのも事実だわ」

 女性が表情を曇らせる。

 それは冷静に状況を見定めた結果、諦めに近い感情から出した結論であった。

 アラタは女性を直視できず、顔をうつむかせる。

 管理官に任命され、異世界転生仲介業務に携わって今日まで、転生者には多くの選択肢の中から自分の進む先を選んでほしいと思いながら仕事に臨んできた。夢を語り、野望に挑む彼らを支えることにやりがいを感じていた。

 だが、やはり一番嬉しかったのは、転生者たちから頼りにされていたということだった。その寄せられる信頼は、アラタにとって己の自信に繋がっていた。

 転生者たちにとってためになる仕事をしているのだと、心からそう思えたからだ。


 悔しい……。


 アラタは拳を握りしめた。ぎゅっと目を硬く閉ざす。

 転生者たちに拒絶されるより、彼らの諦めを目にしたことの方がずっと苦しかった。


「もう二度と皆さまを放り出すような真似は致しません」


 ヒューズの凛とした声が、うつむくアラタの顔を上げさせた。

 転生者たちを真っ直ぐ見つめるヒューズの後ろ姿がひどく大きく見える。それは転生者たちを送り出す管理官として、どこまでも彼らに対して真摯に向き合おうとしている覚悟が伺えた。

「皆さまをこのような目に合わせた連中はすでに処罰されました。どうぞ、我らに償いの機会をいただきたい」

 ヒューズは再び、静かに頭を下げた。

「必ず、皆さまの想いが成し遂げられるよう、力を尽くします」

 ヒューズの想いは、転生者の女性にも届いたようだった。

 女性は硬い表情のまま頷く。

「二度は、ありません」

「心得ました」

 顔を上げて敬礼するヒューズに、転生者の男性は叫んだ。


「ふざけんなっ!」


 男性は拳を握りしめ、眦を吊り上げる。

「どいつもこいつも、悔しくはねぇのかよ! こいつらは俺たちを棄てたんだぞ!」

 男性はヒューズを睨み、拳を振り上げる。

「自分に都合のいいことばっか、言ってんじゃねぇっ!」

 顔面に迫った男性の拳を、ヒューズはあっさり手のひらで受け止める。

「くそっ……」

 顔を歪める男性を、ヒューズは静かに見下ろす。


「あなたは、何を望んでいますか?」


 男性はヒューズの腕を払うと、ダッと駆け出した。

「わっ、ちょっと!?」

 駆け抜ける男性に、ジツが慌てて声をかけた。

「待ってください!」

「来るなっ! 俺は絶対、あんたらとは関わらない!」

 集落を真っ直ぐ走り抜ける男性を、アラタは追った。

「ジツ管理官、ツナギ管理官、他の方々を頼む。オギナ管理官、追うぞ」

「はい、ヒューズ管理官」

 アラタを追って、ヒューズとオギナも駆け出す。

 転生者の男性は切り出した木材で組まれた足場へ差し掛かった。

 そこへ集落の住人の一人が両手を広げて、男性の前に立ちふさがった。

「――っ! ――っ!」

 しきりに何かを訴えている。

「何言ってんだかわかんねぇよっ!」

 男性は立ちふさがった住人を突き飛ばし、なおも直進する。

「危ないっ!」

 突き飛ばされた住人が、組まれた足場から崖の方へ落ちていく。

「管理官権限執行、俊足!」

 アラタは地を蹴り、落下する住人を空中で受け止めた。

「管理官権限執行、飛行!」

 アラタの周囲に風がまとわりつき、落下速度が減速する。

「アラタ!」

「こっちは大丈夫だ!」

 足場からこちらを覗き込んできたオギナに、アラタは虚空を蹴って上昇する。

 オギナの傍に着地すると、アラタは助けた集落の住人をそっと下ろした。

「〝君、怪我はない?〟」

 オギナがリシェラノントの言葉で集落の住人に声をかけた。

 住人は目を丸くする。

「〝俺たちの言葉がわかるのか?〟」

 それからハッと我に返った様子で、転生者の男性が走り去った先を指さす。

「〝急げ、あっちには百足蜘蛛(バイザン)の巣がある! 百足蜘蛛は子育て中で、巣に近づく奴を無差別に攻撃してくる!〟」

 住人の言葉に、アラタとオギナは顔を引きつらせた。

「ヒューズ管理官が逃げた転生者を追っている。急ごう、アラタ」

「ああ……管理官権限執行、俊足!」

 二人は同時に地を蹴る。

 木々の枝を飛び越え、転生者の男性とヒューズ管理官が向かった先へ急いだ。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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