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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
二章 管理官アラタの異世界間防衛業務

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File4-4「外勤任務」

 蟻巣亭での飲み会から五日後、アラタは少しばかり早い時間に目が覚めた。

 むくりと起き上がり、共鳴具に視線を向ける。

 時刻を確認すれば、まだ道の解放時刻前だった。

 外界に出るというだけで、こうも早く目が覚めるとは驚きだ。

 思いのほか、緊張しているのかもしれない。何せ、管理官になってこの方、一度もアディヴの地から外へ出たことがないのだ。

「……とりあえず、朝食にするか」

 アラタは頭を掻きながら、ベッドから起き出した。

 パパッと朝食を用意する。パンとミルク、サラダに焼いたソーセージだ。

 朝食を済ますと、洗面所へ足を向ける。歯を磨く間、手首にはめた共鳴具から異世界間仲介管理院のデータベースへアクセスする。虚空に映し出された連絡事項や各部署のスケジュールをチェックする。近々、異世界間連合会議が開催されること以外、これといった情報の更新はなかった。

 ナゴミ経由でアラタたちの外界任務の日程が決まったのが、ちょうど三日前のことだった。

 派遣領域はリシェラノント近郊。

 異世界間連合の中でも古参の、常任理事世界の一柱であるリシェラノント神が治める世界軸線であった。アラタたち新人管理官を三人も抱えての任務ということで、上層部が配慮してくれたらしい。リシェラノント神が治める世界は安定期に入っており、危険は少ないと判断したのだろう。

 アラタは虚空に映し出された画面を指先でつついた。

 異世界間気象観測課のデータベースへアクセスする。

 すると、虚空にいくつもの球体が無数に合わさった映像が映し出された。

 リシェラノント近郊の気象地図である。

 暗紫色に塗りつぶされた箇所はなく、橙色の穏やかな空間気圧を示している。

「さすがは誠実な女神の治める世界……安定した空間気圧だ」

 アラタは穏やかな顔で異世界リシェラノントの地図を眺める。

 一口に地図と言っても、異世界の位置を記録することは非常に困難だ。

 まず、異世界には「世界軸線」と呼ばれる無数の空間から形成されていた。

 例を挙げて説明すると、一枚の紙に印をつけたとする。その点が世界を表し、名称を点Aとする。そこへまた、別の紙に点Aと同じ場所に印をつける。こちらを点Bとする。この点Aと点Bの描かれた紙を同じテーブルの上に並べた場合、この二つの点は同じテーブル上に存在する別々の世界ということになる。これが「同一世界軸線」と呼ばれている。物理的にも時空間的にも、同じ世界軸線内に独立した別個の存在としてあるということだ。

 対して、点Aの紙をそのままにして、点Bの描かれた紙を点Aの紙の上に重ねた場合は「並行世界軸線」と呼ばれる。点Aも点Bも同じ場所に重なるようにして存在しており、座標としては変わらない。しかし、点Aと点Bの描かれた紙は別物であり、同じ世界ではない。「並行世界軸線」は同一の座標に存在しながら、空間を異にする場合に用いられる呼称だ。

 人間世界では並行時間軸線、パラレルワールドなどと呼ばれている現象に近い。

 神々や異世界間仲介管理院は世界に干渉する際、時空間を超える。同じ世界でも、時の流れがまったく違う地点に降り立てば、もはやそこは別世界という扱いなのだ。

 アラタの指先がリシェラノントの地図を拡大する。拡大を希望する並行世界軸線の座標と年月日などの入力を求められたので、本日赴く地点のものを入力した。

 すると、虚空に映し出されたリシェラノントの無数の影が消えていき、すっきりした地図が映し出される。

 アラタたちのような外部の者がリシェラノントへ赴く場合は、どうしても空間に干渉する必要が生じる。点Aと点Bの喩えをそのまま使うと、点Bから点Aへ行くために、点Bの紙に人為的に穴をあけて点Aへ行くというわけだ。

 その異世界へ通じる穴こそ、このアディヴの空を覆い尽くす光の道なのである。

 アラタは制服の袖に腕を通し、昨日受け取った支給品の防具を身に着けた。

 肩当てと胸当て、籠手と具足という簡易な鎧である。どれも「物理・魔法攻撃反射」の管理官権限が付与されていた。その上から「認識阻害」の管理官権限を付与した短い丈の外套(ケープ)を羽織る。今回は最初から武器の携帯が義務付けられているため、腰の剣帯ベルトに双剣を吊るした。同様に、腰のベルトに装着したポーチには必要な医薬品や野宿のために必要となる道具類一式が縮小魔法を用いて収納されている。

 そうして身支度を整えていると、窓の外が明るくなってきた。目を向ければ、空に光の道がかかっていく。一つ、二つとその数は増えていき、やがて数えきれない異世界への道がアディヴの地を覆っていく。

「……そろそろ、行くか」

 アラタが寮の自室を出ると、隣室のオギナも部屋から出てきた。アラタと同じように支給品の防具を身に着け、外套(ケープ)を羽織っている。ただ、オギナの場合は扱う武器が弓であることから、左腕全体が露出するように、斜めに羽織るタイプのものだった。

「おはよう、アラタ。お互い、早く目が覚めたみたいだね」

「そうみたいだな」

 オギナが指先で軽く目元をもんでいる。普段から冷静で、たいていのことには動じないオギナだが、やはり外界に出るとなると話は別のようだ。初めての任務に緊張しているのが、アラタだけでなくて少なからずホッとする。

 互いに肩を並べて、大通りへ出た。

 早朝のアディヴには、まだ人の姿はない。靄のかかった大通りを進みながら、オギナが口を開いた。

「リシェラノントの周辺は快晴だってさ。初任務が悪天候の中でなくてよかったよ」

 オギナが異世界間気象観測課のデータベースから引っ張り出した気象データを眺めながら呟いた。

「ああ、まったくだな」

 アラタも頷く。ふと前日に緊張からお腹が痛いと嘆いていたジツを思い出した。

「そういえば、ジツの所持する武器は決まったのか? 確か、封魂監での戦闘で剣はからっきしだったって聞いたが?」

「うん、まぁ……無難に杖を選択していたよ。大きさは持ち運びのことを考慮して三十センチ程度のものにしたって聞いた」

 オギナもクスッと小さく笑う。

「最後まで渋っていたよ。よほど君への憧れが強いみたいだ」

「自分に合っていない武器を無理に使用したところで、生き残れないだけだ。こだわりは捨てるべきだな」

 アラタはすました顔で告げた。

「アラタならそう言うと思った」

 オギナも心得たように頷いている。

 異世界間仲介管理院の巨大な正門をくぐると、二人は真っ直ぐ西部基地を目指した。窓口で入場手続きを取り、基地内へ足を踏み入れる。

 まだ朝の早い時刻だというのに、第一・第二訓練場では防衛部所属の管理官たちが基礎体力作りのための訓練や、実戦訓練を行っている。

 飛び交う掛け声に、アラタは養成学校時代の自主練習の風景を思い出した。

 オギナも懐かしそうに周囲を見回している。

「確か、第四方陣前だったな」

「うん、そこで簡単な職務説明を受ける予定だよ」

 アラタとオギナは長い一本道を進み、第四方陣が設置された広場に出た。

「あ、アラタさーん、オギナさーん!」

 第四方陣前にすでに到着していたジツがアラタとオギナを見るなり手を振ってきた。

 何やら打ち合わせをしていたヒューズ、ツナギ、そして見送りに来てくれたナゴミも顔を上げる。

「やぁ、おはよう! アラタ管理官、オギナ管理官」

「おはようございます、ヒューズ管理官、ツナギ管理官、ナゴミ課長」

 ヒューズの爽やかな挨拶に、アラタとオギナも管理官敬礼とともに返事をした。

「おはよう、二人とも。準備は万端かな?」

「はい、問題ありません」

 ナゴミの問いかけに、オギナがしっかりと頷く。

「アラタ管理官は?」

「問題ありません、ツナギ管理官」

 歩み寄ってきたツナギに、アラタは頷いた。

 彼女は少しだけ迷うような仕草をした後、ポーチから何かを取り出した。

「アラタ管理官、これを渡しておく」

 ツナギから受け取ったのは、青い鉱石のはめ込まれた首飾りだった。鉱石の中に魔法陣が刻まれている。その術式には見覚えがあった。

「これは帰還石ですか?」

 アラタの確認に、ツナギは腕を組んだまま頷いた。

「これは、戒めだ」

「戒め?」

 ツナギの言葉に、アラタは首を傾げる。ツナギはアラタを真っ向から見据えた。

「アラタ管理官、貴官は真っ先に危険なことに単身で突っ込んで行く傾向がある。管理官たる者、己の力量をしっかりと把握し、驕ることなく、時に仲間へ助力を乞うことを忘れてはならない」

 ツナギはアラタを見る目を細めた。

「だが、貴官は周囲に仲間がいない場合でも、危険に晒されている人を見れば迷わず助けにいくだろう。だから、命を無駄にするな」

 ツナギの言葉に、アラタは受け取った首飾りを握りしめた。

 だからこその、「戒め」ということか。

 ぶっきらぼうな言い方だったが、ツナギなりにアラタのことを気遣ってくれたのだろう。

「はい、肝に銘じます」

「ああ……」

 ツナギが表情を和らげた。

 そこへ真っ白の髪を揺らして、無表情の青年が歩み寄ってきた。

 表情の乏しい白皙の顔が僅かに口角を上げる。

「久しいな、アラタ管理官。無事、回復に至ったようで安堵している」

 ツイも紅の瞳を細め、無表情のままアラタに言った。

「おかげ様で……ご心配をおかけしました。また、ツイさんとご一緒にお仕事できて嬉しいです」

「死神も万能ではない。転生者の回収には、最終的に管理官殿たちの判断に委ねられることが多いと推察される。とはいえ、助力は惜しまない。いつでも声をかけてくれ」

 ツイの言葉は、アラタにとってひどく頼もしいものだった。

「よし、全員揃ったな! 第四方陣の起動準備が整うまで、本日の任務について説明する!」

 表情を引き締めたヒューズを前に、アラタたちは頷いた。

 いよいよだ……。

 アラタはツナギから受け取った首飾りを首にかける。

 そして、オギナやジツとともに肩を並べた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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