表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/204

File3-29「マコトとミノル」

「この度の主犯は防衛部異世界間防衛軍第一部隊隊長のタダシ元・管理官であることが捕縛した元・管理官たちの証言で明らかになりました」


 防衛部部長、ラセツが淡々とした口調で報告する。

 執務机に両肘を乗せ、手を組んだマコトは目を閉じて部下の報告に耳を傾けている。ラセツの背後にはナゴミと頭に包帯を巻いたツナギが控えていた。

「今回の一件に関わった管理官の所属についてですが……管理部、転生部、装備部より一名ずつ、召喚部より二名、防衛部より十六名の関与が確認されました。今後とも捜査を続ける上で人数が増える可能性はございますが、主犯と思われるのはその二十一名です」

 マコトは薄っすらと目を開けた。

「それで、手法については? 五千年前のものと同じか?」

「より、巧妙になったと言えましょう。転生者の魂を迷魂へと偽造し、転移方陣に能力複写の魔法陣を連結(リンク)させて異次元へ遺棄したようです」

 マコトは顔を顰める。眉間のしわがより深くなった。

「主犯格の一人、タダシ元・管理官の魂だけが回収できなかったそうだが?」

「先導者の協力の下、肉体を消失した管理官の魂も回収したのですが……タダシ元・管理官の魂だけは見つけることが叶いませんでした」

 ナゴミが口を開いた。マコトの青い瞳がナゴミに向く。

「それは、()()()()()()()()()()()ということか?」

「……おそらく」

 ナゴミの返事は歯切れが悪い。

 タダシ元・管理官が身に着けていた管理官バッジや共鳴具は跡形もなく消し炭となっており、管理部はタダシの魂を追跡できない。とはいえ、現場にあった転移方陣と連結していた魔法陣はツナギの一撃によって破壊されており、異世界へ転移して逃げたとは考えにくい。

 現状では「消滅」が最も納得のいく結果だった。

「……そうか」

 マコトはため息とともに、肩を落とした。

「……関与した管理官に対して証言をまとめ、報告するように。処罰は魂の消滅を持ってこれにあてる。他に関与が疑われる者がいないか、洗い出しも忘れるな」

「はっ!」

 マコトの指示を受け、ラセツが先に院長室を退出する。

 残ったナゴミとツナギに目を向けると、マコトは低い声で尋ねた。

「封印が解けかけたと聞いた。その後の様子は?」

「術式は組み直し、容態も安定しています。ただ……」

 ナゴミが言いよどんだ。マコトも己の額を手で押さえる。

「その解けた瞬間に、過去の記憶を呼び起こした可能性が高いな」

「ええ……転生者であった頃の記憶が引き金に、今後、封印術式が解けやすくなる可能性はあります」

 転生者の記憶は、できる限り消す。その処置には早く新しい世界に馴染んでほしいという目的の他に、転生者の人格保護の側面も兼ね備えていた。

 転生を繰り返した者は、その魂に世界の記憶を刻んでいる。その記憶の量が多ければ多いほど、『自分』という存在を見失う危険性があった。過去の『自分』の人格が、今を生きる『自分』を侵食し、やがてその膨大な記憶量に押しつぶされ、壊れてしまった転生者も多い。

 記憶とはその人を形成する重要な要素であるだけに、その扱いは慎重に行わなければならない。

 難しい顔で唸るマコトに、ツナギは口を開いた。

「アラタ管理官は暴走などしません」

 マコトの鋭い視線を受けても、ツナギは怯まない。

 むしろ、真っ向からマコトの視線を見つめ返した。

「私やナゴミ課長を始め、経験豊富な先輩管理官たちがアラタ管理官を指導しております。彼を『魔王』のような存在には、決してさせません」

 マコトとツナギはしばし睨み合った。

「ひとまず、様子を見るというのでいかがですか?」

 ナゴミが二人の間に割って入り、双方を宥める。

 マコトも息をつくと、頷いた。

「わずかな変化であっても逐一知らせるように」

「承知いたしました」

 ナゴミとツナギが院長室を辞すと、マコトは革張りの椅子に背を預けた。

 ぎしっと椅子が軋んだ音を合図に、傍らに一人の男が姿を現す。

「さて、弁明を聞こうか」

 マコトの鋭い視線が、突如姿を現した青年へ向けられる。

 栗色の髪に翡翠の瞳を持った青年は管理官の制服を身に纏い、その顔に満面の笑みを浮かべている。その表情がマコトの神経を余計に逆なでした。

「ミノル管理官、貴官は私の補佐官だ。上司である私に報告もせず、無断で異世界間連合に掛け合い、『戒律』を発行させた意図はなんだ?」

 不機嫌なマコトに、ミノルと呼ばれた管理官は口元の笑みを深めた。

「だって、報告したらマコトは止めるでしょ? それにちゃんと正規のルートで手続きして、あの人には許可はとったよ?」

「だからその前に私に一報を入れろと言っているんだ!」

 マコトは苛立たし気にダンッと机を叩いた。

「身内のことは身内で片付ける! 今回の一件でまた近々、異世界間連合より激しい非難と対策強化を促す要請が出されるだろう!」

「身内のことは、って言うけどね」

 ミノルは目を細めた。

「転生者の魂が遺棄され、それをきっかけに『魔王』が出現する事態になったんだ。もはや身内だけで解決できる問題じゃなくなっていたんだよ。それに今回だって、先導者に協力を要請して、基地内の抜け道や地下施設の存在を割り出すことができたんだ」

 ミノルの指摘に、マコトも苦い顔で黙り込む。

「今回の一件、そして五千年前の一件……どちらも裏で糸を引いているのは同じ世界の神々だ」

 ミノルは沈黙したマコトの執務机に寄り掛かると不敵に笑った。

「こちらが手出しできないことをいいことに、好き勝手してくれている。そろそろ、この辺で痛い目を見てもらおうと思うんだ」

「……尻尾は掴んだのか?」

 マコトの問いかけに、ミノルはあっさり首を振った。

「残念ながら。隠蔽工作の手腕は認めざるを得ないよ」

 でも……、とミノルの目が細められた。

「目星はついた」

「……確かな証拠を掴んだのなら、報告しろ。あまり突っ走るな。庇いきれなくなる」

 マコトはミノルから視線を外すと、黙り込む。

 ミノルの口元に微かな笑みが浮かんだ。

「せっかく口実を作ったんだ。これを機に神々の世界を堂々と家探しできるでしょ?」

「わかっている!」

 マコトが苛立ったまま叫んだ。

「例の元・転生者のことといい……頭が痛いことばかりだ」

「アラタ管理官、でしょ。彼は今、立派な管理官なのだからちゃんと名前で呼びなよ」

「巻き込んだ張本人が何をぬかすか」

 訂正したミノルを、マコトは睨みつけた。

「アラタ管理官はいい上司に恵まれたよ。僕も『ジツ』としてしばらく一緒にいるつもりだし、本人もちゃんと成長している」

「転生者に与えられる神々の加護は強力だ。力に溺れる転生者も多い。転生者の人格も、力を制御できずに飲み込まれるケースもある。気は抜けん」

 マコトは目元を手で覆うと、固く目を閉ざした。

「……賽は投げられた」

 ミノルは落ち着いた声音で続ける。

「先代から僕らが異世界間仲介管理院を託された時に、もう後戻りはできない状況だったよ」

「わかっている。でなければ、転生者を管理官になどするものか」

 マコトは目を開くと、目元を覆っていた手を握りしめる。


「異世界間仲介管理院はいずれ、絶対的中立の名の下に神々と対等の立場を確立する」


 前院長より託された使命を、マコトはミノルとともにやり遂げなければならない。

「異世界間仲介管理院はすべての魂の始点。新たな旅立ちを控える魂たちの集う場所だ。世界は神々の玩具ではなく、神々が欲する転生者や召喚者の魂も消耗品ではないのだ」

 マコトの握った拳に力がこもった。

「我々は神々の暴走を止め、道を踏み外す魂を律し、世界秩序の構築と安定を担わなければならない」

 厳然と断じたマコトに、ミノルも無言で頷く。

「そろそろ行くよ。この後、アラタ管理官を見舞いに行くんだ」

 ミノルはそう言うと、執務机に積まれた書類の束から一枚引き抜いた。

「一足先にこれ、もらっていくね」

 そう言ってひらひらと手を振り、姿を消した。ミノルの気配が院長室から遠ざかると、マコトは盛大なため息をつく。思わず頭を抱えた。

「まったく……あいつの言動には振り回されっぱなしだ」

 誰もいなくなった室内で、マコトの気の抜けた呟きだけがこぼれた。

 姿勢を正すと、執務机に積まれた書類を手に取る。

「またしばらく、忙しくなるな」

 ため息まじりに呟くと、マコトは溜まった書類に承認の判を押した。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ