File3-21「証拠」
「ひ、ひぃいぃ……た、助け……」
カダンを倒したオギナは、カトラのいる護送車へ飛び移った。
オギナを見るなり、カトラは腰を抜かしたまま命乞いをする。
そんなカトラを、オギナは呆れ顔で見下ろした。
「オギナさーん……うわっと、と」
戦いが終わったことを察したジツが、下層から上って来た。オギナたちのいる護送車へ危なっかしい足取りで飛びつく。
カトラの右手がない様子を見て、ジツが口から変な声を上げた。
「さて、お尋ねしたいことがあります。もちろん、答えてくださいますよね?」
弓を手にしたまま、オギナが穏やかに微笑んだ。
カトラの顔から一気に血の気が引く。
「も、もちろんだ! 知っていることなら何でも話す! 何でも聞いてくれ!」
カトラは何度も首を縦に振る。
オギナはジツにカトラを手当してやるよう指示した。
「さて、魔法道具関連管理課から盗んだ備品は一体何に使っていたのですか?」
ジツがカトラの右手に包帯を巻いている横で、オギナはカトラへの聴取を開始する。この期に及んで嘘をつくような度胸はないだろうが、念のため左手に持った弓をカトラの視界にちらつかせた。
「わ、私はカダン管理官に指示されただけで……」
「何に使われていたのかは知らない、と? 命を懸けて、誓えますか?」
オギナの鋭い目を前に、カトラが唇を震わせる。
「オ、鏡光石の粉末を吸光石に加工し、転生者を迷魂に偽装するよう指示された……」
カトラの証言に、オギナとジツが視線を交わす。
「その後、迷魂に偽装された転生者がどうなったか。あなたはご存知ですか?」
「ど、どこぞの次元へと飛ばされたのではないか? 詳しい場所までは知らない! 本当だ!」
カトラの必死な様子から、嘘はついていないだろう。
それでも気分のいい話ではない。
「鏡光石の粉末を吸光石に加工していた場所はどこですか? 案内してください」
オギナの指示に、カトラはふらふらした足取りで立ち上がる。
「こ、ここより上の護送車だ」
オギナたちはカトラの案内でさらに三十階分ほど上へ移動する。
浮いている五つの護送車の中の一つに案内された。
「現場発見、ですね!」
室内を見回したジツがオギナを振り返った。オギナも無言で頷く。
護送車の中には、今まで魔法道具関連管理課から横流しされた物品の数々が保管されていた。
これを見せれば、さすがの上層部も納得せざるを得ないだろう。
「よし、後はこのことを中央塔へ――」
「これは一体、何だ?」
背後で唐突に声をかけられた。
振り返ると、護送車の入り口に禿頭の男性が二人の部下を引き連れて立っていた。
全身を鎧に包み、防衛部の部長である盾の紋章を胸に掲げた男は、その鋭い視線をオギナとジツ、カトラの三人に向けた。
ラセツの姿を目にした途端、カトラが彼に駆け寄る。
しまった、とオギナが息を呑んだ。
「ああ、ラセツ部長! どうぞ私を助けてください!」
カトラはラセツに縋りつくと、負傷した右手を掲げた。
「私はあの二人によって脅され、危うく口を封じられそうになりました! あの二人がこの護送車内で転生者を迷魂に偽装し、異次元へと送り出していたのです!」
「なっ、この期に及んでなんていう嘘をっ……」
怒ったジツが口を挟むが、オギナが腕を突き出すことで止めた。
オギナの視線はラセツの動向を注視している。
ラセツも一瞬だけオギナを見据えた。
二人の視線が交錯する。
不意に、ラセツが口端を吊り上げて笑った。
オギナは訝しげにラセツを見つめ返した。
「そうか」
ラセツの低い声に、カトラがパッと表情を輝かせる。
「ラセツ部長、どうぞ私を信じてください! そして、管理官として許されざる罪を犯したこの二人へ厳罰を――」
「この愚か者がぁっ!」
カトラの台詞は、ラセツの拳骨で途切れた。
ラセツの一喝は護送車全体を震わせる。あまりの大音声に、ジツは耳を両手で塞いで顔を歪めていた。
白目をむいて沈むカトラを、拳を握りしめたラセツが冷めた目で見下ろしている。
「連れていけ」
ラセツは気絶したカトラを控えていた部下に押し付けた。
そのまま、オギナとジツに歩み寄る。
「ラセツ部長、我々は……」
「わかっている。とある筋から、知らせがあった」
オギナが説明しようと口を開くが、ラセツは心得た様子で腕を組んだ。
防衛部内で密告があったのかもしれない。
オギナもそれ以上追及しなかった。
「わしの管轄下でこのような不祥事が行われていたとは……許しがたい」
ラセツの憤りは、彼の纏う雰囲気からあふれ出していた。ラセツの怒気に当てられたジツが、全身を硬直させている。ラセツはそんなジツをちらりと一瞥し、小さく息を吐き出した。ラセツが纏っていた殺気が弱まる。
「この場は、防衛部部長のラセツが預かる。貴官らは……」
「私は異世界転生部異世界転生仲介課所属のオギナと申します」
「わ、私は装備部魔法道具関連管理課のジツと申します。ラセツ部長!」
オギナとジツはすぐさま名乗った。ラセツが静かに頷く。
「詳しい話を聞きたい。悪いがわしの部屋まで来てくれ」
「その前に、もう一人の仲間の様子を確認したく存じます」
頭を下げたオギナに、ラセツが「仲間?」と怪訝そうな顔で呟いた。
「はい。私と同じ部署に所属するアラタ管理官です。彼は私たちとは別に、迷魂に偽装された転生者が異次元へ送られたと思しき現場の捜索に動いております」
オギナの報告に、ラセツが「ああ……」と声を上げた。
「それならば心配には及ばん。すでに人を送っている」
「人を、すでに……?」
ラセツの言葉に、オギナはさすがに眉根を寄せた。
対応が早すぎやしないか。
オギナの抱いた疑念に、ラセツはニヤリと意味深な笑みを浮かべた。
「案ずるな。少なくとも、オギナ管理官。貴官とは面識のある人物だ」
そう言って笑ったラセツに、オギナとジツは思わず顔を見合わせたのだった。
Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021




