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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-19「封魂監での戦闘」


 あいつか……。

 ジツは建物の影に隠れ、二人の管理官を観察していた。

 姿隠しの魔法道具を身に着けてはいるが、管理官権限ほどの強い効果は期待できない。物陰に身を隠しつつ、ジツは魔法道具関連管理課からずっとカトラを尾行していた。

 ちらりと背後に目をやれば、鬱蒼と茂る雑木林がある。

 まさかそこに抜け道が用意されていたとは思わなかった。

 カトラは門を通ることなく、すんなりと西部基地内へ侵入し、一人の管理官と会話していた。

 目つきの鋭い男で、短い茶髪を整髪料(ワックス)で後ろに撫でつけている。

 右頬に裂傷の痕がある。そのせいで、より一層人相が悪い。

 全身を鎧で固めていることから、出陣を控えた異世界間防衛軍のどこかの部隊に所属しているのだろう。

 さすがにここからでは距離があって、胸元の所属印までは見えない。


「なぜノコノコやってきたっ!」


 カトラの姿を見るなり、右頬に傷のある男は怒鳴った。

「カダン管理官、時がない。実は……」

 共謀者の名は、カダンというのか。

 ジツは耳を澄まし、二人の会話を必死に聞き取ろうとした。

 残念ながら、二人は声量を落としてしまい、どのようなやり取りを交わしているのかわからない。

 もう少し、近づいてみるか……。

 ジツが身じろぎをすると、誰かに背後から肩を掴まれた。

「――っ!?」

「それ以上は近づかない方が賢明だね」

 ジツの後ろから、笑顔のオギナが言った。

「オギナさん!」

 ジツは暴れる心臓を押さえるように、胸に手を当てて大きく息を吐いた。

「驚かさないでください……心臓が止まるかと思いましたよ」

「ごめんごめん」

 オギナは笑顔のままジツに謝罪し、カトラと共謀者の方へ視線を向けた。

「『とにかく、今手元にある物品だけでも始末してしまおう』だそうだよ。これは当たりだね」

 ジツは目を見開く。

「あいつらの会話が聞こえたんですか?」

「いいや、口の動きを読んだだけ」

 オギナは何でもないことのように言った。

 カトラたち二人組が封魂監へ入っていく。門番たちは部外者であるはずのカトラを咎める様子がない。門番たちもカトラの仲間だろうとオギナは判断した。

「追うよ」

「え、でも……」

 オギナは雑木林の方へ歩いていき、手ごろな石を掴んだ。ジツのところへ引き返し、オギナは無造作に石を投げる。がさりと茂みが音を立てた。

「何だ?」

 封魂監を警備している門番たちの注意が茂みの方へ向けられた。皆が剣の柄に手を添え、茂みを囲むように歩み寄って来る。

「ジツ、口と鼻を覆うんだ」

 オギナが制服のポケットから取り出した球体を素早く投擲する。

 彼が放った球体は地面に叩きつけられ、ボンッと小さな破裂音を立てた。

 白煙が一瞬、辺り一帯に立ち込める。

 煙が晴れると、門番たちは地に倒れ伏していた。中には盛大にいびきをかいている者もいる。

「それは……」

「即効性の睡眠薬。自作だから、レシピは極秘だけどね」

 呆然と呟くジツに、オギナは片目を軽く瞑って見せた。

「さ、急ごう」

 オギナが駆け出し、ジツも後を追う。

 封魂監の魔法陣の上に立ち、オギナの鋭い目が頭上を仰ぐ。

 先に封魂監へ入ったはずの二人の姿が見当たらない。

 すでにどこかの護送車の中へ入ってしまったのだろうか。

 オギナの首筋に、ピリッとした痛みが生じた。

「ジツ、構えてっ!」

 目を見開いたオギナは咄嗟にジツを突き飛ばすと、己も大きく跳躍した。

 二人が今まで佇んでいた場所に、振り下ろされた刃が空を切る。

「ちっ、避けたか」

 ジツが床の上を転がり、すぐさま身を起こす。

 少し離れた位置に、オギナも着地した。

 二人の前には、カダンとカトラの姿があった。

「そんな、どうしてバレて……」

「馬鹿か、その程度の姿隠しの魔法を見破れぬようでは管理官になる資格などない」

 カトラが冷笑とともに懐から小型の拳銃を取り出す。魔力を込めることで、凝縮された魔力を弾丸として発射するものだ。カダンも抜き身で肩を軽く叩いている。

 カダンとカトラは周囲を憚ることなく武器を手にした。

 ならば、こちらも遠慮なく応戦できる。

「縮小解除!」

 オギナは懐から取り出した短剣を構えた。

「俺たちも忙しい。さっさと終わらせるぞ」

 カダンが言うなり、踏み込んだ。振り下ろされたカダンの刃を、オギナは短剣で受け止める。耳障りな金属音と散った火花が交錯した。

「来い、飛び級。経験の差を教えてやる」

「縮小解除! 僕だって負けません。アラタさんを目指してたくさん練習したんですから!」

 カトラが銃を構え、ジツも剣を正眼に構えた。

 ジツはカトラの銃弾を避けながら走り、大きく踏み込んだ。振り上げた剣がすぐさまカトラを捕える。カトラは大きく背後に跳んで、発砲する。ジツも横に跳ぶことで避けた。

 オギナはカダンと何度か打ち合い、一度大きく距離を取る。

「中央塔の管理官にしてはやるな」

「あなたの技量がその程度だということです」

 カダンの冷笑に、オギナも皮肉で返す。カダンの額に青筋が浮かんだ。

「ほざくな、小僧がっ!」

 カダンの猛攻を、オギナは確実に受け流す。

 剣筋を読み、手の中で短剣を持ち変えながらカダンの隙を伺う。しかし、そこは外界での戦闘任務が主の防衛部の管理官だ。

 オギナが踏み込もうとすればすぐさま立ち回りを変えてくる。

 潜り込む隙を与えようとしない。

 長引くと厄介だ……。

 オギナはちらりとジツを見る。

 あちらも奮戦しているようだが、武芸が苦手というのは本当らしい。

 カトラが放つ弾丸に当たらないよう避けるのが精いっぱいで、最初の踏み込み以降、攻勢に出ることができないようだ。

「おら、余所見してる場合か!」

 カダンの重い一撃に、オギナの腕が激痛を訴える。思わず顔を歪めた。

 本当、こういう時にアラタの有難さを痛感するよ。

 オギナは自嘲気味に笑うと、カダンの刃を跳ね返した。足払いをかけるが、カダンは一歩下がってやり過ごす。カダンがそのまま剣を振り下ろしてきた。オギナは床に手をついて軸とし、剣を握るカダンの手を蹴り上げることで軌道をそらした。

 素早く床を転がり、オギナは身を起こす。

 カダンも油断なく剣を構えた。

 息が上がってきたオギナとは違い、相手の呼吸は乱れない。

「さて、この事態をどう切り開くかな……」

 考えろ、とオギナは呼吸を整えながら己に言い聞かせる。

 養成学校時代の実技演習では、いつもアラタが迫りくる連中を一手に引き受けてくれていた。その間にオギナが戦況を観察し、事態をどう打開するかを考えるのが常だった。

 ジツの援護が期待できない以上、オギナはそれをすべて自分でやらなければならない。

 カダンが踏み込む。オギナは短剣で受け、時に流す。

 鋭く突き込まれた剣先を流し切れず、オギナの頬に痛みが走った。

「どうした? もう終わりか?」

 カダンの嘲笑を前に、オギナは荒い呼吸のまま口元に笑みを貼り付けた。


「残念ながら、私はこう見えて負けず嫌いなんですよ」


 オギナは短剣を握り直すと、カダンに向けて突進した。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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