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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-14「神々の戒律」

 魔法道具関連管理課の事務室での一件から数日が経った。

 あれから記録の不備が公となり、今年管理官になったばかりのジツでは過去の不正を実行することができないと改めて証明された。

 ジツは晴れて謹慎が解かれ、今日から通常通り魔法道具関連管理課に出勤しているはずである。

 今日にでも、仕事終わりにジツの復帰祝いでも行おう。事前にオギナと店の相談をして、ジツを驚かせるのも悪くない。

 久々に爽やかな心地で、アラタは普段通りの時刻に異世界転生仲介課の事務室へ出勤した。

 すると、事務室内にはすでに多くの管理官たちが顔を突き合わせていた。

 常ならぬ、異様なざわめきが事務室内に満ちている。

 アラタは人だかりの中にいた同期に迷わず駆け寄った。

「オギナ!」

「アラタ、大変だよ……」

 こちらに気づいたオギナが、即座に人の輪から外れた。

「一体、何が……」

「うん、さっきナゴミ課長の内線に連絡が来て――」

 ダンッと大きな音が事務室内に響いた。

 皆が目を向ければ、燃え上がる紅の髪がふわりと揺れる。

 己の机を叩いたツナギは、すぐさま居住まいを正した。

「本日の転生業務は一時停止とする。待魂園への知らせも忘れずに行うように。緊急会議終了後、異世界転生仲介課内にてミーティングを行う。それまで普段の資料作成などを行い、待機せよ。手の空いている者は随時、私のところへ来い。やってもらいたい業務はごまんとある」

 ツナギが流れるように指示を出し、事務室内に集まった面々を一喝した。

「管理官たる者、いかなる状況においても取り乱してはならない。各位、心するように」

 不安な面持ちこそ抜けないものの、皆が返事とともに己の(デスク)について書類を確認している。手の空いた者はツナギからいくつかの指示を受け、事務室を出ていった。

「オギナ、状況を説明してくれないか?」

「うん、なら資料倉庫へ行こう」

 アラタの言葉に、オギナも即座に囁き返した。

「ツナギ管理官、資料倉庫にある資料を取りに行ってきます。ついでに、少々あそこは乱雑さが目立って来ましたので、アラタ管理官とともに整理作業をしても?」

「ああ、構わない。……招集の際はメッセージを送る」

 ツナギが一瞬だけアラタを見たが、すぐさまオギナに頷いた。

 アラタはオギナとともに事務室を出て、資料倉庫のある廊下の突き当りまで来る。

「早朝のことだよ……」

 資料倉庫に入って扉を閉めるなり、オギナが深刻な表情で口火を切った。

「異世界間仲介管理院に、神々から戒律が下されたんだ」

「戒律がっ……!?」

 アラタの喉がひゅっと鳴った。

 戒律とは、一般的に神々が定めた心身の規律を意味する。

 神々は「神託」や「使徒」を遣わすなど様々な手段でもって「戒律」を世界にもたらす。人間界では、そう言った超次元的な現象を「奇跡」あるいは「神託」と呼ぶらしい。

 異世界間仲介管理院においては、人間界の「戒律」とは意味合いが異なる。

 神々が異世界間仲介管理院に対して「戒律」を発する場合は、抗議文や命令違反を取り締まるといった意味合いの方が近いだろう。

 異世界間仲介管理院は様々な世界の神々から形成される異世界間連合の会議上において、異世界間における事象の管理・統制を目的に創設された専門機関である。

 当然、異世界間連合に加盟したすべての世界が異世界間仲介管理院の統制下にある。

 それと同時に、異世界間連合に加盟した世界の神々が、そのまま異世界間仲介管理院の管理者という立場にある。こうしている間にも異世界間連合の加盟世界は増え続けており、異世界間仲介管理院に対する加盟世界からの圧力は日に日に強まっていた。

 オギナの話によると、異世界間仲介管理院へ「戒律」をもたらしたのは、加盟世界の中でもほんの一握りの世界の神々だそうだ。

「……戒律の内容は?」

 アラタの問いかけにオギナは一瞬だけ黙り込んだ。

「ここ最近の魔王出現が、実は異世界間仲介管理院によって行われたのではないか。つまり自作自演だったのではないかと戒律を発した神々は主張している」

 衝撃的な内容をアラタに告げた。


「はぁっ!? ふざけんなっ!!」


 アラタは資料倉庫の壁を力任せに殴った。

 ジンっと脳髄を駆ける痛みに、一瞬くらりと視界が揺れる。

 それでもアラタはオギナをまっすぐ見据えて憤りを顕わにした。

「俺たちがどれだけ神経を使って仕事してると思ってんだっ!! 一歩手段を間違えば魔王を生み出し、世界を破滅させてしまう危険だってあるんだぞ!! それをわざわざ自作自演!? 馬鹿にすんのも大概にしろっ!!」

「アラタ、落ち着いて」

 オギナの手が、再び壁を殴ろうとしたアラタの手を掴んでとどめた。

 アラタが自分の手を見れば、赤紫色に腫れ上がっている。

 加減もなしに殴った壁には無数のヒビが走り、拳大のへこみができていた。

「みんな、同じだよ。正直、俺だって君と同じようなことをしたい気分だ」

 オギナはアラタの腫れ上がった手を取り、左手をかざす。

 管理官権限の治癒を施しながら、オギナはアラタがへこませた壁を振り返った。

 壁に右手を添えると、オギナは遡行術を使って破損した壁を元に戻す。

 オギナはアラタと違って、己の中で燻る感情を上手く抑え込んでいる。

 資料倉庫で暴れたところで意味がないし、状況の改善にも繋がらない。

 アラタも頭では理解できている。それでもどうしようもない悔しさを身の内にとどめることができなかった。

「……すまん」

「いいって」

 俯いて謝罪の言葉を絞り出すアラタに、オギナは穏やかに笑った。

「だから、事務室にナゴミ課長がいなかったんだな……」

「うん、緊急会議に呼ばれた」

 オギナは乱雑とした資料倉庫の棚を見渡す。

「ジツのことで後回しになっていたけど……アラタがツイさんから聞いた、迷魂の増加と魔王の出現時期の一致について調べた方がよさそうだね。もしかしたら、今回の一件と関係があるのかもしれない」

 オギナの言葉に、アラタは頷いた。

「俺はデータベースを当たる」

「じゃあ俺は異世界間気象観測課に、魔王が出現した世界軸線での気象データの閲覧を申し入れてくるよ。迷魂の増加した区域を割り出せるかもしれない」

 二人はそう言葉を交わすと、各々動いた。

 資料室を出ていったオギナを見送り、アラタは腕にはめた共鳴具から迷魂についての資料を求めた。しかし、アラタの申請はあっさり弾かれる。

 アラタの共鳴具から、警告音とともに赤い文字が虚空に浮かんだ。

「どういうことだ……?」

 赤い文字が、明滅を繰り返す。


 ――上位権限によるアクセス事項です。資格がないため、アクセス申請は強制的に拒否(キャンセル)されます。


 アラタは再度申請を試みる。しかし、何度やっても迷魂に関わる資料へのアクセスができなかった。

「この前まで、普通にアクセスできたのに……一体、何が起こってるんだ?」

 虚空に浮かんだ赤い文字を、アラタは呆然と見つめた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2021

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