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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-10「追跡」

「……」

 アラタたちは息をひそめ、近づいてくる足音を注意深く伺った。どくどくと脈打つ自分の心臓が煩わしく、自然と眉間にしわが寄る。

 足音はアラタたちが隠れている机の傍までやってきた。

 オギナはジツの口を片手で塞いだ状態で身を固くしている。ジツもぎゅっと目を閉じ、必死に声を上げまいとしていた。アラタはゆっくりと体勢を変え、いつでも飛び出せるように身構える。

 しかし、足音はそのままアラタたちの傍を通り過ぎた。

 どうやら、奥の戸棚へ向かったようだ。

 アラタとオギナが顔を見合わせる。

 忘れ物だろうか。頼むから早く出て行ってくれ。

 アラタは祈るような気持ちで、ファイルを握る手に力を込めた。ジツはオギナに口を押えられたまま、強張った顔をアラタに向けてくる。

 これからどう動くべきか。

 ジツの目が問いかけてきた。

 オギナはじっと耳を澄まし、入ってきた人物の動きを観察しているようだった。

 アラタたちが身を隠す机と反対側、魔法道具関連管理課の課長席がある辺りで足音の主が立ち止まった。戸棚を開け、ごそごそと何かを探している。

 アラタはオギナを振り返った。彼も無言で頷く。

 明らかに、様子がおかしい。

 ちょっとした忘れ物を取りに来て、すぐに出ていくようなら明かりをつけないことにも納得はできる。しかし、足音の主は闇に包まれた事務室内で、あろうことか戸棚の資料を漁っているのだ。

 長居されてはまずい。

 アラタは焦った。

「くそっ、どうしてないんだっ!?」

 男の声が、焦った様子で吐き捨てた。

 アラタとオギナ、ジツは顔を見合わせ、自分たちの手にしたファイルを凝視した。相手の目的は、アラタたちが先程まで見ていたファイルなのかもしれない。

「ちょっと……まずいなぁ」

 オギナは苦い顔をする。

 足音の主が事務室の灯を付けようものなら、もはや言い逃れはできない。そうかと言って、ファイルを手にしたまま、事務室を出れば重要書類の持ち出しによる規則違反だ。このタイミングでは倉庫の備品を盗んだ犯人がアラタたち三人にされてしまう。

 焦る三人に追い打ちをかけるように、事務室の扉が再び軋んだ。


「おい、何をもたもたしている」


 ジツの身体が僅かに跳ねた。オギナが必死に彼を落ち着かせている。

 アラタは身を隠している机の隙間から、声を上げた人物を盗み見た。

 暗闇の中、窓から差し込む星明かりだけでは、顔を判別することはできない。しかし、先程の声といい、影の輪郭(シルエット)といい、男性であることはかろうじて分かった。

「大変だ。倉庫の帳簿やリストが見当たらない」

「ちっ……課長がもう上に提出したのか?」

 戸棚を漁っていた男の言葉に、苛立った様子でもう一人が吐き捨てる。

「あの新人のせいだ……。同僚に、何かと新人に食ってかかるヤツがいて、あいつが新人を貶めるつもりで倉庫の在庫数が帳簿と合わないことに難癖をつけたんだ」

「それで記録の洗い出しが近々行われるって話だったのか……。くそっ、余計なことを。中身を差し替えるだけのつもりが、すでにファイルがないのなら急いで次の対策を考えねば」

 男はわずかに考える素振りを見せた。

「ひとまず、お前は魔法道具関連管理課内の様子を監視しろ。些細なことも、逐次報告を入れるように。私は指示を仰ぐ」

「わかった」

 二人は短いやり取りを終えると、荒らした箇所を片付け、事務室を出ていった。

 アラタたち三人も顔を見合わせ、同時に動く。

 オギナは手にしたファイルを戸棚へ戻し、アラタは扉に張り付き、僅かに隙間を作る。遠ざかる二つの背を注意深く観察する。ジツが自分の机の引き出しから、三つの鉱石を掴み出した。

「魔法道具に使う予定の試作品です。簡易ですが、姿隠しの魔法が込められています。管理官権限を使わず、気配を薄めることができるはずです」

 ジツが差し出す鉱石を受け取り、アラタは音を立てないように事務室の扉を開けた。例の二人組はちょうど廊下の角を曲がったところだった。

 アラタは鉱石を握りしめ、先陣を切る。その後にジツ、オギナが続いた。

 廊下を早足で進んで二人組を追い、異世界間仲介管理院の建物を出る。

 二人組は、建物を出たところで別れた。

 一人は寮の方角、もう一人は西の方へ進路を取っている。

「オギナ、ジツを頼む」

「わかった。アラタも気を付けて」

 アラタとオギナは短いやり取りを交わすと、二手に分かれた。アラタは西へ向かう人物を、オギナは戸惑うジツの腕を引いて寮へ向かう方を追う。

「オギナさん、アラタさんが一人ではいくら何でも危険――」

 声量は抑えつつも、ジツは声を上げた。

「おや、忘れたのかい? アラタの武芸は養成学校時代、ずっと上位の成績だったじゃない」

 不安そうなジツに、オギナは確信を持って答える。

「アラタなら大丈夫だよ。どんな状況になっても絶対諦めないし、俺はいつも傍でそんなアラタの姿を見てきたからね」

「……はい」

 オギナに腕を引かれながら、ジツも静かに頷く。

「さ、俺たちは寮に向かうヤツの正体を突き止めることに集中しよう。ジツは今、謹慎中の身の上だから、このまま寮に戻って外出していないように装うんだ」

「オギナさんは?」

 オギナはちらりとジツを一瞥する。

 ジツの表情に、もう不安の色はない。この後、オギナがどう動くか知り、その上で自分はどうすべきか考えようとしているようだった。

 オギナの口元が笑みを浮かべる。

「全部を説明している暇はないから、この後の動きを簡単に伝えとくね」

 オギナの言葉に、ジツはしっかりと頷いたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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