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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-9「備品の行方」

「あの……僕から泣きついておいて何なのですが。本当に大丈夫なんですか? こんなことして……」


 その日の夜。

 異世界間仲介管理院の装備部魔法道具関連管理課の事務室に、アラタ、オギナ、ジツの三人は顔を突き合わせていた。

 魔法道具関連管理課の事務室は、書類よりも魔法道具関連の設計図や部品が多く転がっており、研究室と呼んだ方がしっくりくる。書類業務と技術業務の違いで、これほど事務室に特色が出るとは思わなかった。

 不安そうな顔で囁いたジツに、オギナがファイルをめくる手を止めて微笑んだ。

「まぁ、大丈夫ではないかな」

「課内の重要書類を他部署の管理官に無断で公開した上、約一名が業務命令違反……始末書で済めばいいな」

 アラタは人差し指に小さな光球を生み出し、その僅かな光源を頼りに帳簿とリストの記録を照合している。

「そ、そんなぁ……」

 ジツが眩暈を覚えたのか、床に崩れ落ちた。

「うぅ……管理官の資格をはく奪されたら、僕……親に顔向けできない」

 めそめそと泣き言を並べるジツの横で、オギナが苦笑する。

「そんなに気を落とさないで。命令に従っていい子で待っているだけだと、いつの間にか悪者にされてしまうかもしれないじゃない?」

 オギナがそうジツを励ます背景には、飛び級合格者の否が応でも直面する現実がある。

 管理官になるための道は、狭い。

 管理官試験に合格できなかった者は、それぞれの技量に応じて管理官の補佐を担うこととなる。

 最も身近な例だと待魂園や警備兵への配属が挙げられる。その他にも、商業地区による経済活動、農地開拓などの食料供給など、管理官の生活を支援し、このアディヴの地を住みやすいものとすべく拠点整備を行うのだ。

 無事、管理官試験を合格したとしても、そこは実力主義の世界。

 常に競争が繰り広げられる。

 優秀な者ほど出世は早く、限りあるポストはすぐに埋まってしまう。配属された先の上司や先輩が、己の保身のために飛び級合格者を冷遇する場合があるのはそのためだ。

 また、同期の間で飛び級合格者が真っ先に目の仇にされ、周囲が団結して排除する傾向にあるのはそういった背景が影響していた。


 俺たちも、人間(ひと)のことを笑える立場ではないな。


 アラタは無言でファイルを繰る。

 社会的な組織を形成する生物は、秩序を構成する中で必ず「排除」すべき存在を見出す。それは集団の秩序を維持するためには必要である反面、やがて凝り固まった同調意識から独裁へと暴走してしまう危険性をはらんでいた。

 ファイルを繰っていたアラタの手が止まった。

「やっぱり……」

「アラタも気づいた?」

 オギナも読んでいたファイルから顔を上げた。

「何か見つけたんですか?」

 ジツの情けない顔が二人に向く。

 オギナとアラタは同時に頷いた。

「ここ二、三年の記録を遡ってみても、納品された備品の総数と在庫数が合わないんだ。どうやら定期的に、ここの倉庫の備品や材料が微量な量を毎月引かれているようだ」

 塵も積もれば、その量は無視できない損失となる。

 ジツの証言にもあった鏡光石(オリテア)の粉末以外にも、竜捕獲用の強力な睡眠導入剤、死神の骨粉、幻惑草……他、第一級危険薬物から希少鉱石まで幅広い分野に渡る備品がなくなっている。

 アラタは帳簿へと目を向ける。

 日付に特定の法則はなさそうだ。月頭に量が減っている場合もあれば、月末、あるいは翌月に二度引かれている場合もある。

「出納先も装備部内部に限らないみたいだね」

 オギナは倉庫から備品を取り出す際につける記録表を見ながら、眉をひそめた。

「倉庫から出納した備品の使い道として、大半は装備部内部か、他部署では防衛部へ流れているみたいだ。そこから、ちょくちょくと管理部や転生部、召喚部の名前があるくらいか」

 装備部内部ならば、魔法道具の調整等で必要だと言えば言い訳が成り立つ。加えて防衛部はその職務上、戦闘参加を余儀なくされる場面も多い。部隊の安全を図るため、武器弾薬に使用する材料の提供要請はごく自然なことであった。

「直近で、装備部と防衛部以外の出納では……管理部が魔力石を請求しているね。そう言えば少し前に第二方陣の定期点検(メンテ)があったかな」

「ちょうど、異間会議で転生部が法案を提出した時期だな。転生業務を一時止めていたから、その間に前倒しで行われたようだ」

「それ以降ですと……なんで召喚部が竜捕獲用の強力な睡眠導入剤なんか要請しているんです?」

 横からオギナのファイルを覗き込んだジツが、首を傾げた。

「この日に召喚部から異世界へ召喚者の派遣が行われていれば、その行き先を調べれば自ずと理由はわかると思う。明日にでも問い合わせてみよう」

「あとは転生部(うち)についてだけど……」

 ピタリとアラタの動きが止まる。オギナも不審に思って脇からアラタの手にするファイルを覗き込んだ。二人の視線は、記録表の一点に釘付けになった。

 言葉を失った二人に代わって、ジツが無邪気に笑う。

「あ、この人、お二人と同じ部署の方ですね。異世界転生仲介課のツナギ管理官……ええっと、お渡しした品物は――」


 ぎぃっ……。


 事務室の扉が軋んだ音を立てた。

「っ!」

 アラタは光球を消し、三人は閉じたファイルを抱え込んで机の裏で身を縮めた。

 誰かが事務室に入ってきた。

 床を踏みしめる足音が、ゆっくりとアラタたちに近づいてきた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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