File3-9「消えた備品」
「ほら。少しは落ち着いたか?」
アラタが飲み物の容器を差し出す。
ジツはアラタから差し出された飲み物を受け取り、目元を赤く腫らしながら小さく頷いた。
「はい、これで目元を冷やして。放っておいたら腫れ上がって辛いからね」
オギナが水で湿らせたハンカチを差し出す。
ジツは礼とともにハンカチを受け取った。
アラタからの連絡を受け、オギナはすぐに駆け付けてきてくれた。アラタの声音から、只事ではないと察してくれたらしい。
状況を説明しようと慌てるアラタと、泣くジツを眺めたオギナは「とりあえず、ジツが泣き止んでからね」と落ち着いた調子で頷いた。
「それで、一体何があったの?」
オギナがジツの傍らに腰かけ、穏やかな声音で問いかけた。
アラタは周囲に視線を巡らせ、誰もいないことを確認する。
今のジツの様子を同じ部署の人間に目撃されてはややこしくなる。
「実は……魔法道具関連管理課が管理している倉庫があって……そこから、備品がなくなっているのが、わかったんです」
ジツは途切れ途切れに呟いた。両手で飲み物の容器を強く握りしめる。容器が軋んだ音を立てた。
オギナとアラタは眉間のしわを深める。
「備品が、なくなった?」
「それはまた……穏やかじゃないね」
異世界間仲介管理院は、異世界を行き来する様々な人・モノ・事象を管理し、世界秩序の維持のため日々奔走している。
中でもジツが所属する装備部、魔法道具関連管理課は魔法道具に関わる調査・解析を担う部署である。当然、そこで扱う部品は小さな歯車一つとっても重要な魔法道具の一部である。
魔法道具関連管理課は中央塔の西尖塔に専用の倉庫を持ち、厳重な管理体制の下、魔法道具に関わる備品を保管していた。その警備も、防衛部や管理部に次いで高い水準を誇っている。
その倉庫から備品がなくなるなど、大事だ。
「その日、最後に倉庫を閉めたのが僕だったんです。だから、先輩に事情を聞かれて、慌てて帳簿と照合したら、本当に備品が減っていて……」
「一体、何がなくなっていたんだ?」
アラタの問いかけに、ジツの充血した目が向いた。
「鏡光石の粉末です。主に魂封じに使われる、魔法道具の材料です」
声を低めたジツに、アラタとオギナは息を呑んだ。
「これは……ますますきな臭くなってきたね」
「異世界間仲介管理院の警備を掻い潜り、装備部のセキュリティを突破するのは難しい。やはり、内部犯を疑うべきだろう」
ジツも二人の言葉に頷いた。
「その先輩は僕が持ち出したんじゃないかって言って……僕はそんなことしてないっ! 僕の魂にかけて、誓う! それなのに上司もその言葉を真に受けて……寮での謹慎を言い渡されて。せっかく、念願の管理官になれたのに……こんな形で、資格をはく奪されるなんてあんまりだっ!!」
ジツはそう嘆くと、頭を抱えた。
「落ち着いて、ジツ。資格がはく奪されるかどうかは、まだわからない。物事を悲観しすぎては、目の前の状況を見誤るよ」
オギナがジツの肩に手を置いて励ました。
「物が物だけに、これは急いで調べた方が良いな」
アラタはオギナと視線を交わした。オギナも無言で頷く。
「ジツ、倉庫に保管されていた物品リストと、それらを出納した帳簿などはどこにある?」
「えっ? 魔法道具関連管理課の事務室にありますけど……それがどうかしたんですか?」
顔を上げたジツに、アラタとオギナは真面目な顔で言い放った。
「君のとこの事務室に行って」
「記録を全部洗い直す」
二人の言葉に、ジツはあんぐりと口を開けたまま、しばしその場で硬直した。
Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020




