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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-7「語らい」

「お待たせしました!」

 中央塔から駆け出してきたジツがこちらに手を振った。

 門の前で待っていたオギナが軽く手を挙げて応え、傍らのアラタは不貞腐れた表情で軽く会釈した。終業時間になってすぐ、アラタは急いで寮へ帰ろうとしたところをオギナに捕獲されたのだ。

「君がいないとジツ管理官が悲しむでしょ」

 笑顔のオギナに引きずられ、アラタは気の進まぬまま、こうして一緒に飲みに行くことになったのである。

「あの、ご迷惑でしたか?」

 ジツがアラタの顰め面を機嫌が悪いものと受け取ったようで、伺うような上目遣いを向けてきた。

 即座に、オギナが顔の前で手を左右に振った。

「大丈夫、照れてるだけだから」

「オギナ……後で覚えてろよ」

 笑顔で指摘するオギナに、アラタは不機嫌な顔を向ける。

 アラタの眼光などどこ吹く風と言わんばかりに、オギナは笑いながら歩き出した。

「嫌いなものとかある?」

 道すがら、ジツの好みを聞き出すのも忘れない。

「なんでも食べます!」

 ジツは素直にオギナの質問に答えていた。

 よかった、とジツの返答にオギナは微笑む。

 三人は異世界間仲介管理院の敷地を出ると、商業地区へ足を向けた。

 向かうは中央通りを脇道に逸れた商業地区の一角、「(あり)(のす)(てい)」だ。

 アラタがこの店に来るのは、初めて転生者の担当業務を任された時以来になる。

 それほど昔のことではないはずなのに、なぜかひどく懐かしく感じた。

 思えば、ここからアラタは立ち直れたのかもしれない。あの時、オギナが話を聞いてくれなかったら、アラタはこうして今もこの場に立って居られなかっただろう。

 自然と顔を綻ばせたアラタを、傍らのジツが不思議そうに見つめた。

「先輩? なんだか嬉しそうですね」

「ああ、ちょっと……な」

 アラタは言葉を濁して、オギナの後に続いて地下への階段を降りる。

 ジツはどこか不思議そうに後をついてくる。

「こんなところに、こんなお店があるなんて知らなかったです……」

「ここのお店、完全個室だからね。周囲の目を気にせず話をするには持ってこいなんだよ」

 前を進むオギナが店員から板を受け取りながら笑った。

 アラタは軽くため息をついた。

 ちゃんとアラタへの配慮も忘れない。悔しいが、オギナのこういうところに弱いため、アラタは彼の誘いを断れないのだ。

「アラタは照れ屋さんだから。ここなら心おきなく話せるよ!」

「俺は別に照れているわけじゃない!」

 からかうオギナの脇を小突きながら、アラタが叫んだ。

「オギナ管理官とアラタ管理官は長い付き合いなのですか?」

 個室で一息つくと、二人のやり取りを眺めていたジツがぽつりとこぼす。

 アラタとオギナは顔を見合わせると同時に頷いた。

「うん。なんせ、養成学校時代の入学式からの縁だからね」

「それからずっと、同じ学年でやってきたな」

 オギナとアラタの言葉にジツが目を輝かせた。

「まさに親友!! お二人の出会いの経緯、お聞きしても?」

「特別なことは何もないと思うが。オギナから話しかけられただけだったし」

 アラタは微妙な顔になる。

 ジツが何をそこまで期待しているのか、正直まったく理解できなかった。

 彼の無邪気な好意は悪い気がしない。しかし、この手の感情に疎いアラタとしては自分に向けられた尊敬や好意をどう受け止めればいいか戸惑うばかりだ。

「よく言うよ。入学式当日、アラタはまさに時の人だったんだから」

 オギナは満面にいい笑顔を貼り付けた。

 ジツは身を乗り出して話の続きを促す。

「アラタったらさ、入学式の当日、大幅に遅刻してきたんだよ。しかも全身泥だらけ。集まったみんなが一体何事だって目を見張ったよね。ちなみにその時、壇上で祝辞を述べていた校長が怒りのあまり失神した」

「あの校長をっ!? しかも、入学式に遅刻……はっ、まさか喧嘩ですか!? 上級生に絡まれたとか、そんな感じですか!」

 興奮するジツに、オギナは首を振った。

「それがね、学校へ来る前にお気に入りのぬいぐるみを無くした女の子を手伝っていたんだ。制服が汚れるのも気にせず、下水まで探し回ったって話だよ。感動的だよね」

「おまっ……よく覚えてるな! そんな昔のこと」

 アラタは運ばれてきた料理に口をつけ、思わずむせた。

「アラタの行動があまりに突飛だったからね。正直、俺としてはこんなに馬鹿で面白い奴、放っておけないなぁって思ったよ。直感で」

「おい、本人を前に言うことか? それ……」

「あはは、先輩は入学当初から大物だったってことですね!」

 ジツが可笑しそうに腹を抱えた。

「他にもあるよぉ。その後の初授業でのことだけど――」

「そんなことより、ジツ! 装備部の話を聞かせてくれ!」

 アラタがオギナの言葉を乱暴に遮り、話の路線を変えた。このまま放っておいてはアラタの学生時代の暴露話(黒歴史)が延々と続きそうだ。

「はい! 何が聞きたいですか?」

 アラタから話かけられて嬉しかったのか、ジツがすぐさま話題に乗ってきた。

 オギナが残念そうに苦笑している。

「えっと……確か、所属は魔法道具関連管理課だったか? 普段はどんな魔法道具を扱っているんだ?」

 アラタは話題を変更した手前、必死に頭を巡らせて質問をひねり出す。ひねり出した結果が月並みな質問になり、横でオギナがクスクス笑っている。

「僕が今扱っているのは、隠密系の魔法道具です。こう見えて、養成学校時代には隠密魔法を得意としていて、それだけはどんな人にも負けない自信があったんです」

 ジツはそう言って胸を張った。

「その才能を魔法道具として形にして、主に戦闘任務が多い防衛部や勇者支援を担う召喚部を支援するのが僕に任された役目です」

「へぇ、管理官になってすぐ魔法道具の制作業務に携わっているのか。ジツ管理官はすごいね」

「そんなことないですよ。というか……僕のことはどうぞ、呼び捨てで呼んでください。お二人は先輩なんですから」

 照れるジツに、オギナとアラタは頷いた。

「君が望むなら敬語や敬称は外すよ。ただし、君も俺たちに対して同じように接してね」

「えっ……さすがに、それは……」

「先輩っていうのもなしだ。養成学校を卒業し、同じ時期に管理官になったのなら、俺たちは同期だ」

 ジツは一瞬、呆気にとられた様子で黙った。

 それからどこかはにかむような苦笑を満面に浮かべたのだった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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