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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File3-4「やりきれない思い」

「ふぅ……迫力あったねぇ」

 封魂監を後にした途端、オギナがつめていた息を吐き出す。

 アラタも頷き、オギナの感想に同意した。

 待魂園では絶対に味わうことがない。

 こちらの力量や弱点を探るような眼に、アラタは己の左腕をさすった。

「お二人は封魂監での任務は初めてですか?」

 ぎこちない二人を気遣ってか、タダシが気さくに話しかけてくる。

「はい、今年管理官になったばかりでして」

 アラタが苦笑すると、タダシは大きく頷いた。

「ああ、なるほど。ではやや刺激が強かったかもしれませんね」

「おい、休む暇はないぞ。急いで中央塔に戻る」

 言うなり、ツナギはそそくさと歩き去っていく。

「えっ、ちょっ……先輩?」

 アラタが慌てる横で、オギナも素早くタダシに頭を下げた。

「ご協力、ありがとうございます。かの転生者への処置は後程通達が行くと思いますので、しばしお待ちください」

「え、ええ……よろしくお願いします」

 タダシも呆気にとられた様子で頭を下げる。

「急ごう」

 戸惑うアラタを促し、オギナがツナギを追った。アラタもタダシに会釈すると、駆け出す。

 ちらりと背後を振り返ると、無表情なタダシの顔がいつまでも見つめていた。

「事務室に戻ったら転生先に送る書類の作成だ」

 防衛部の門を出るなり、ツナギは追いついたアラタとオギナに言った。

 アラタは目を丸くする。

「えっ……転生先候補の精査からでは?」

「攻撃性が著しく高い魂を好んで受け入れる先は限られている」

 ツナギはアラタたちに背を向けたまま、歩みを止めなかった。しかし、今の歩調は西部地区内でのそれより幾分か緩やかになった。

「ということは当然、先程の転生者には選択権はないと言うことですね。いや、もう最初から選択肢なんてなかったようなものか」

 ツナギを追いかけながら、オギナがそうこぼす。

 異世界間仲介管理院の立場上、本人の転生先に対する要望を聞くことは義務である。となれば、封魂監の転生者にも当然、面談を行わなければならない。

 もっとも、その要望が叶えられるかは転生先の神の慈悲次第だ。

 アラタは思わず防衛部の防壁を振り返った。

 生前の世界から、見捨てられた荒ぶる魂。

 神々から見捨てられた魂を、それでも拾う神もいる。

 ただ、それが決して幸せなことではないということを、管理官の誰もが知っていた。

 案の定、異世界転生仲介課の事務室に戻り、転生先の候補に挙げられた世界を確認したアラタは表情を曇らせる。

 健の転生先に上がっていたのは、魔物が跋扈(ばっこ)する世界だった。

 転生先の候補は、家族構成、生い立ち、性癖や素行歴などの全てをまとめた上で決定される。

 健の転生先は、弱肉強食の救いようのない殺し合いの世界だ。その世界の神は戦いを好み、住民たちの殺し合いを見て楽しんでいると評判だった。

「攻撃性が著しく高い転生者の転生には更生の意味合いも強い。己が所業の不始末は己で拭うしかない」

 ツナギはペンを走らせ、報告書の最期に己の承認印を押した。

「攻撃性の強い魂には(ペナルティ)を付す。それは人殺しだけにとどまらず、窃盗、詐欺、偽造等も含まれる。まぁ、中には神を冒涜した罪もあったりするが……異世界の神々の慈悲の度合いにもよるな。基本的に情状酌量の余地がある場合に限り、その枷の重さを僅かに軽くする程度だ」

 ツナギから回ってきた報告書に目を通したオギナも、自分の名前と印を押す。

 最後に回ってきた報告書に、アラタは目を落とした。

「しかし、いくら何でも……」

 内容はえげつない。

 これを、転生する人々を送り出す管理官として承認することに抵抗があった。

 死者の裁判を司る冥界において、神々は生物に生前の罪を清算させるための処罰を下す。己の犯した罪の重さだけ責め苦を味わせ、更生させることでその魂の歪みや淀みを取り除き、神々の傍に仕える無垢なる存在として昇天させることが目的だ。異世界への転生も、あくまでその手段の一つに過ぎない。

「……不思議な話だが、そんな救いようのない世界に生まれ変わって、心残りが消える場合もあるんだ」

 ツナギの言葉に、アラタとオギナは彼女を振り返る。

 彼女は表情に影を落としていた。

 アラタは言い知れぬ不安を、胸のうちで感じる。

 ツナギが防衛部で見せた言動といい、今の彼女からは普段の強く屹然としている印象が薄れていた。まるで、ツナギの脆い部分を垣間見たような心地だ。ツナギのどうしようもなく不安定な印象にアラタは戸惑った。

 アラタの心情など知らないツナギは、無造作に肩にかかった髪を手ではらった。

「結局のところ、元いた世界で居場所も、己への理解者も得られないまま死んだ連中同士が集まった世界だ。力でもってのし上がることで、世界に認められたと満足する魂があることも事実だ」

 ツナギの言葉に、アラタは再び手元の書類に目を落とす。

 空欄になっていた場所に、自分の名前と印を記してツナギに戻した。

「本日の封魂監での業務は以上だ。報告書はこのまま上層部へ提出する。お前たちは各自の仕事に戻れ」

 ツナギはそう言って、書類を手に事務室を出ていった。

「それじゃあ、俺は午後に待魂園で面談があるから」

 オギナはうんっと伸びをすると、アラタを振り返って苦笑を浮かべる。

「アラタ、そんな顔して思いつめる必要はないからね」

 そう言って彼の手がアラタの肩に乗った。

「実際、攻撃性が強いと言っても……一度満足すると、あとは良心的な(じんかく)になることが多いらしい。ああいう手合いは、理屈じゃないんだよ」

 そう言ってファイルを手に事務室を出ていった。

「……わかってる」

 事務室に一人残ったアラタはぽつりと呟く。

 管理官の立場は、異世界間の魂の移動によって魂のしがらみを浄化し、神々が創造する世界を維持する(じんざい)の確保だ。

 管理官に、彼らの善悪を測る資格はない。

 頭では理解している。

 それでもどこかもやもやとする気持ちを、アラタは持て余していた。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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