File3-3「封魂監」
封魂監は、異世界間仲介管理院の敷地内――西部地区に設置されていた。
西部地区は異世界間仲介管理院の敷地面積の半分を占め、防衛部が管理する訓練場や管理棟などが軒を連ねている。
西部地区で働く管理官は、いわゆる荒事を専門に扱う軍の性質を併せ持っていた。
当然、人事の際は武芸に秀でた者が選出される傾向が強い。
異世界間仲介管理院の内外を問わず、恐れられる部署だ。
中でも封魂監は著しく攻撃性の強い魂を隔離している施設だ。
封魂監の転生者は、異世界間防衛軍に所属する管理官の監視の下、個別に与えられた護送車の中で転生の時を待つ形となる。
「やっぱ、中央塔と違って物々しい警護だねぇ……」
防衛部の敷地に通じる門をくぐった途端、オギナが苦笑交じりに呟いた。
高い防壁が周囲に巡らされ、その頂には返しのついた柵が取り付けられている。しかもご丁寧に、多くの管理官権限の付与が行われていた。
アラタが見る限り、「完全保護」「物理・魔法攻撃反射」「透明化無効」「探査機能付与」……他、多数の権限管理課案件のものがずらりと並んでいた。
門から伸びる一本道を挟む形で第一・第二訓練場が左右に広がり、異世界間防衛軍の寮棟や管理棟がずらりと軒を連ねている。雑木林や大きなドーム型の天井が臨める辺りには第三訓練場と操縦訓練場が設置されていた。
ここからでは見えないが、それらの建物の近くには第四方陣が備えつけられているはずだ。そのさらに奥に設置された、天まで伸びる塔が封魂監である。
「よそ見をするな、急ぐぞ」
前を歩いていたツナギが、アラタとオギナを振り返って急かした。普段以上に早足で進むツナギの背を、アラタとオギナは小走りについていく。
西部地区の奥、封魂監の出入り口には四人の門番が駐在していた。
彼らは帯剣し、胸当てや肩当てなどの軽装鎧を身に着けている。
彼らは鋭い目つきでアラタたちを見ると、左胸に拳をあてた。
戦闘時における管理官敬礼である。
ツナギも同様の礼で門番たちに返した。
アラタとオギナもツナギに倣って返礼する。
「中央塔から参りました。異世界転生部異世界転生仲介課所属のツナギ、以下二名の管理官です。この度担当する転生者は――」
「お待ちしておりました、ツナギ管理官」
封魂監から出てきたのは、完全武装した男性管理官だ。
鍛え上げられた肉体を制服に押し込み、その上から兜以外の全身鎧をきっちり着込んでいる。日焼けした顔に人好きのする笑顔を浮かべ、彼の頭に生えた狼の耳がぴくりと震えて様々な向きに動いていた。
男性管理官は外套を翻しながらツナギに歩み寄ってきた。
「私は異世界間防衛軍第一部隊隊長、タダシと申します。この度の転生者に『紅の魔女』殿が担当としていらっしゃるとは……ご高名はかねがね、お会いできて光栄です」
タダシは感激した様子でツナギを見つめている。
「紅の魔女……?」
アラタとオギナは思わず顔を見合わせた。
「とうの昔に打ち捨てた異名です。現在、私は異世界転生部異世界転生仲介課に所属する、一介の管理官に過ぎません」
ツナギは明らかに不快そうな顔で、なおも口を開こうとしたタダシの二の句を封じた。ツナギの態度に、タダシが困惑した様子で黙り込む。
「さっそくですが、転生処置者のもとへご案内願います」
ツナギの要請に、タダシは何か言いたげの様子だったがすぐに頷いた。
「こちらです」
タダシに先導され、アラタたちは封魂監へ足を踏み入れた。
封魂監は厳密には建物ではない。
中央に魔力によって移動するための「道」が設置され、その周囲を隔離された魂を封じた小部屋が浮遊しているのだ。この小部屋がそのまま魂を運搬する護送車となる。攻撃性の強い魂が脱走するのを防ぐための処置であった。
ある管理官がそんな封魂監を「積み木」と称したが、年々増加する封魂監へ隔離される護送車の多さを見れば、その例えもあながち間違いではなかった。
アラタたちはタダシとともに、地上に設けられた魔法陣の上に立つ。すると、体が浮き上がり、アラタたちは一気に三十階を優に超えた高さまで上昇した。
「管理官権限を執行する。オギナ管理官は隔離空間の形成、アラタ管理官は盗聴防止だ」
ツナギの指示に、アラタは即座に左腕にはめた共鳴具に触れる。
「管理官権限の執行要請。執行要請者はアラタ。管理官IDはXXX-XXX-XXX。権限の行使内容は盗聴防止。範囲は封魂監の敷地内です」
腕輪に青い光がまとわりつき、それが「申請中」の文字を浮かべる。
やがて、権限管理課から許諾が下り、アラタはオギナと頷き合う。
「管理官権限執行、空間隔離」
オギナが右手を頭上に掲げると、透明な膜のようなものがアラタたちと一つの小部屋を覆った。
透明な膜は即座に濁り、やがて真っ白な靄に包まれ、外界との風景を閉ざした。
「管理官権限執行、盗聴防止」
アラタも両手を胸の前で叩いた。
キィンッと鋭い音がオギナの創り出した結界内を満たし、やがて消えていく。
ツナギに目配せすると、彼女は無言で頷いた。
「管理官権限執行、物理・魔法攻撃反射」
最後にツナギがこの場にいる管理官全員に防御魔法を付与した。
「では、参りましょう」
タダシが小部屋に触れる。
するとそれまで存在しなかった扉が現れ、ゆっくりと内側へ開いていく。
アラタ達を迎えたのは、殺意に満ちた瞳だった。
それも静かな凪のような、感情の起伏によって乱れることのない殺気だ。
ごくりと、アラタの喉が鳴った。
小部屋の中には、全身を鎖でつながれた男が一人。無言で座っていた。
「多田健だな?」
ツナギがずいっと男に近づく。
「お前の転生先を精査するため、私と、背後にいる二人の管理官が担当となった。質問や要望があるならこの場で言うように」
普段と変わらず厳しい声音で言った。
しかし、目の前の転生者は微動だにしない。
むしろ、値踏みするような視線をツナギやアラタ、オギナに向けるとすぐに興味を失ったように目をそらした。
何なんだ、こいつは……。
アラタは眉を寄せた。
今まで待魂園で接してきた転生者たちとは纏う空気からして違う。
まるで、抜き身の剣先を常に突きつけられている気分だ。
「享年三十五歳、死因は行政執行による死刑。罪状は男女合わせて二十六名を殺傷。過去にも、同様の事件で死傷者が出ている。よって、死後の貴殿の扱いを異世界転生処置と決定した。ここまでで質問は?」
「……」
ツナギの問いかけに、健は無言を突き通す。というより、もはやツナギたちの存在など最初から興味がないかのような振る舞いだ。
「……ないようだな。ならば面談は以上だ。転生先が決定次第、貴殿を護送する」
ものの一分も経たない面談は、こうして終了したのだった。
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