File3-0「出会い」
「少し時間、いいかい?」
上司からそう声をかけられ、返事とともに振り返る。
すると、無言で一枚の書類を差し出された。
受け取って確認すると、一人の転生者に関する履歴が書かれていた。
「新しく担当する転生者ですね?」
わかりきったことではあったが、どうも上司の態度が腑に落ちない。
普段であれば、新しい転生者の担当通知は共鳴具経由で行われる。書類も担当となった管理官が自分で転生者調査課の窓口まで取りに行く決まりになっていた。
上司経由で回ってきた転生者の履歴書。
その意味するところは、厄介な事情が絡んでいる。
その一言に尽きた。
案の定、上司はなんとも形容しがたい表情で唸っている。
「この新しい転生者は少々、難があってね」
説明したいが上手く言葉にできずもどかしい、と言った感じだ。
「わかりました。まずは様子見も兼ねて面談を行います」
こちらがそう返答すれば、パッと上司の表情も輝く。
百聞は一見に如かず、とはどこかの人間世界の言葉だ。
面談を経た後でなら、上司への質問もしやすいだろう。
「では後程、不明点を伺いに参ります」
「ああ、わかった」
転生者の履歴をファイルに綴じ、そのまま異世界転生仲介課の事務室を後にした。
日当たりのいい公園を抜け、雑木林のトンネルをくぐる。
しばらくして、高い塀に周囲を覆われた待魂園が見えてくる。
顔見知りの門番に挨拶する。軽い雑談を交え、待魂園の門をくぐった。
「新しい担当の子の部屋は……っと、ここか」
目当ての部屋番号を見つけ、扉をノックする。
すると、部屋の中から返事がした。ノブを回して中へ入る。
「失礼します。初めまして」
室内で出迎えてくれた青年に、警戒されないよう笑顔を浮かべる。
「この度、貴方の担当管理官となりました。どうぞよろしくお願いします」
「これは、ご丁寧に」
相手の青年も恐縮した様子で、優雅な仕草で一礼する。
攻撃的ではない。むしろ、礼儀正しい。
青年の所作を観察し、受けた第一印象は好感が持てるものだった。
怯えるわけでなく、かといって状況に混乱しているわけでもない。
こちらの言動を静かに観察する様は、管理官という職業柄ゆえの親近感を覚えた。
確か、生前は貴族の令息。それも皇帝を支える敏腕宰相として名を馳せたとあった。
やはり普通の転生者と雰囲気が違うのも頷けた。
「立ち話も何ですし、おかけください」
そうして向かい合うようにして椅子に腰を下ろす。
「いきなりのことで困惑されているかと存じますが、簡単にこれからの流れをご説明しますね」
「お願いします」
青年も緊張した面持ちで頷く。
「まず、貴方は生前の世界で死に、現在この異世界間仲介管理院にある待魂園に保護されている形になります。ここから貴方は異世界への転生という形で新たな人生を歩む手続きに入ります。貴方の世界で言うところの、聖天の采配です」
ここまでは理解できますか、とこちらが確認すると、青年は即座に頷いた。
「貴方が次に生まれ変わる世界を選ぶにあたり、私のような管理官が一対一で面談を行います。そこで貴方のご要望を伺い、次の転生先の世界の神々に対し、貴方のご要望をお伝えします」
「こちらの要望ということは、世界だけでなく、能力や家柄などもこちらの意に添った形にしてくださる、と?」
「おっしゃる通りです。ご理解が早くて、助かります」
こちらが頷くと、青年は人好きのする笑顔で照れていた。
きっと生前の彼は多くの人を惹きつけ、愛されていたのだろう。
その年相応の素直さに、思わず微笑ましいと感じた。
青年と面談を続け、疑問はより一層深まっていく。
何故、この青年は「難あり」とされているのだろうか。
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