File2-24「向き合う先へ」
光に包まれた先で、一良は笑顔を浮かべていた。
足元にある方陣の魔力石や歯車が回転を速める。
「お世話になりました、アラタさん」
「行ってらっしゃい、よき人生を」
頭を下げる一良に、アラタも敬礼で返した。
光の柱が空へと昇り、無数に枝分かれする異世界への道に溶けて消えていく。
聖堂で一良の旅立ちを見送り、アラタはその足で異世界転生仲介課の事務室を目指した。
事務室にはオギナやツナギの他、課長であるナゴミと今回の一件で協力してくれた転生者調査課のアキラが待っていた。
「やぁ~、今回はみんなお疲れ様!」
ナゴミが全身で喜びを表現するように手ぶりを加えてアラタたちを労った。
「鈴木一良氏は無事、奥さんのいる世界へ転生できたわけですね」
アキラの言葉に、ツナギが頷いた。
「異間会議において、アラタ管理官のもたらした案が対策案の一つとして受理された。今後も、こういった事例において魔王発生の抑止力になるだろう」
「でもよく思いついたよね。魂が二つあれば、なんて」
「ああ……あれは、初めて担当した転生者の少女が読んでいた小説を参考にしたんだ」
オギナの言葉に、アラタは気恥ずかしい思いで頭を掻いた。
異世界間連合会議において議題として提出された「並行世界軸線による分岐処置法案」はわずかな修正内容を加えた上で可決された。
主に復讐を願う転生者と、その対象となる転生者への救済を目的とした法案だ。
復讐対象の魂が幸せになる道筋Aに対し、もう一つの可能性の道筋Bへと復讐したい側の魂を誘導する方法である。
道筋Bに進み、己の欲望をかなえた復讐者はそのまま心残りを消化する。そこへ神が復讐対象となった魂を、再び分岐点となった過去へ遡らせ、再び道筋Aへと軌道修正する処置を施す。
そうすれば双方の魂が歪む危険を避けつつ、事態を円満に納めることができる。
人間世界では並行時間軸線、パラレルワールドなどと呼ばれている現象らしい。
「とはいえ、まだまだ改善点が見受けられます。今回は転生先の神さまのご尽力があってこそ、成し得ました。ですが、今後も同じような事例が起こらないとも限りません。引き続き、経過観察をすべきでしょう」
ツナギはあくまでも慎重な姿勢を崩さない。
「それに、魔王増加に関する直接的な問題解決にはなってないですからね。今回の法案はあくまで新たな魔王誕生を阻止する応急処置のようなものです」
「そうだね。だが、確実に一歩前進はした。最近ではこの手の話が増加傾向にあるから、これからもデータを集めて精査していこう」
ナゴミも同意し、机上で腕を組んだ。
「今回の一件は、ぼくらにとっていい経験になったと思う。転生者たちが何故あそこまで復讐にこだわるのか。かつて声を上げられなかった生前の彼らの苦しみを、ぼくらは取り落とすことなく拾わなければならないって改めて思ったね」
「転生者の心残りを無くし、未練の鎖を断ち切る。それこそが、我ら管理官の存在意義ですから」
ツナギが凛然と告げる。ナゴミも無言で頷いた。
「捨てる神あれば、拾う神あり……人間世界にそんなことわざがあるらしい。困難な状況に陥り、人々に見捨てられる一方で、助けてくれる人もいるから悲観するなという教えらしい」
ナゴミは穏やかな表情で口元を綻ばせる。
「転生者たちにとって、ぼくらは『拾う神』の側でありたいものだ」
アラタたちも静かに頷く。
「人の想いも、その幸福の在り方も千差万別だ。異世界間仲介管理院が創設されたのだって、人間の死後における思想の変化、また文明の発達における価値観の多様化に対応できるようにするため。こういう変化こそ、神々が人間に求めたもののはずだ」
世界は確実に変わってきている。
神々とて、今までの運営方針では立ち行かなくなったからこそ、新たな試みを行っているのだ。
「年甲斐もなく、なんだか楽しみになってしまったよ。ぼくらが神や人と触れ合い、衝突しながらも進むその先にこそ、いつか真の楽園が見えてくると思うんだ」
「大げさですね」
「オギナくんは現実的だねぇ」
オギナは苦笑するが、ナゴミは本気の様子だ。
「もしもそうなら……」
アラタがそっと口を開いた。
「私たちの存在意義は、とても大きいということになりますね」
「そりゃそうさ」
ナゴミは我が意を得たと笑みを深める。
「ぼくらはこの仕事を通して、世界の平和維持に貢献してるんだもの。ぼくは一管理官として、そんな自分に誇りを持っている。だからこそ、どんな不利な状況でもジタバタもがいてみせるさ」
ナゴミの確固たる言葉を、アラタは羨ましく思う。
いつか、自分もそう胸を張って言える時が来るだろうか。
「さ、今日も一日、仕事を頑張ろう」
ナゴミはそう言って席を立った。皆が一斉に頷く。
「異世界転生仲介課、今日もフル稼働だ」
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