File2-23「隠される魂」
「かの管理官は一体、何者か?」
アラタたちの姿が見えなくなると、ツイはぽつりと呟いた。
「今年、管理官になった新人だよ」
ツイの背後に立った人物が答える。
姿を隠してまで、一部始終を見守っていたらしい。
ツイの両目が細められる。
「死神は、死者を冥界へ導く役目を担う。死者の魂が抱える想いを読み取ることは、我らにとって呼吸をするのと同じようなもの」
その死神が魂に刻まれた想いを読み取れない場合がある。
その主な要因は三つだ。
相手が神々からの加護を受けた勇者か、堕落した魔王、そして魔法などによる第三者からの隠蔽だ。
ツイの紅の瞳は、アラタを確かに捉えている。しかしその魂を覗こうとすると、途端に霞がかったように映るのだ。靄のようなもので覆われ、その先にあるはずの彼の心が読み取れない。
「異世界間仲介管理院に所属する管理官で、死神からその魂を隠蔽しなければならない者は今まで存在しなかった。何より、それこそが管理官たる所以ではなかったか?」
ツイの言葉はあくまで事務的だ。
それでも、どこか問い詰めるような色がその声音に滲んでいる。
「これはれっきとした、異世界間連合に対する規約違反ではないか?」
ツイの無表情が、初めて歪んだ。
「規約違反ではないよ」
背後の人物は穏やかな声音のまま続ける。
「何故なら、彼はある意味で、我々よりもずっと無垢な存在だからね」
ツイは己の背後を振り返る。
暗闇の中、長椅子に腰かけた人物の姿はただの黒い像としか映らない。それでも、ツイの瞳にはかの人物が笑っている様子がはっきりわかった。
「無垢ならば、かの者の魂を隠蔽する目的は何か?」
ツイはさらに追及する。冥界に所属する死神もまた「神」である。異世界間仲介管理院の規約違反を見過ごすことはできない。
「うーん、今は実験段階みたいなものだからね。正直、今後どうなるかは僕にもわからないかな」
ただ……、と長椅子の背もたれから身を離し、かの人物はツイを見据える。
「これだけは断言できる。まったく神々の思い通りにならなかった、という点では、彼は十分『管理官』の素質を備えていたよ」
「……そうか」
ツイは引き下がった。
これ以上は異世界間仲介管理院への干渉行為になると判断したためだ。
業務の一部を委託されているとはいえ、冥界所属の死神も異世界間連合が定めた異世界間仲介管理院への不干渉条約には従わなければならない。
それをわかっているからこそ、目の前の長椅子に座る人物はツイが引き下がることを承知で意味深な言葉を残したのだ。
ツイはアラタが歩み去った先を見つめた。
「特秘事項であるなら、もう少し慎重な行動を促すよう忠告する。今回の転生者への対応といい、かの者の魂と言い……不審を抱く者が出ないとも限らない」
ツイは目を細め、不服な様子でさらに続けた。
「少なくとも、かの管理官を覆う『アレ』だけでもどうにかした方がいい。魔法で我々からも魂を隠している様は詮索してくれと言わんばかりだ」
「貴重なご助言、痛み入るよ。折を見て、魔法をかけ直すとしよう」
ツイの助言を受け、背後に立った人物の足音が遠ざかる。
背後を振り返ると、長椅子は無人だった。
そこにはただ、暗い闇が蟠るばかりだった。
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