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管理官アラタの異世界間仲介管理業務  作者: 紅咲 いつか
一章 管理官アラタの異世界転生仲介業務

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File2-17「計画」

 あの若い管理官を追い返した日の、夕方のこと。

 一良がここ一か月の間で習慣となりつつある、園内の散歩をしていたときのことだった。

「聞いたか? 勇者招集の使徒がまた異世界間仲介管理院に来たんだって」

 一良が視線を巡らせれば、箒を片手に庭掃除している男性職員がいた。

 傍にいるのは、落ち葉などを一か所に集めて焼却している女性職員だ。

「最近は、日を開けずにやってきますね……」

 女性職員の表情が、心なしか曇る。

「いよいよ、神々もなりふり構わずって感じだな」

「魔王の出現が増え、世界の均衡が崩れつつある一方で勇者は深刻な人手不足。やはり、異世界間仲介管理院としても、見過ごせない事態にまで陥っているということなのでしょう」

 そこで女性職員が不安そうに、男性職員を振り返った。

「まさか、勇者への転生を希望していない人の魂まで連れて行ってしまうことはありませんよね?」

「それはさすがにないよ」

 男性職員は首を横に振った。

「そりゃ、今まで以上に素質のある魂への打診は増えるかもしれないけどさ。勇者に選ばれるためにはまず、神の使徒に認められなきゃならない。その試練もまた、大変だって話だ。ある程度の胆力や精神力がないと、転生したところですぐ魔物たちの餌だ」

 彼は厳しい現実を口にする。

「まぁ、でも転生者ならその辺の事情も加味されて、様々な能力を加護としてもらえるだろうからね。そうなりゃ、一躍世界の英雄さ」

「使徒さまはいつまでご滞在なのかしら? しばらく、召喚部へは行けないわね」

 一良は二人のやり取りを聞き終えると、何食わぬ顔で待魂園の自室に戻った。

 待魂園の見取り図を確認しながら、指先で机を叩く。

 転生者が一人で園外に出ることは禁止されている。

 仮に自由に出歩けたとしても、広大な異世界間仲介管理院の敷地だ。迷子にでもなったらそれこそ探し出すのに一苦労なのだと、以前園長がこぼしていたのを聞いたことがある。

「召喚部があるのは東の区画だと以前聞いたな。この地図だとわからないが、待魂園から出て東の方角を目指せば辿りつけるか」

 待魂園は真南に設置されている、とあの若い管理官から聞いている。

 ということは、方角だけの単純な話なら待魂園を背に東へ進めばいいだけのことだ。

 トンッ、と一良の指が机を小突いた。

 土地勘のない場所で、行動を起こすには抵抗があった。それでも、今回ばかりは早めに行動を起こさなければならない。

「この機会を無駄にはできない」

 すでにここへ来て一か月以上が経っている。

 さすがの一良ももう我慢の限界だ。

 先程、追い返した若い管理官の様子を思い返す。あの様子では、一良の要望をすぐに上へ通すことはしないだろう。なんとか一良を説得しに、再びこちらを訪れるかもしれない。

 何度来ようが、一良の決断は変わらない。

「やはり、任せておけん。自分で動かねば」

 一良は室内にある替えの寝具を丸め、紐でくくり始める。

 ちらりと窓の外へ目を向ければ、すでに薄暮の空が眩い星の光に覆われていく。

「急いで準備をしよう」

 一良はまとめた寝具をベッドの上に乗せ、そこへ上掛け布団をかぶせた。

 再び部屋を出た一良は、園内の壁沿いを注意深く観察しながら庭を歩き回る。

 すると、門から少し離れた場所に、壁が僅かに出っ張った箇所があった。

 壁を作る際、職人が足場として用いた出っ張りだろう。

 一良は出っ張った煉瓦に手をかけ、体重を乗せてみる。

 崩れる様子はない。

 一良でも気をつければ、上り下りできる余裕がある。

 門番のいる方角を確認する。

 確か見張りの交代は転生者たちが寝静まった後だ。

 そこを見計らえば待魂園を脱出できるだろう。

 一良は口元に笑みを浮かべると、何食わぬ顔で園舎に戻っていった。

Copyright(C)Itsuka Kuresaki 2020

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